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室生犀星(詩人・小説家)の随筆「洪水」に書かれた大正11年の金沢洪水(石川県)を体験して得た感想から[今週の防災格言552]

time 2018/07/23

室生犀星(詩人・小説家)の随筆「洪水」に書かれた大正11年の金沢洪水(石川県)を体験して得た感想から[今週の防災格言552]

『 家々の床の間に水に浸されしをかたみせるために、そのままに壁塗りかへざるもあり、寒き風流なりと言はん。 』

室生犀星(1889~1962 / 詩人・小説家 代表作「あにいもうと」)

格言は大正12(1923)年の随筆「洪水」より。(「魚眠洞随筆(大正14年)」収載)

洪水後、家々の床の間にあった増水の痕跡をみた犀星の感想。
「寒き風流なりと言わん」は、斎藤緑雨(1868~1904)の「(三馬は曰く)風流は寒きもの」からの隠喩だろうか。

大正11(1922)年8月3日、石川県金沢市を襲った豪雨により犀川の堤防が60ヶ所で決壊し、金沢市街の約4,000戸の家が浸水、2万人の住民らが罹災し、2人が亡くなった。世にいう「金沢洪水」である。

金沢市の当時の人口は、2万9,000世帯、13万人だったので、約14%の住民らが被害を被ったことになる。

4時間に106ミリの雨量を記録したが、これは明治15(1882)年に金沢測候所が開設されて以来の記録的豪雨となった。
とくに、大正8(1919)年3月に鉄筋コンクリート造の堅牢な永久橋として敷設された街のシンボル「犀川大橋(通称:大橋)」が、完成後わずか3年余で落橋となったことで知られる。
大橋の水位は平時1.5尺だったが、この豪雨により警戒水位5尺の3倍となる15尺に増水、犀川上流の大桑・上菊・下菊・桜橋が流された後に、まもなく大橋も崩壊、そして更に下流の御影橋も流失した。

曰く―――。

《 去夏(きょか)八月三日午後一時、朝来(ちょうらい=朝からずっと続く)小歇み(こやみ=雨がしばらく降りやむことの意)だになき沛然(はいぜん=勢いよく雨が降る様)たる豪雨なりしが、俄然(がぜん)山山崩れ洪水とはなりけり。

隅田川くらゐある犀川(※石川県金沢市)の橋ことごとく墜ち、市街の央(なか)ばなる大橋にかかりたるため、激水一どきに下町にあふれ、六尺を超えしとなり。雨戸(あまど)障子(しょうじ)襖(ふすま)のごときは蹴破りたるごとく押し流され、箪笥はみな前倒れとなり流れたりけり。人人階上と屋根の上にのぼりたるほどに、空晴れ日かげ輝かしくなりし下に濁流滔滔(とうとう)としておとろへざりけり。

・・・中略・・・

――午後二時ころ大橋ながれしとき一どきに水嵩をさまりしが、鮎や石斑魚(うぐひ)などの濁水に醉ひて人家の庭庭に浮める数幾百疋(ひき)なるかを知らず。又上流なる山山の崖よりながされし蛇などの、人家に泳ぎ上りたるものあまたなりし。
――わけて橋の下手の流れ木に巻きつきたるもの数ふるに遑(いとま)なし。古老曰くこれ四十年来の洪水なりと。翌日より泥搔き出せしが一尺が程つもりたりとなり。 》

《ふるさとは遠きにありて思ふもの》の詩句で知られる室生犀星(むろお さいせい)は、明治22(1889)年8月1日に石川県金沢市に生まれた。加賀藩の足軽組頭だった実父・小畠弥左衛門吉種が63歳の頃に芸者とのあいだにできた私生児だったという。
世間体から生後わずか7日で、生家近所の雨宝院(真言宗高野山派寺院)住職だった室生真乗の内縁の妻・赤井ハツに引き取られ、その私生児として照道の名で戸籍に登録された。住職の養子に入ったのは7歳のときで、このとき初めて室生姓となる。
金沢市立野町尋常小学校を経て、長町高等小学校へ進むもこれを中退し、12歳で金沢地方裁判所の給仕として就職した。裁判所の上司に河越風骨、赤倉錦風ら俳人がいたことからこの手ほどきを受け、新聞へ投句をするようになる。17歳の頃に「犀星」の筆名で詩をつくり、次第に文学への思を強くして、21歳のときに単身上京。
大正2(1913)年、北原白秋に認められ白秋主宰の詩集「朱欒(ざんぼあ)」に詩が連続掲載され、同じく詩を掲載していた萩原朔太郎と親交を結び、翌大正3(1914)年、萩原、山村暮鳥らと人魚詩社を創立。大正5(1916)年には萩原と共に感情詩社を結成し同人「感情」を発行。大正8(1919)年、30歳のとき中央公論に初の小説『幼年時代』が掲載され、続いて『性に眼覚める頃』『或る少女の死まで』を発表。大正11(1922)年、詩集『忘春詩集』出版。翌年の大正12(1923)年9月の関東大震災で罹災し、10月に家族と共に帰郷する。
昭和4(1929)年、初の句集『魚眠洞発句集』を刊行。人気作家となり昭和10(1935)年発表の『あにいもうと』は第1回文芸懇話会賞受賞し翌年には映画化もされた。昭和16(1941)年の『戦死』で第3回菊池寛賞受賞。戦後は小説家としての確固たる地位を築き、昭和32(1957)年には長女・朝子をモデルとした半自叙伝『杏っ子』で第9回読売文学賞を受賞、翌年に東宝で映画化される。昭和33(1958)年には評論『わが愛する詩人の伝記』で毎日出版文化賞を受賞。昭和34(1959)年の『かげろふの日記遺文』で野間文芸賞受賞。晩年、昭和35(1960)年に室生犀星詩人賞を創設。昭和36(1961)年10月、肺癌で虎の門病院に入院し、翌昭和37(1962)年3月26日に72歳で死去。翌年、金沢市郊外の野田山墓地に埋葬された。
室生犀星

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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