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黒岩重吾が自宅(兵庫県西宮市)で体験した阪神淡路大震災について述べた名言(1924~2003 / 第44回直木賞受賞作家)[今週の防災格言526]

time 2018/01/22

黒岩重吾が自宅(兵庫県西宮市)で体験した阪神淡路大震災について述べた名言(1924~2003 / 第44回直木賞受賞作家)[今週の防災格言526]

『 地震の中にいる者と外側との、災害に対する認識の差は大きい。 』

 

黒岩重吾(1924~2003 / 作家 代表作『背徳のメス』(第44回直木賞))

 

格言は寄稿「地震に思う」(文芸春秋 1995年3月号)より。

曰く―――。

地震の中にいる者と外側との、災害に対する認識の差は大きい。例えばテレビでは、これでもか、といった風に死亡者の数を報道する。地震の規模を全国民に知らせるためには仕方のない報道かもしれないが、窓から火災を見、余震に怯えている人々にとっては、もう良い、と眼と耳を塞ぎたくなるしつこさだった。派手な女性のニュースキャスターが、死亡者が三千人に達しました、と活々と報じているのを見ると、彼女は一体何を感じているのだろうと憤りを覚えた。刻々と増える死亡者の数に怯えている様子が全くない。声を張り上げれば張り上げるほど、表情が活々として見える。少なくともその瞬間、彼女が死に怯え、悲しんでいないことだけは確かである。これは女性だけではなく男性のアナウンサーにもいえることだった。私はそういう報道者を責めているのではない。その背後には、外から被災地を眺めている視聴者の貪欲な要求があるし、災害に遭っていない人間に、被災者と同一心境になれといっても無理だからである。もし私が地震地域に愛する人達を持たず、外側にいたとしたなら、どんなに自戒したとしても、或る種の好奇心を抑えることは無理だったに違いない。

何故なら私は、湾岸戦争に際し、アメリカ軍の凄まじいミサイル攻撃のテレビ画面に、戦慄しながらも緊迫したゲームを観るような昂奮を感じた一人だったからである。

古代ローマの昔から、人間は自分とは無関係な人間が血を流すことに昂奮して来た。これは、人間の内部にゴッドと共に棲(す)むデーモンの欲求があるからである。必要なのは、何処までデーモンを抑え込むかであろう。それが不可能でも、最低限、デーモンを憎む気持ちだけは持たねばならない。現代人に必要な人間の証はそこにある。

阪神淡路震災(1995年1月17日)では、兵庫県西宮市の苦楽園の自宅で大きな揺れを体験したという。地震後の心境を以下のように述べている。

大地震の朝から十日が過ぎた。その間、殆ど原稿を書いていない。書かなければならないと何度も机に向かったが、頭の中心部に穴が空き、その周囲を靄(もや)か煙が取り巻き、しかも熱を帯びているような感じで、思考力が全くない。 ・・・《中略》・・・ 作家になって三十数年、このような状態で十日間も過ごしたのは初めてである。今回の大地震はそれだけの衝撃を私に与えた。地震に関する原稿執筆の依頼もかなりあったが、今日まで総て断った。 ・・・《中略》・・・ 自分と向き合うことにこれほどのエネルギーが必要だったのかと、初めて知った感があった。そういう意味で今回の大地震には、七十歳にして、色々なことを教わった。

… … …

黒岩重吾(くろいわ じゅうご)は、釜ヶ崎の診療所を舞台にした『背徳のメス(1961年)』で第44回直木賞を受賞、社会派推理小説をはじめ、大阪の西成地区に住んだ体験を基にした風俗小説で知られ、後年、は日本古代史をテーマにした歴史小説を数多く発表した人物。紫綬褒章受章(1991年)。兵庫県西宮市に居住。

1924(大正13)年2月25日、大阪市生まれ。父への反抗心から勉強嫌いになり中学受験に二度失敗。旧制宇陀中学(現奈良県立大宇陀高等学校)に補欠入学し、その後、同志社大学法学部に学んだ。1944(昭和19)年、大学在学中に学徒動員で旧満州北部へ出征。ソ連国境で敗戦を迎え、逃避行ののち1946(昭和21)年に内地へ生還した。復学し、卒業後に日本勧業証券(現みずほ証券)に入社するも、戦後は放蕩無頼な生活で闇屋や株屋をしながら大儲けしたという。しかし、悪友との無茶がたたって全身麻痺の大病を患い3年間入院生活を送る。この間に株の大暴落で資産を失い、家財を売り払って、釜ヶ崎のドヤ街(西成のあいりん地区)へと流れた。以降、株の情報屋、トランプ占い師、キャバレーの呼込み、水道産業新聞社編集長など様々な職を経験した。
1958(昭和33)年の『ネオンと三角帽子』がサンデー毎日に入選。司馬遼太郎と知り合い「近代説話」同人となり、1960(昭和35)年の『休日の断崖』が直木賞候補、翌年の『背徳のメス』で直木賞を受賞した。以降は「西成もの」の風俗小説や社会派推理小説家として活躍した。
1963(昭和38)年、日本推理作家協会関西支部長に就任し、直木賞選考委員、奈良文学賞選考委員を歴任。その後、ほとんど取り上げられることのなかった日本の古代史を舞台にした歴史小説の執筆をはじめ、1980(昭和55)年には『天の川の太陽』で第14回吉川英治文学賞を受賞。
主な歴史作品に、蘇我入鹿を描いた『落日の王子(1982年)』、『聖徳太子(1987年)』、『白鳥の王子ヤマトタケル(1990年)』、『女龍王神功皇后(1999年)』、5世紀の雄略天皇を描いた『ワカタケル大王(2002年)』がある。史料や文献の乏しい古代日本を題材に、雄大な構想と艶やかな情感で時代に光芒を放つ新しい人間像を創出した一連の歴史ロマンともいうべき歴史小説の新分野を開拓した功績により、1992(平成4)年に第40回菊池寛賞を受賞した。
2003(平成15)年3月7日、肝不全で逝去。79歳。

黒岩重吾



■「阪神淡路大震災」に関連する防災格言内の記事
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著者:平井敬也(週刊防災格言編集主幹)

 

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