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災害の危険が見えるようになる3つの目 | 中澤幸介(リスク対策.com編集長)講演録

time 2023/06/26

災害の危険が見えるようになる3つの目 | 中澤幸介(リスク対策.com編集長)講演録
写真:中澤幸介編集長(左)と平井雅也(右・麹町アカデミア)


2023年5月16日開催の麹町アカデミア(セイショップ協賛)講座では、リスク対策ドットコムの中澤編集長をお招きし「災害の危険が見えるようになる3つの目」をテーマにお話をいただきました。
3つの目は、予測、予防、対応の3つの目と、鳥の目、虫の目、 魚の目の3つの目です。想定外の危険が起こるのは、予測できていないか、予測しても何の対策もしていなかったからです。正しく予測するにはどうすればよいのか、予防で注意すべきことは何か、それでも起きてしまったときにどう対応したらよいのか、をお話し頂きました。
鳥の目は、組織や地域全体を見る目のこと。虫の目はあなたがいる現場です。そして魚の目は時間の流れです。自分だけがリスクに備えても地域全体で備えなければ効果がなく、今日備えても明日備えられるとは限りません。この3×3の目を見て危機管理をしていくことが大切です。
(講演日:2023年5月16日 19:00-20:30 / 主催:麹町アカデミア×SEISHOP / 場所:SEISHOP市ヶ谷ショールーム)


災害の危険が見えるようになる3つの目

講演者:中澤幸介(リスク対策ドットコム編集長)

目 次


 

災害に備える、ということは…

結論を言ってしまうと、本日ここに参加されている方々は、もう興味がある、ということで、災害の危険が見えているということだと思います。

全く関心のない人はやっぱり見えない。

こういう問題をどうしていくのか、なかなか答えのない問題なので、そういう方々の興味をどうやって向けさせるのか、そこがメディアとしても頑張っていかなきゃいけない点です。
また、これはメディアだけでできる問題じゃなくて、こういうコミュニティというものをどこまで広げていけるのか、みんなでできることを一つずつやっていかなければいけないのだな、ということを感じています。

 

防災格差社会

訪日外国人が2022年9月以降に急激に増えていて、200万人を超えるのは確実の様子です。
外国の方は日本が地震国だと分かっていないので、実際に地震に遇って「こんな揺れるのか」とびっくりしてしまいます。

事前にもっと日本の地震リスクを調べておくべきで、政府は外国人向けに地震でどう行動すれば良いのか等の情報を準備すべきだと思っていたら「Safety Information Card」と言う冊子があったので、観光庁に問い合わせてみると、冊子は成田空港にはなく、日本にある旅行代理店で配っているという回答でした。

…外国人が危険を見えなったのではなく、日本の役所が危険を見えていなかった事が分かりました。

2022年末に外部の調査会社に依頼した防災に関するアンケート調査から、飲料水の備えや非常食、お菓子などの備えは3割から4割の方が全く手を付けておらず、家具の転倒防止でも3割から5割の方が未だ実施していない、トイレの準備については6割を超える方が何もやっていない事が分かり驚きました。世帯収入との関係を調べたら、データは有意で関連性がある事が分かりました。

お金のある人というのはいい家に住んで備蓄もできているんだ。すごいな。
もっとびっくりしたのは周辺地域での防災活動。お金のある人は周辺地域でも熱心に防災活動に取り組んでいる。お金のある人はいい家に住んでいて備蓄もしっかりしていて安全な地域に住んでいる。これ、お金のない人はどうなっちゃうのだろう、同じ危険が見えているはずなのに何で防災の取り組みに差が出るのだろう。

そこで、防災に取り組む人の傾向についての先行研究や論文をGPT-4とBARDを使って調べてみたら、知識や意識や経験、コミュニティ等との関連に加えて、収入や財務的能力との関連という傾向が表示され、既に先行研究が有ると分かりました。

何を言いたかったかっていうと、危険が見える目・見えない目だけじゃなくて、外国人が見えない目で日本人が見える目だとすると、その中にも、見ようとしない目、見られない、こういう目があるんじゃないかなって思うのですね。

これ、僕、決して誤解してほしくない。

お金がない人が見えない、見ようとしないって言っているわけじゃなくて、いろんな分析をすれば、防災をやっていない人の傾向値っていうのは、他にも沢山の関わりが出てくるでしょう。
例えば心の傷があって見るにも見れないとか、もっと楽しみを重視したいとかいろいろあると思うのですが、危険を見るためには見ようとしない目も何とか見えるようにしていかないといけないなと感じたという話なのです。

見える目、見ようとしない目、見えない目
見える目、見ようとしない目、見えない目

 

想定外とは

過去に僕が取材してきた企業で、まさかこうなるとはっていう、いわゆる想定外、考えてもみなかったというコメントがあった事例を写真でこれから紹介していきます。
(※講演では多数の事例写真をご紹介いただきながらお話を頂きました)
※詳しくはリスク対策ドットコム誌面でお読みください

1つ目の事例は、新潟県の機器メーカー、2004年7月13日豪雨で川が氾濫し、従業員は5Fに避難、IT担当者の機転でパソコン本体を電源から外して2階に投げ上げ助かった。IT担当者には本体がやばいという危険が見えていた。

2つ目は東北の会社、東日本大震災(2011年)で10トンの貯水タンクがすっ飛んだ。果たして危険が見えていても対策できたのかと言う話。

3つ目は東日本大震災の時の福島県須賀川市の藤沼湖。ため池が決壊し、山間部にも関わらず津波(土石流)が起こった。誰にも危険が見えなかった話。

次は、熊本地震(2016年)での住宅会社のオフィス、ちゃんとL字金具をつけて対策をしていてもオフィス家具が倒れてしまう話。

同じく熊本地震で、とある製薬メーカーのサーバー室では、免振装置にしっかりと繋いだサーバーが激しい揺れで倒れてしまっている。免振装置が耐えられる震度6強までしか保証はなく、絶対大丈夫な建物は無いという話。

大阪北部地震(2018年)では、ある企業の機械室のスプリンクラーが地震の揺れでヘッドが外れて誤作動してしまった。誰も蛇口のありかを知らず機械が水浸しになった話。

倉庫火災では、ベルトコンベア横の放置段ボールから発火、(物が在って)防火シャッターが下りず、消火器を何本も使用して消火をしたものの、実は屋外消火栓の非常用ボタンが押された形跡がなかった。従業員には危険が見えていなかった話。

次は、ある酒造が西日本豪雨(2018年)で浸水、普段はわずか30㎝の小川から5mの高さまで水が上がってきた話。

…皆さんならどうですかね。こういう災害がちゃんと危険性が見えていたのかどうなのか。本当にちょっと謙虚になって学ぶ必要があると思います。

同じく西日本豪雨の真備町で、アルミ鋳造工場が浸水して高温のところに一気に水が入り、周辺の家屋がすっ飛ぶくらいの水蒸気爆発が起こった話。

この爆発では、周辺で亡くなった方がいませんでしたけれど、もしここで犠牲者が出ていたら本当に大変な問題です。
こういう問題もやっぱり見ていかなきゃいけないことを改めて考えさせられたっていうのは非常に大きいと感じます。

次は2019年の千曲川の決壊、桜づつみ堤防という長野市が誇るお金をかけて造られた堤防が決壊し、川幅が1キロあり、先で一気に狭まる危険個所があるのに、まさかここが決壊するとは思わなかったという話。
千曲川が決壊して川など見えない所に事業所を構えるキノコの会社が浸水した。

ところで、フォークリフトは災害復興でとても役に立つので、浸水しない場所に停めるか、雨の前に逃がしておきましょう。

次はフォークリフトの販売レンタル会社、福島県阿武隈川からの浸水対策には一生懸命に取り組んでおり、東日本台風の前に防水板を2メートルの高さで設置したにもかかわらず店舗が浸水、調べたら外部からの水ではなく排水溝からの内水氾濫だったという話。

社員さんの自宅の写真、2018年の川越で浸水、ハザードマップでは真っ赤な地域で、水をくみ上げるポンプも浸水している話。

しておけば良かったこと
しておけば良かったこと

では、想定外とは何なのか?
柳田邦男さんによれば、想定外には、A本当に想定できなかったケースと、Bある程度想定できたが、データが不確か、確率が低いとみられ除外されたケースと、C発生が予測されたが、本気で取組むと巨額の投資が必要となるため、楽観する事で想定の上限を引き上げるケースの3パターンがあり、BとCの中間が大半のケースを占めていると言います。

隕石が衝突するとか、超温暖化とか、核戦争やドローンの暴走等々、エマージングリスクと言われる新興リスクについては、以下の3つのキーワードを紹介頂きました。

●ブラックスワン (黒い白鳥 = Black Swan)

「起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「非常に強い衝撃を与える」という理論。経験からは予測できない極端な現象(事象)が発生し、その事象が人々に多大な影響を与える。

ナシーム・ニコラス・タレブ著『ブラック・スワン』

●ブラックエレファント (黒い象 = Black Elephant)

いずれ起こると分かっている高いリスクであるものの放置(無視)される事象。

トーマス・フリードマン著『Thank You for Being Late ー 遅刻してくれて、ありがとう』

●グレイライノ (灰色のサイ = Gray Rhino)

大問題に発展する可能性が高いにもかかわらず、軽視されているリスクのこと。

ミッシェル・ワッカー著『THE GRAY RHINO (英語版)』

 

…と言うリスクについても、見えるリスクにしていかなければ行けないと思います。

なかでも共感しているのは京都大学小林潔司先生の話です。

想定っていう作業は過去の経験だとか科学的な成果に基づいて行われる。 …(中略)… 想定っていうのは人の間で通説として形成された一つの虚構に過ぎない、感覚的なものでしかないってことを言っているのですね。その通りだよなって思います。

想定外だとか何だとか、ちゃんと分析をして出したわけじゃなくて、自分はこんなことを想定できたとか想定できていないのだ、みたいなことを虚構の中で勝手に判断している。それが現実なんだろうな

もう一冊ご紹介します、日経ビジネスから出版されたピーター・バーンスタイン著『リスク』です。

この「神々への反逆」という副題が大好きです。

リスクマネジメントの発展の歴史を書いた本で、未来は神の手のひらの中にあり、将来を見通すなんてことは人間はやってはいけない。保険のようなリスク予測はルネサンスの三大発明に並ぶ発明だったとする。

神をも恐れず人間は保険まで生み出したという背景の中で、非常に気を付けなきゃいけないところは、真実に似ていることと真実は同じではないのだと言う事。想定外っていうのはそういう異常値だとか不完全さの中に潜んでいる。

要は、神々へ反逆するぐらいのことをやっているのだから謙虚になれよということを言っているのですね。全部が全部、危険が予知できているなんて思うこと自体がおこがましいのだと。異常値はどこでも出るよねって思います。

そういうことを考えて対策を打っていかなきゃいけない、これで絶対大丈夫ということはそもそも人間が語ってはいけないのではないか。その謙虚さを忘れたらリスク対策も防災も何もできなくなっちゃうなと思います。

 

危機管理に求められる3x3の目

危機管理の3要素
危機管理の3要素

危機管理やリスクマネジメントは予測、予防、対応の3つの要素に集約されると考えられています。この考えは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環であるレジリエントな防災・減災機能の強化において提案されました。危険を予測できなければ予防はできず、予防が不十分な場合は対応するしかありません。予測ができなければ、対応が全てになるでしょう。予測の幅を広げながら、限られた資源の中で、予防の範囲をどこまで拡大するか、対応の負担をどこまで小さくするか考えるのが大前提です。

予測には謙虚さが求められます。見えてるけど見えない目をなくさないといけません。また、地理、地政学、歴史、物理、環境、情勢の5つの要素を考慮することで、危険性をより明確に把握することができます。これらの要素を総合的に考えることで全体の危険が見えるようになりますが、気をつけるべきは、予測は一人ずつ違うと言う事、子供と大人、季節や時間、災害の種類によって予測されるべきリスクは違うので、リスクの擦り合わせも大事です。

リスク対策の偏重の問題もあります、ある危険が見えていて違う危険が見えていない事が起こります(地震に備えて、水害に備えない等)。こういう時は、結果事象から考えます。建物がどうなるか分からなくても、建物が使えなくなることは予測する等です。

予測ができたら予防です。予防策には“回避”が最も効果的ですが、現実的には難しい場合も多いです。そのため、リスク“軽減”が重要であり、ハード対策だけでなくソフト対策も必要です。訓練や勉強会なども軽減策の一環として考えられます。さらに、BCPにおいては別の場所での作業や代替手段の確保も重要視されます(移転・代替)。保険などによるリスクの転嫁もありますが、完全にリスクをゼロにすることは難しいです。対策は常に見直しを行い、謙虚な姿勢で取り組む必要があります。対策を行ったと思ったら終わりではなく、常に学習と改善を行うことが重要です。

これで対策ができていると思った瞬間にやっぱり終わってしまうというところ。そこが“神々への反逆”から学ばなきゃいけないところだよなって思っています。

予測や予防ができない事態に直面した場合、対応をしなければいけません。IT分野では、被害が発生している箇所を把握するために、予測・予防とは別に検知・対応のプロセスがあります。検知とは、例えば自動的にアクセスの異常を検知するなど、人間では気付きにくい情報をコンピューターやAIが判断することです。そうして重要な対応の段階になるのですが、優先順位があります。
アメリカの国家消防協会のNFPA1600と言う規格の中にLIP(Life, Instant stabilization, Property conservation)という優先順位があります。まず自分自身の命を守り、次に身の回りの人々の命を守り、その後に被害の拡大を防ぐこととされています。最後に生活や財産を守る。事業継続計画(BCP)でも同様に考慮する必要があります。本日は、組織の対応については省略しますが、その後組織の対応も重要となります。

もう一つの3つの視点は、「鳥の目線」「虫の目線」「魚の目線」で物事を見ると言うことです。鳥の目線では全体的な俯瞰が可能であり、虫の目線では個々の現場や危険の細部を見ることができます。しかし、最も注意が必要なのは魚の目線であり、時間の経過や組織の変化によって危機が生じる可能性があるということです。したがって、リスクコミュニケーションやモニタリングを通じて、鳥の目線、虫の目線、魚の目線を組み合わせて対策を立てる必要があります。例えば、自分の家は浸水しないから大丈夫(虫の目)でも、東京23区では2/3が浸水(鳥の目)すれば、買い物もできないので生活はできない、近年豪雨が増えている(魚の目)のように、地震や犯罪でも同じように考えられます。

木を見て森を見ずと言うけれど、木を見て森も見ろなんですよね。どっちも見ないと……偏重した形になってしまうので、やはりこれからは、企業も個人も、地域共同体という意味をもう一回考えて一体的に高まる取り組みというものをやっていかなきゃいけない。そんなふうに思います。

 

本日のまとめ

見える目・見えない目の他にやっぱり一番問題なのは見ようとしない3つ目の目、これをみんなでどうやって見えるようにしていくのか、見たいと思うようにしていくのか。

ここは僕も解(かい)がないですし、皆さんと一緒にやっていかなきゃいけないことなので、みんなで力を合わせながらこういうムーブメントをつくっていかなきゃいけないって思っております。

何より、リスクマネジメント、うちは完璧だっていう話じゃなくて、ここに求められるのはやっぱり謙虚さかな。どんなにやったって完璧なんてない中で常に自然の驚異の前に謙虚さを持って絶えず見直しをしていく。こんなところが重要なのかと思います。

その上で、予測・予防・対応という3つの目と、鳥の目線と虫の目線と魚の目線、を合わせて対策をやっていくのが必要じゃないかなと思います。

 


講演者:中澤幸介(なかざわ・こうすけ)

中澤幸介(なかざわ・こうすけ)

危機管理とBCPの専門メディア「リスク対策.com」編集長 / 新建新聞社取締役専務

2007年危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊、数多くのBCPの事例を取材。
内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー。
平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー。
平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。
著書に『被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ』『LIFE~ 命を守る教科書』等がある。
2014年からYahooニュースオーサーとして執筆活動も続けている。
現在兵庫県立大学大学院博士後期課程。

・主な著書
「被災しても成長できる危機管理「攻めの」5アプローチ」(新建新聞社 2013)
「命を守る教科書LIFE 予測・予防・対応 危機管理の法則」(新建新聞社 2016)

・リスク対策.com Webサイト:https://www.risktaisaku.com/

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