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田辺聖子(1928~2019 / 小説家 阪神淡路大震災で罹災)が伊丹市の自宅で大地震に遭遇した際の名言 [今週の防災格言599]

time 2019/06/17

田辺聖子(1928~2019 / 小説家 阪神淡路大震災で罹災)が伊丹市の自宅で大地震に遭遇した際の名言 [今週の防災格言599]

『 一瞬の間だがずいぶん長く感じた。 』

田辺聖子(1928~2019 / 作家 阪神淡路震災では伊丹市の自宅で被災)

阪神淡路震災の前夜は親戚と会食をし、伊丹市の自宅で就寝中に大きな揺れに遭遇した。

曰く―――。

激震で目がさめ、ベッドで起きようとしたが、転倒して姿勢が保てない、縦ゆれ横ゆれ、両方来た。寝室はがらんどうであまりモノはないから助かったが、このとき家じゅうの棚(作りつけ)の戸はみな開き、ガラス類陶器類は壊れ、書庫の本は散乱していたのだ。(更にいえばこのとき高速道路は崩落し、十万の家屋が倒壊して火の手があがり、ビルがひしゃげ、瞬時に人が埋まっていたのである)そのゆれかたの、えげつないことといったら。
―――自然はユーモアを解しない、とゲーテだったかいったが、(そんな、アホな……)と自然に抗議したくなるほど、人間の感覚の許容範囲を超えた無茶苦茶なゆれかただった。人間の無力、矮小性にうちひしがれる、というような認識はずっとあとのこと、直下型地震にゆすぶられている最中は、(そんな、アホな……じょ、冗談じゃない、うそっ)
とうろたえているだけだ。一瞬の間だがずいぶん長く感じた。やっとおさまり、蝋燭をともして家じゅうを見廻る。逃げ道を確保するため玄関のドアを開けておこうと思ったのだが、真っ先に仕事部屋を覗くと、長大で重い書架がみごとに倒れ、本が散乱、私の机はその下敷きになっていた。本箱も転がり、資料棚二つはこれも前へ倒れて足のふみ場もない。たぶん仕事をしていたら、書架や本に直撃されていたことだろう。そのときはショックで鈍ったあたまにそれほどのことと思わず、あとになるほど怖さが骨身にしみてきた。それを私は震災後遺症というのである。こんど亡くなられたかたがたやもっと酷烈な体験を強いられたかたにくらべれば軽微な被災であるが、しかし一瞬の偶然で無事だったという恐怖はのかない。

毎日新聞夕刊(1995年2月8日)『再建支える女の元気~空襲と違って男手もある』より。
(出典:「作家たちの大震災 一九九五・一・一七」(月刊神戸っ子 2001年))

田辺聖子(たなべ せいこ)は、1928(昭和3)年3月27日、大阪市で写真館を営む家庭に生まれる。淀之水高等女学校、樟蔭女子専門学校(現大阪樟蔭女子大学)国文科卒業後、大阪の金物店に勤務の傍ら、小説を同人誌に発表。1956(昭和31)年に『虹』で大阪市民文芸賞。以降、本格的な作家活動をはじめ、1958(昭和33)年の『花狩』でデビューした。1964(昭和39
)年、女性放送作家と共産党員の恋を描いた『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)』で第50回芥川賞を受賞。人気女性作家として、恋愛小説や社会風刺、エッセイなど数多くの執筆活動を行なった。
1987(昭和62)年の『花衣ぬぐやまつわる……わが愛の杉田久女』で女流文学賞、1993(平成5)年に小林一茶の生涯を描いた『ひねくれ一茶』で吉川英治文学賞。1994(平成6)年、第42回菊池寛賞。1976(昭和51)年より大阪府伊丹市に暮らし、1995(平成7)年1月17日の阪神淡路震災を経験し、翌1996(平成8)年に随筆『ナンギやけれど…わたしの震災記』を発表。
1998(平成10)年の『道頓堀の雨に別れて以来なり:川柳作家・岸本水府とその時代』で第26回泉鏡花文学賞、第50回読売文学賞。2003(平成15)年『姥ざかりの花の旅傘』で第8回蓮如賞。
2006(平成18)年~2007(平成19)年には自身の半生がモデルになったNHK朝の連続テレビ小説『芋たこなんきん』(主演・藤山直美)が放送された。
1995年、紫綬褒章。2000(平成12)年、文化功労者。2008(平成20)年、文化勲章受章。
2019(令和元)年6月6日、神戸市内の病院にて死去。91歳。


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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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