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中島敦(1909~1942 / 小説家 代表作『山月記』『光と風と夢』)の著書『悟浄出世』の教訓についての名言 [今週の防災格言519]

time 2017/12/04

中島敦(1909~1942 / 小説家 代表作『山月記』『光と風と夢』)の著書『悟浄出世』の教訓についての名言 [今週の防災格言519]


『 教訓を、缶詰にしないで生のままに身につけること。 』

中島 敦(1909~1942 / 小説家 代表作『山月記』『光と風と夢』)

格言は西遊記の沙悟浄を主人公にインテリの苦労を描いた小説『悟浄出世』(昭和17年)より。
認識に毒された主人公・悟浄の得た教訓から。

曰く―――。

隣人愛の教説者として有名な無腸公子(むちょうこうし)の講筵(こうえん)に列したときは、説教半ばにしてこの聖僧が突然饑(うえ)に駆られて、自分の実の子(もっとも彼は蟹かにの妖精ようせいゆえ、一度に無数の子供を卵からかえすのだが)を二、三人、むしゃむしゃ喰べてしまったのを見て、仰天した。
慈悲忍辱(じひにんにく)を説く聖者が、今、衆人環視の中で自分の子を捕えて食った。そして、食い終わってから、その事実をも忘れたるがごとくに、ふたたび慈悲の説を述べはじめた。忘れたのではなくて、先刻の飢えを充たすための行為は、てんで彼の意識に上っていなかったに相違ない。ここにこそ俺の学ぶべきところがあるのかもしれないぞ、と、悟浄はへんな理窟(りくつ)をつけて考えた。俺の生活のどこに、ああした本能的な没我的な瞬間があるか。渠(かれ)は、貴(とうと)き訓(おしえ)を得たと思い、跪(ひざまず)いて拝んだ。いや、こんなふうにして、いちいち概念的な解釈をつけてみなければ気の済まないところに、俺の弱点があるのだ、と、渠は、もう一度思い直した。教訓を、缶詰にしないで生の儘(まま)に身につけること、そうだ、そうだ、と悟浄は今一遍、拝(はい)をしてから、うやうやしく立去った。

中島 敦(なかじま あつし)は、1909(明治42)年5月5日、東京市四谷区箪笥町(現・新宿区三栄町)に生れる。父親は中学の漢文の教師、祖父は亀田鵬斎門下の漢学者である。
幼くして両親が離婚、父の転勤もあり、埼玉、静岡、朝鮮と学校を転々とし、父の再婚により二人の継母に育てられた。
1926(大正15)年、朝鮮・京城中学校を卒業すると帰国し、第一高等学校(旧制)入学を経て、1933(昭和8)年、東京帝国大学国文学科を卒業する。大学院へと進学するが間もなく退学。
1933(昭和8)年4月より私立横浜高等女学校(現・横浜学園高等学校)に国語と英語の教師として赴任しながら、多くの作品を執筆。
1934(昭和9)年に『中央公論』新人号に応募し『虎狩 (1934) 』が選外佳作となる。
1941(昭和16)年、教科書編纂掛としてパラオ南洋庁に赴任。1942(昭和17)年3月、戦争の激化により南洋庁を辞職し、帰国して専業作家生活に入る。深田久弥(登山家、作家)の推薦で『山月記』を含む『古譚(1942)』、続けて『光と風と夢』を『文學界』に発表、後者は芥川賞候補となり活躍が期待されたが、持病の気管支喘息の悪化のため同年12月4日、東京世田谷の病院で死去。33歳。
没後、遺稿『李陵』『弟子』が発表され、1948(昭和23)年、中村光夫、氷上英廣らの編纂で『中島敦全集』が刊行され毎日出版文化賞を受賞。
以後、国語教科書に『山月記』が掲載され広く知られるようになった。
作家 中島敦

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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