防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

佐々淳行(1930~2018 / 作家・評論家 警察官僚・危機管理評論家・初代内閣安全保障室長)が阪神淡路大震災後に正論で述べた名言 [今週の防災格言564]

time 2018/10/15

佐々淳行(1930~2018 / 作家・評論家 警察官僚・危機管理評論家・初代内閣安全保障室長)が阪神淡路大震災後に正論で述べた名言 [今週の防災格言564]

『 危機管理を効果的に行うためには、いち早く悪い情報を報告し、人命救助など寸刻を争う被害局限措置を講じなくてはならない。 』

佐々淳行(1930~2018 / 作家・評論家 警察官僚・初代内閣安全保障室長)

格言は「日本の論点」編集部編『巨大地震 権威16人の警告』(文春新書 2011年8月)の「国家的危機におけるリーダーシップの要諦」より。
(初出「日本の論点’96」(文藝春秋 1995年11月))

佐々氏は、特に阪神・淡路大震災以降、日本の危機管理の問題点として、《 国に集中すべき大きな非常事態対処を、対処能力を欠いた地方自治体に任せてしまった点 》 や 《 選ばれた政治の長が、非常事態に対して非常大権を持っていない法的不備 》をあげて、《 日本には安全保障に関する基本法がなく、法律、制度全体を再構築すべき 》と一貫して訴え続けてきた。

曰く―――。

《 阪神・淡路大震災によって、はてしなくも日本の国家危機管理システムの構造的欠陥が露呈された。
危機管理を効果的に行うためには、いち早く悪い情報を報告し、人命救助など寸刻を争う被害局限措置を講じなくてはならない。
そのための会議などを催しているいとまがない場合には、結果について全責任を負う覚悟で、指揮官が、決断を下し(決裁ではない)、特別権力関係によりトップ・ダウンで指揮命令を行い、従わないものは解任するというほどの強力なリーダーシップを発揮しなければいけない。
ところが阪神・淡路大震災が起きてみると、日本には法制上指揮官が不在であることが明らかになった。
災害対策、とくに最初の七二時間の初動措置、すなわち生き埋めとなった人々の救出、被災者の避難誘導、破壊消防(消防法第二九条)や化学消火剤の空中散布などの消火、負傷者の緊急治療、緊急物資要因輸送の五大任務は、総合政策として対応すべきことである。
しかし、阪神・淡路大震災の現場では、総司令官が制度的に存在しないことから対策はチグハグになり、後手々々にまわった結果、危機管理の最大の任務である「被害局限措置」はうまくいかず、一〇兆円の国富が灰になり、六〇〇〇名を超える尊い人命が喪われた。

時の村山富市内閣総理大臣が経験不足で総理としての資質に欠けていたとの議論もある一方、関係省庁の大臣も官僚も、これを人智人力の及ばぬ不可抗力の天変地異であるとして誰一人辞表を出す者もなく、誰が総理でも同じとお互いに弁護し合い、傷をなめ合っている傾向もみられる。
問題はこのような連帯無責任の状態をそれと知りながら長い間放置し、責任を生ずる「作為」より「不作為」を選んだ政・官指導者たちの「護民官意識」の欠如にある。

さらにいえば戦後五〇年惰性的に継承されてきた「マッカーサー占領政策」と、それを支えた昭和二〇年代に制定された国家危機管理諸法令の構造的欠陥にあり、と断ぜざるを得ない。
阪神・淡路大震災が「 “官災”大震災 」と呼ばれる所以はここに在る。 》

この1996年版の「日本の論点」では、内閣総理大臣に「いざ」という場合に限定した非常大権(テロ、大災害など対象事案を限定し、期間を明確に限定して総理に決定権・指揮命令権を与えるもの)を与えるための内閣法改正を訴えた。

この内閣法改正は、その後、小泉純一郎・安倍晋三両総理により、当時の安倍晋三(自民)・藤井裕久(民主)・冬柴鉄三(公明)三党幹事長合意文書がとり交わされるに至り、国家危機管理の有事法制の一環として「緊急事態基本法(緊急事態対処法案)」という特別法として成立しそうになったが、小泉首相による「8・8郵政解散・総選挙(2005年)」や、安倍首相の体調不良による辞任(2007年)で流れてしまった、という。その後は、「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法(2013年12月成立)」を経て、現在(2018年)の「緊急事態基本法」と「憲法改正草案の緊急事態条項」の議論として継続している。

佐々淳行(さっさ あつゆき)氏は、日本における危機管理の第一人者で、安全保障のパイオニアとして知られる人物。

1930(昭和5)年12月11日、政治学者・参議院議員の佐々弘雄の次男として、東京市麻布区(東京都港区)に生まれる。
成蹊高等学校(旧制)を経て、1954(昭和29)年に東京大学法学部政治学科を卒業。同年、国家地方警察本部(現・警察庁)に入庁し、警備や公安畑を歩み、1969(昭和44)年の東大安田講堂事件、1972(昭和47)年のあさま山荘事件など重大事件に関わった。
在香港日本国総領事館領事、三重県警察本部長、警察庁刑事局参事官などを経て、防衛庁へ出向し、防衛施設庁長官などを歴任。1986(昭和61)年に内閣総理大臣官房・内閣安全保障室長に就任し、1989(平成元)年の昭和天皇大喪の礼の警備を最後に退官。
ベストセラーとなった『危機管理のノウハウ(PHP研究所)』などの著作を通じて、日本に「危機管理」の概念を定着させるなど、新聞やテレビなど多方面で活躍された。
2018(平成30)年10月10日未明、老衰により永眠。87歳。
主な受賞に、イギリス・CBE勲章受章(1975年)、アメリカ陸軍民間人功労章受章(1986年)、ドイツ連邦共和国功労勲章十字章受章(1990年)、カンボジア復興殊勲賞(計5回)、勲二等旭日重光章受章(2001年)。作家・評論家として、第54回文藝春秋読者賞(1993年)、第48回菊池寛賞(2000年)、第22回正論大賞(2007年)。


■「佐々淳行」に関連する防災格言内の記事
佐々淳行[1](秦野警視総監時代の警備課長)(2008.6.30防災格言)
佐々淳行[2](作家・評論家 警察官僚・初代内閣安全保障室長)(2018.10.15 防災格言)
後藤田正晴(政治家・元警察庁長官)(2010.11.29防災格言)
秦野章(元警視総監・参議院議員・法務大臣)(2017.05.01防災格言)
依田智治(政治家・元警視庁警備部長)(2007.12.10防災格言)
内山田邦夫(元警察官僚・警視監)(2017.12.18防災格言)
亀井静香(政治家)(2017.10.16防災格言)
ジェームズ・L・ウィット(米国FEMA元長官)(2010.01.11 防災格言)
小川和久(軍事アナリスト)(2008.02.04 防災格言)
岡本行夫(外交評論家 元外務省安全保障課長)(2018.08.20 防災格言)
安倍晋三(政治家)(2012.09.17 防災格言)
石原慎太郎(作家・政治家・東京都知事)(2013.07.22 防災格言)
小泉純一郎(政治家)(2008.06.02 防災格言)
小沢一郎(政治家)(2010.1.25 防災格言)
村山富市(政治家)(2007.12.31 防災格言)

■「阪神淡路大震災」に関連する防災格言内の記事
佐々淳行[2](評論家 警察官僚・初代内閣安全保障室長)(2018.10.15 防災格言)
下河辺淳(建設官僚・都市計画家 国土庁事務次官)(2018.04.23 防災格言)
西原春夫(法学者 早稲田大学総長)(2018.04.09 防災格言)
黒岩重吾(直木賞作家)(2018.01.22 防災格言)
牧冬彦 (神戸製鋼所社長・神戸商工会会頭)(2018.01.08 防災格言)
斎藤富雄 (兵庫県初代防災監 兵庫県副知事)(2017.11.20 防災格言)
遠藤勝裕 (震災時の日本銀行神戸支店長)(2017.05.15 防災格言)
瀬島龍三 (伊藤忠商事会長)(2017.02.13 防災格言)
余禄(毎日新聞 1995年1月18日朝刊)より(2016.01.18 防災格言)
天声人語(朝日新聞 1995年1月27日朝刊)(2009.01.19 防災格言)
兵庫県知事 貝原俊民(2014.11.01 防災格言)
牧師 草地賢一(2011.08.29 防災格言)
FEMA長官 ジェームズ・L・ウィット(2010.01.11 防災格言)
気象庁長官 和達清夫(2007.12.03 防災格言)
防衛事務次官 依田智治(2007.12.10 防災格言)
美智子皇后陛下(2010.10.18 防災格言)
政治家 後藤田正晴(2010.11.29 防災格言)
政治家・村山富市(震災時の首相)(2007.12.31 防災格言)
政治家・野中広務(震災時の自治大臣)(2018.02.12 防災格言)
政治家・池端清一(2008.01.07 防災格言)
政治家・鳩山由紀夫(2009.08.31 防災格言)
東京都知事 鈴木俊一(2008.10.13 防災格言)
元社団法人・全国産業廃棄物連合会技術部長 高橋壽正(2012.01.16 防災格言)
建築学者 早川和男(2014.06.16 防災格言)
作家 司馬遼太郎(2015.01.12 防災格言)
推理作家 斎藤栄(2014.03.03 防災格言)
指揮者 朝比奈隆(2014.03.10 防災格言)
指揮者 岩城宏之(2008.02.18 防災格言)
作家 筒井康隆(2013.02.18 防災格言)
作詞家 阿久悠(2013.06.17 防災格言)
放送作家 藤本義一(2011.01.17 防災格言)
作家 小松左京(2011.08.01 防災格言)
作家 髙村薫(2013.07.29 防災格言)
作家 藤原智美(2013.08.12 防災格言)
作家 陳舜臣(2015.01.26 防災格言)
映画監督 大森一樹(2013.04.08 防災格言)
ニュースキャスター 筑紫哲也(2009.09.21 防災格言)
作家 伊集院静(2012.02.27 防災格言)
映画監督・白羽弥仁(2008.01.21 防災格言)
将棋棋士・谷川浩司(2013.03.04 防災格言)
医師・西村明儒(2009.12.21 防災格言)
落語家・六代目 桂文枝(桂三枝)(2015.01.19 防災格言)
プロテニスプレーヤー 沢松奈生子(2008.1.14 防災格言)
MLB選手 イチロー(2013.08.26 防災格言)
中内功・ダイエー創業者(2009.09.07 防災格言)
本田宗一郎・ホンダ創業者(2012.12.31 防災格言)
秋山富一・住友商事会長(2013.09.02 防災格言)
領木新一郎・大阪ガス元会長(2008.11.03 防災格言)
久我 徹・博報堂関西支社長(2009.04.06 防災格言)
元台湾総統 李登輝(2015.07.13 防災格言)
ラジオパーソナリティー 永六輔(2016.07.18 防災格言)
科学評論家・元NHK解説委員 村野賢哉(2016.08.08 防災格言)
美術史家・西川杏太郎(2017.01.16 防災格言)
川柳作家・時実新子(2017.01.23 防災格言)
芸術評論家・多木浩二(2013.01.14 防災格言)
政治家 羽田孜(内閣総理大臣(第80代))(2017.09.04 防災格言)
外交評論家 岡本行夫(元外務省安全保障課長)(2018.08.20 防災格言)
阪神淡路震災より18年(2013.01.17 店長コラム)

 

<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

[このブログのキーワード]
防災格言,格言集,名言集,格言,名言,諺,哲学,思想,人生,癒し,豆知識,防災,災害,火事,震災,地震,危機管理
みんなの防災対策を教えてアンケート募集中 非常食・防災グッズ 防災のセレクトショップ SEI SHOP セイショップ

メルマガを読む

メルマガ登録バナー
メールアドレス(PC用のみ)
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ