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陳舜臣が阪神淡路大震災の時に遺した格言(直木賞作家)[今週の防災格言372]

time 2015/01/26

陳舜臣が阪神淡路大震災の時に遺した格言(直木賞作家)[今週の防災格言372]


『 私たちは地震で命を奪われた人たちのことを忘れてはならない。
直接ではなくても、この年の心労で命を縮めた人も多いのである。 』

陳舜臣(1924〜2015 / 小説家 代表作『青玉獅子香炉(直木賞)』など)

阪神淡路震災の前年(1994年)8月10日、宝塚歌劇八十周年記念行事(宝塚バウホール)の基調スピーチ直後に脳内出血で意識を失った。神鋼病院に5ヶ月間入院し、翌1995年1月13日に退院し神戸市六甲の自宅に戻ると、その4日後に大地震が発生する。

曰く―――。

《 地震の話をするたびに、脳内出血でたおれた話をつけ加えなければならない。地震の話になると「そんなわけで、なんのお手伝いもできず申し訳ない」と、頭を下げている。
地震のとき何をしていたかときかれると、「横になっていた」と、答えるしかない。多くの人が体験を語っているが、退院したばかりの、あまり体をうごかせない人間の話も、きいてほしいと思う。もどかしいのである。
《中略》
家のなかは惨澹たるものであった。ガラスのかけらが散らばり、靴をはかなければ家のなかは歩けない。書架が倒れて、書斎のドアは開かない。どうせ私は階下へ行けないので、しばらく、横になっているしかなかったのである。
《中略》
こうして地震の年はすぎた。苦渋の日々からはじまったが、しめくくりはまずはお目出度いことであった。だが、私たちは地震で命を奪われた人たちのことを忘れてはならない。直接ではなくても、この年の心労で命を縮めた人も多いのである。
すこしのちのことだが、瀬戸内寂聴さんやドナルド・キーンさんたちと、この一千年の世界の十大事件を選考したことがある。そのとき、瀬戸内さんは『源氏物語』をぜひ入れるべきだと主張された。一千年とか世界十大事件といっても、やはり個人の経験が中核になるのだと痛感した。そのとき私なら「阪神大地震」を入れるだろうと思った。死亡者の数からいえば、関東大震災のほうがはるかに多いが、それは私の生まれる前年のことで、私の体験したものではない。
おなじ犠牲者の数からいえば、戦災のほうが多いが、空襲は「来るぞ、来るぞ」と前から言われていたのである。とつぜんの大災厄であることにかけては、これにまさるものはないであろう。記録の方法にかけては、格段の進歩をとげた現在である。くわしく記録すべきであろう。私のような療養中という特異なケースで、なんの役にも立たなかったことで、遠慮している人たちもいる。そういう人も声をあげるべきだと思う。 》

格言は『作家たちの大震災 1995.1.17(月刊神戸っ子・小泉美喜子 2001年)』収録の書きおろし『ため息つきぬ』(2000年11月22日)より。

陳舜臣(ちん しゅんしん)は、『阿片戦争』『秘本三国志』『太平天国』など中国の歴史小説で知られる作家。兵庫県神戸市元町生れ。祖父の代に台北市(台湾)から神戸に移住、大阪外国語学校(現大阪大学)で研究者をめざしたが、日本敗戦により日本国籍を失ったため国立大学に任官できなくなり、1946(昭和21)年に台湾へと渡り、台北県新荘中学の英語教師を務めた。1947(昭和22)年、蒋介石・中国国民党政権が台湾の民衆を弾圧し数万人が亡くなる2・28事件に遭遇。1949(昭和24)年に神戸に帰国し、家業の貿易業をする傍ら、推理作家として『枯草の根(1961年)』で第7回江戸川乱歩賞を受賞し文壇デビュー。1969(昭和44)年の『青玉獅子香炉』で第60回直木賞受賞。『阿片戦争(1967年)』『小説十八史略(1977-83年)』など中国の歴史を題材としたロングセラー作品を多く手がけた。また、小説の他に『中国の歴史(全15巻 1980-83年)』などの史書や『敦煌の旅(1976年 大佛次郎賞)』『シルクロードの旅(1977年)』など紀行、翻訳詩集『ルバイヤート(2004年)』、評論・随筆など多数執筆。1973(昭和48)年に中華人民共和国(中国)の国籍を取得したが、1989(平成元)年の第二次天安門事件(六四天安門事件)への批判を機に《国境のない時代への希望》を込め、1990(平成2)年に日本国籍を取得。2015(平成27)年1月21日に満90歳で没。亡くなったのは午前5時46分、奇しくもちょうど阪神淡路震災の起きた時間であったという。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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