思則有備(しそくゆうび)思えばすなわち備えあり

防災意識を育てるWEBマガジン

西川杏太郎が阪神淡路震災の時に残した格言(美術史家)[今週の防災格言474]

time 2017/01/16

西川杏太郎が阪神淡路震災の時に残した格言(美術史家)[今週の防災格言474]


『 昔の知恵はばかにできない。 』

西川杏太郎(1929〜 / 美術史家 東京文化財研究所名誉研究員)

阪神淡路震災は、日本の美術館や博物館の現状を露呈した災害でもあった。
ヨーロッパでは、所蔵品が自国の文化・精神の結晶体と考え都市文化の背骨となる一方で、日本の公立美術館は、ミュージアムが自治体の一施設にすぎない。

兵庫県立近代美術館では阪神淡路震災の当日(1995年1月17日)、学芸員3人を含む7人がかけつけ、転倒・破損した彫刻を収蔵庫に運ぶなどの作業に追われた。展示作品の撤去や収蔵庫の整理は以後数日にわたって続けられたが、余震に備えて彫刻を縛ったり、盗難防止のため作品を隠すなどに手間どり、すべての被害をつかむまでに3週間かかったという。

ただ、自館の復旧に取り組めた館はいい方で、神戸市立博物館では、11人いる学芸員は避難所勤務に動員されたため、しばらくの間、壊れた展示品が放置されていた。
西宮市大谷記念美術館の場合は、被災者の避難所となったため、1995(平成7)年6月4日まで、ピーク時で350人の被災者が館内に寝泊まりした。
兵庫県立近代美術館では、地震の翌日、館を遺体置き場にしたい、という県からの要請を受けた(実際には館が危険な状態だったため断らざるを得なかった)という。

災害時の学芸員の本来の仕事は「自館の資料保全」であることから「それをほったらかしにするのはクレージーだ」と海外の学芸員から非難されたという。

この震災を契機に、「見せる(企画展示)」に走ってきたこれまでの運営から、作品保存や安全な展示のあり方を見直す動きがでてきた。
絵の壁へのとりつけ方、彫刻を安定させる方法など、ちょっとした工夫で被害はもっと軽く済んだのではないか、との反省があるからだという。

震災半年後の夏、文化庁で、被災データを分析し、その対策マニュアルをつくる目的で、学識経験者で構成する「文化財の防災に関する調査研究協力者会議」が発足され、座長には西川杏太郎が就任する。
そして、2年後の1997(平成9)年6月、収蔵・展示・緊急処置の三点について書かれた防災指針『文化財(美術工芸品等)の防災に関する手引』が刊行されることとなる。

格言は読売新聞(1995(平成7)年9月26日朝刊)の記事「文化財:保存・展示に反省点」より。

曰く―――。

《 仏像など古い美術品の被害は思ったほどひどくない。やられたのは江戸以降に修理が加わった作品が多く、それ以前の作では台座に心棒が入っているなど構造がしっかりしていた。昔の知恵はばかにできない。私の博物館勤めの経験から言っても、ガラスケースのなかはクロス張りと板に限るとか、器物はなかに鉛玉を入れて安定させるなど先人の工夫は見直さなければならないと思う。
しかし米国の美術館から日本には震災対策のマニュアルがないと指摘されればもっともなので、今年は現場の生の声とデータをできるだけ集め、来年にはその分析にかかりたい。被災の代償は大きいが、震災の記憶が風化しないうちに対策をまとめていきたい 》

西川杏太郎(にしかわ きょうたろう)は、日本彫刻史、文化財保存学を専門とする美術史家。「書の巨人」と謳われ、書家として初の文化勲章受章者となった西川 寧(にしかわ やすし / 1902〜1989)の息子として東京都墨田区向島に生まれる。
旧制・東京中学校(現東京高等学校)を卒業後、昭和20(1945)年春、慶應義塾大学文学部予科に入学。東京空襲により中学は全焼したため卒業式はなし。大学も日吉キャンパスが帝国海軍に接収され入学式はなかったという。
旧制大学最後の卒業となる昭和25(1950)年9月に大学を卒業すると、翌年、文化財保護委員会(現文化庁)入りし、文化財保護部美術工芸課長、文化財調査官、東京国立博物館次長を経て、昭和62(1987)年に奈良国立博物館館長及び東京国立文化財研究所長となり、東京芸術大学客員教授を歴任。
退官後は、横浜美術短期大学学長、神奈川県立歴史博物館館長を歴任。平成25(2013)年より日本美術院から独立し国や行政の依頼で国宝、重要文化財などの修理を行う「公益財団法人・美術院 国宝修理所」の理事長に就任。
平成14(2002)年、勲二等瑞宝章を受章。主な著書『日本彫刻史論叢』など。

■「阪神淡路大震災」に関連する防災格言内の記事
遠藤勝裕 (震災時の日本銀行神戸支店長)(2017.05.15 防災格言)
実業家 瀬島龍三 (伊藤忠商事会長)(2017.02.13 防災格言)
余禄(毎日新聞 1995年1月18日朝刊)より(2016.01.18 防災格言)
天声人語(朝日新聞 1995年1月27日朝刊)(2009.01.19 防災格言)
兵庫県知事 貝原俊民(2014.11.01 防災格言)
牧師 草地賢一(2011.08.29 防災格言)
FEMA長官 ジェームズ・L・ウィット(2010.01.11 防災格言)
気象庁長官 和達清夫(2007.12.03 防災格言)
防衛事務次官 依田智治(2007.12.10 防災格言)
美智子皇后陛下(2010.10.18 防災格言)
政治家 後藤田正晴(2010.11.29 防災格言)
政治家・村山富市(2007.12.31 防災格言)
政治家・池端清一(2008.01.07 防災格言)
政治家・鳩山由紀夫(2009.08.31 防災格言)
東京都知事 鈴木俊一(2008.10.13 防災格言)
元社団法人・全国産業廃棄物連合会技術部長 高橋壽正(2012.01.16 防災格言)
建築学者 早川和男(2014.06.16 防災格言)
作家 司馬遼太郎(2015.01.12 防災格言)
推理作家 斎藤栄(2014.03.03 防災格言)
指揮者 朝比奈隆(2014.03.10 防災格言)
指揮者 岩城宏之(2008.02.18 防災格言)
作家 筒井康隆(2013.02.18 防災格言)
作詞家 阿久悠(2013.06.17 防災格言)
放送作家 藤本義一(2011.01.17 防災格言)
作家 小松左京(2011.08.01 防災格言)
(2013.07.29 防災格言)
作家 藤原智美(2013.08.12 防災格言)
作家 陳舜臣(2015.01.26 防災格言)
映画監督 大森一樹(2013.04.08 防災格言)
ニュースキャスター 筑紫哲也(2009.09.21 防災格言)
作家 伊集院静(2012.02.27 防災格言)
映画監督・白羽弥仁(2008.01.21 防災格言)
将棋棋士・谷川浩司(2013.03.04 防災格言)
医師・西村明儒(2009.12.21 防災格言)
落語家・六代目 桂文枝(桂三枝)(2015.01.19 防災格言)
プロテニスプレーヤー 沢松奈生子(2008.1.14 防災格言)
MLB選手 イチロー(2013.08.26 防災格言)
中内功・ダイエー創業者(2009.09.07 防災格言)
本田宗一郎・ホンダ創業者(2012.12.31 防災格言)
秋山富一・住友商事会長(2013.09.02 防災格言)
領木新一郎・大阪ガス元会長(2008.11.03 防災格言)
久我 徹・博報堂関西支社長(2009.04.06 防災格言)
元台湾総統 李登輝(2015.07.13 防災格言)
ラジオパーソナリティー 永六輔(2016.07.18 防災格言)
科学評論家・元NHK解説委員 村野賢哉(2016.08.08 防災格言)
阪神淡路震災より18年(2013.01.17 編集長コラム)

 

<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

[このブログのキーワード]
防災格言,格言集,名言集,格言,名言,諺,哲学,思想,人生,癒し,豆知識,防災,災害,火事,震災,地震,危機管理
メルマガ登録バナー
E-mail
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ