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内田魯庵(社会評論家)が関東大震災直後に書いた社会批評『大破壊と復興』からの名言 [今週の防災格言613]

time 2019/09/23

内田魯庵(社会評論家)が関東大震災直後に書いた社会批評『大破壊と復興』からの名言 [今週の防災格言613]

『 地震は天譴てんけんと言うよりはむしろ成金の宿酔ふつかよいより国民を救った天佑てんゆうである。 』

内田魯庵(1868~1929 / 評論家・翻訳家・小説家・随筆家)

曰く―――。

《 地震は大地のみならず民心をも又震撼(しんかん)して大戦以来上下に瀰蔓(びまん=弥漫)した成金気分を根底から倒潰(とうかい)した。之までの一切が成金気分であった。成金は凋零(ちょうれい)し成金時代は既に過去(すぎさ)っても成金気分だけは猶ほ(なお)残ってゐて、商工業者は不景気に藻掻(もが)き、政治家は緊縮に艱(なや)み、学者思想家は行詰ってゐてもマダ真剣になれないで浮き足であった。何をするにもダンスをするやうな了簡(りょうけん)で、芸術至上や恋愛至上が感嘆されるは皆此の浮れ調子である。青天霹靂(せいてんへきれき)の如く天地を震動して一瞬間に歓楽の巷(ちまた)を化して地獄の叫喚(きょうかん)と一変した此の大地震は渠等(かれら)の惰眠(だみん)を心のドン底より攪(かき)まはしたであらう。

・・・《中略》・・・

多くの人は地震を天譴と云ふが、若し此天譴に深く自戒して裸一貫となって大死一番の決心でやり直すなら覆へされた六十年の文化の再建は容易である。地震は天譴と云ふよりは寧(むし)ろ成金の宿酔(ふつかよい)より国民を救った天佑である。 》

格言は関東大震災(1923(大正12)年9月1日)直後に書かれた『大破壊と復興』より。
(初出、「太陽」大正12(1923)年10月号)

魯庵は、この当時の多くの文化人らも説いた「天譴論(天罰)」を「天佑論(天恵)」にと結びつけた社会批判を展開した。
そこには文壇の重鎮で丸善(震災で全焼)の顧問であった魯庵なりの震災体験が大きく関っているように思われる。

関東大震災の際、魯庵は、淀橋区柏木(現新宿区)の自宅二階にいた。地震で屋根が壊れたが、しばらく修繕できなかったため、雨もりに悩まされながら、家族と女中ら一家十人で “半罹災民的生活” を続けた、という。

魯庵の隣家にはアナキストの大杉栄と内縁の妻の伊藤野枝ら一家が暮らしていた。地震直後には大杉が四人の娘たちを引き連れて裏木戸から魯庵の家に避難してきた。そんな大杉の四人の娘たちは震災後も毎日のように裏木戸を通じ魯庵宅に遊びにくるようになった。しかし、家族ぐるみの付き合いだった大杉は、この後(1923年9月16日)、伊藤野枝と甥宗一らとともに憲兵に連れ去られて虐殺されてしまう。「甘粕事件」である。
翌日の新聞で訃報に接した魯庵は、泣きながら二階の自室に駆け上がっていった、という。(野村喬著『内田魯庵伝』(1994年5月)より)

この格言と同時期の東京日日新聞(後の毎日新聞)の連載『永遠に償はれない文化的損失』(大正12年10月17日~23日)等では、焼失全滅した数多の出版、書物、記録・資料、美術骨董などの重要な文献の破壊と損失を憂慮し《 人間の無知や迫害(政治・宗教)が書物を形なしにする 》と評している。

内田魯庵(うちだ ろあん)は、ドストエフスキー「罪と罰」などロシア文学の翻訳や文壇回顧録「思ひ出す人々」で知られる明治大正期の社会評論家で、近代を代表する読書人の一人。
本名は貢(みつぎ)。別号に不知庵(ふちあん)など。長男に洋画家の内田巌(1900~1953)がいる。

1868(慶応4)5月26日、江戸下谷車坂六軒町(東京都台東区)の旧幕臣の子として生れる。
立教学校(現立教大学)や東京専門学校(現早稲田大学)、大学予備門(後の第一高等学校)などで英語を学ぶもいずれも中退。その後、文部省の翻訳係だった遠縁の叔父・井上勤(1850~1928)の仕事を手伝い語学を身に着けた。
1888(明治21)年、山田美妙「夏木立」の長文批評で文壇にデビュー。文芸評論家として雑誌「女学雑誌」「国民之友」などで活躍した。二葉亭四迷や坪内逍遥と親交を結び、1892(明治25)年、ドストエフスキーの『罪と罰』の翻訳をはじめ、トルストイ『復活』の翻訳などを行った。1898(明治31)年の小説『くれの廿八日』や1901(明治34)年の小説『社会百面相』など社会小説で評価された。
近松門左衛門や松尾芭蕉研究を通じて、1901(明治34)年に丸善に入社すると、同社発行のPR誌「学鐙(がくとう)」の編集に終生つとめ、同誌で評論活動を続けた。晩年は文壇の一線から退き、江戸文学研究、人物評伝、随筆などを執筆。1925(大正14)の文壇回想録『思ひ出す人々』や随筆集『貘の舌』(1921年)、『バクダン』(1922年)などの文明批評や読書文化普及で知られた。
1929(昭和4)年4月に脳溢血で倒れ、豊多摩郡代々幡町(現渋谷区代々木)の自宅で同年6月29日死去。62歳。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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