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松山敏(松山悦三 / 編集者・詩人)が関東大震災後に書いた「人を救ふ心」より[今週の防災格言553]

time 2018/07/30

松山敏(松山悦三 / 編集者・詩人)が関東大震災後に書いた「人を救ふ心」より[今週の防災格言553]

『 物質的に人を救うことは、その人の境遇と心持とで、割合に至難なことでもないが、精神的に救うことは、なかなか一朝一夕にはむずかしい。 』

松山 敏(1893~没不詳 / 編集者・詩人 出版社「人生社」を経営)

曰く―――。

《 救われる人間にも、種々な性格の所有者があれば、救う方の人間にも亦(また)、種々の異なる性格の持主があるのだから、救われる魂と、救う魂とが、融合一致するということは、滅多にないと言っていいくらいだ。

例えば十人の中、三人までは魂と魂とが触れて、心と心とが相通ずる位に、対手(あいて)の心持を解していても、何(ど)うかすると隙が出来てくる。

そうした場合、何(ど)うしても救うべき人は、絶対に対人的な心持を捨てて、すべてを神にささげる気持で、救う心を持たねばならぬ。》

格言は著書『生きんが為に(1926年)』の「人を救ふ心」より。

松山敏(まつやま さとし 本名:松山悦三)は、1893(明治26)年4月2日、宮崎県の “辺鄙な片田舎” で7人兄姉弟の6番目に生まれる。
祖父は村長を長く務めた人物だったが、父母の家は貧しかった。そのため、6歳のとき、一番上の姉に連れられて郷里をでてから18歳まではほとんど一家は離散状態だったという。このとき父は2番目の兄とともに他県へ赴き、母は実家へと移り、二人の姉は知らない他郷で暮らしたという。
小学校にあがってからは、家計を助けるため通学の合間を利用して豆腐売りをし、中学へ進学すると教会を通じて紹介された外国人の家で働きながら英語を学んだ。その後、ミッションスクールへと転校し、 1930(昭和5)年に36歳で東京外国語学校(後の東京外国語大学)を卒業したという。
東京へでて神田の金星堂の編集者を経て、1921(大正10)年に文芸雑誌『人間(東京玄文社)』の編集長を務め、多くの文豪らと交友した。この頃結婚し、長崎村(現・東京都豊島区)に暮らし、のちに二人の娘をもうけた。叔父の援助で出版社「銀皿社」を開業し、松山敏名義で詩集や詩の翻訳などの出版を行うが、間もなく会社は潰れ、1923(大正12)年に武蔵野郊外へと一家は引っ越しをした。ここで関東大 震災(1923年9月1日)を体験する。

震災当時の様子を以下のように手紙にしたためている。

曰く―――。

《 震災の中から逃れ得た人たちの多くは、あの当時殆んど明日の生命をも保証することの出来ないほど、不安な状態にゐたことだけは申し上げて置きたいのです。

殊に幾日も幾日も余震と、それからそれへと伝へられた暴動の為めに、幾夜も寝なかった多くの人達には全く生きてゐるよりも、震災で死んだ方が幸福なやうに思はれたこともあった位でしたから。

けれども日を経るに従って、生き得た人々の喜びは悲惨を見聞するにつれて、無上の喜びを感じました。そして一日も早く自分達の無事な姿を自分達の身を案じて呉れてゐる人々に見せて、共に生き得た喜びを分ちたいと思ひました。同時に自分達の安全な地上の住家を求めたのでした。

そこで漸く徒歩連絡で、汽車が開通し始めたことを耳にすると間もなく、私達も住み馴れた東京を離れて、身内のもののゐる故郷の方へ遁れて来たのでした。その間一人身ですら艱難な旅路を、どんなに妻子を連れて苦労したか、それは想像に任せます。

兎に角今度の天災ほど、人間の肉体と心に大きな打撃を与へたものはありますまい。 》
(「大震災の思ひ出(1926年)」より)

その後も同人『銀皿』を刊行するなど活動、出版社「人生社」を設立し自身の著作を多く刊行した。戦中は西郷隆盛、乃木希典、東郷平八郎、ヒットラーやムッソリーニなど時局的著作を、戦後は夏目漱石や森鴎外、芥川龍之介、坪内逍遙、幸田露伴、島崎藤村、徳富蘆花など往年の作家たちとの思い出をつづった『明治・大正・昭和作家追想:一編集者の見た34人(1965年 現代教養文庫)』などを出版している。
松山敏「悲惨な残骸」(大正12年)
松山敏「悲惨な残骸」(大正12年)

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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