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西原春夫(刑法学者・元早稲田大学総長)氏が阪神淡路大震災直後に述べた評論から[今週の防災格言537]

time 2018/04/09

西原春夫(刑法学者・元早稲田大学総長)氏が阪神淡路大震災直後に述べた評論から[今週の防災格言537]


『 地震そのものは、人の力では阻止できない。従って、地震に不可避に伴う結果については、だれを非難することもできないだろう。冷たい言葉で言えば、自己責任に帰せられる災害、運命とあきらめなければならない部分が人生にあることは認めざるを得ない。 』

西原春夫(1928~ / 法学者 早稲田大学名誉教授・大学総長(第12代))

格言は阪神淡路震災から五日後の読売新聞メディア時評(1995(平成7)年1月22日朝刊)『震災対応鈍い自治体「なぜ」の報道欲しい』より。

曰く―――。

《 しかし、地震と災害の間に人の行為が介在し、その行為があれば、あるいは無ければ、災害が避けられたと考えられる場合には、その行為の意義に着目しなければならない。もしそのことが予見でき、しかもその行為ができたのにしなかったとか、しないで済ませられたのにしたという場合は、責任が生ずる可能性があるからだ。

このような見方をするのは、私が法律家で何事もそのような観点で眺める習性があるからかも知れない。しかし、物事の分析には何としてもこのような考え方が必要である。メディアの役割には、事実の報道と並んでこのような観点の分析が含まれていると思う。

事実の報道という面でのメディアの活躍は、目をみはらせた。新聞、テレビ、ラジオがおのおのの特色を発揮しながら、災害の現状と変化、地震の原因、被災地の人々の考えや感情などを、こと細かに伝えてくれた。被災者にご迷惑をかけた場面も多かったと推測されるが、ことの成り行きを心配している一般国民が知りたいと思うことを縦横に報道してくれた。被害者がとくに不便を感じていることまで紹介されたが、今後、地震が起こった時のために、実に有用と思われた。危険を冒しながら取材に活躍した記者の方々には、敬意と謝意を表したい。

これに対し、地震と災害との間に人の行為が介在する場合のその行為の意義の分析は、かなり慎重に行われたように感じられる。

例えば地震当日、多くの国民がテレビを見ながらイライラしたのは、自治体の対応が、余りにも鈍すぎるのではないかということだった。消防車・隊員の姿が一向にテレビに映らず、火が燃え広がるままになっていたからである。倒壊した建物の下に生き埋めになった人を掘り出そうとしている人々の中に、救助隊員や警察官の姿が見えるようになったのは、やっと翌日になってからだった。

このような一般国民の判断に、メディアが適時、適切に対応したかと言えば、残念ながら否と言わざるを得ない。

初期消防が全くと言っていいぐらい行われなかったことについては、のちに消防車不足とか、水不足、あるいはあふれる車での交通渋滞などの理由が示された。だがそう言われると、自治体は大地震を想定した防災マニュアルを作っていなかったのかと言わざるを得なくなる。

もっともこの点については、この程度の規模、強度の地震が予想できたかという問題が先行する。全体として関西は、関東に比べ大地震の発生を軽く見る傾向があり、それにはそれ相応の根拠もあったようである。

しかし、少なくとも今度の地震の数週間前ごろから、日本列島全体が活動期に入ったと見られること、首都圏のみならず京阪神地域にも大地震の可能性が近づいたことを報ずるメディアが、素人の私の目にも入っていたことを、なんと弁明するのだろうか。

確かに責任の追及はあとでゆっくりやればいいことだが、一般国民の「なぜ?」に、メディアはすばやく対応すべきだろう。

人命救助やライフラインの確保など、危機管理の最高責任者である知事や市長が何をし、自治体としてどうしようとしていたのかを伝えた新聞が、一つもなかったのは誠に奇異と言わざるを得ない。

自衛隊の出動が遅すきたとの批判が、防衛庁に殺到したと聞く。防衛庁は、自治体の意思に反してでも自衛隊を出動させるべきだ、などという乱暴な意見を吐く者もいる有り様である。

自衛隊の暴走、過大成長を食い止める必要から、災害派遣には都道府県知事等の要請を前提とする現行自衛隊法は改正すべきでない―――というのが私の意見なので、責任は、四時間もたってやっと派遣要請をした自治体の首長にあると考えている。地方分権を強調する最近の潮流を、ここでもぜひ想起してもらいたい。

最後に一つ付け加えたい。それは、新聞自体が被災者のために直接できることがあったのではないか、ということである。

何十万人という被災者の中には、自分の生存や所在を知人、関係者に知らせたい人、あるいはその逆の人がたくさんいるのではないだろうか。生のニュースを扱うのではない紙面の不急の記事を止め、被災者の消息欄として活用することはできないだろうか。一考をお願いしたい。 》

西原春夫(にしはら はるお)氏は、日本を代表する法学者の一人で、特に、交通事故の過失責任を論じる際の「信頼の原則」理論を日本に初めて紹介した交通刑法の開拓者として知られる人物。
また、早稲田大学第12代総長(在1982~1990年)や国士舘理事長、日本私立大学団体連合会会長(在1980~1992年)、文部省大学設置・学校法人審議会会長(1991~1993年)などを歴任され、私立大学のリーダーとして教育界でも活躍された。

1928(昭和3)年3月13日、成蹊小学校の国語教員の父・西原慶一のもと東京都武蔵野市吉祥寺に生まれる。
親族には法学者が多く、商法学者の西原寛一(1899~1976 / 関西学院大教授)は叔父で、民法学者の西原道雄(1930~2017 / 神戸大名誉教授・西原寛一の息子)は従弟、実子は憲法学者の西原博史(1958~2018 / 早大教授)がいた。
小学校から高校まで自宅近所の成蹊学園で学び、1948(昭和23)年成蹊高等学校(旧制)を卒業すると、早稲田大学第一法学部に入学。中学校からはじめた水泳では高校時代インターハイ優勝や全日本学生選手権の出場経験を持ち、大学に通いながら母校の成蹊中学水泳部監督も務めた。1951(昭和26)年早大を卒業すると、同大学院法学研究科へと進み、1956(昭和31)年に博士課程を修了。同大学の助手、講師、助教授を経て、1967(昭和42)年に教授となる。その後、刑法学の権威として法学界で活躍され、私立大学の顔としても活躍、海外からも刑法学者・教育家として高い評価を受け、各国大学から名誉博士、名誉教授などの学位・称号を多数贈与されている。
2005(平成17)年には特定非営利法人・アジア平和貢献センターを設立し、理事長に就任。2011(平成23)年には財団法人・矯正協会会長などを務めた。2007(平成19)年、瑞宝大綬章を叙勲。
著書に『犯罪各論』『犯罪実行行為論』『刑法総論』『刑法の根底にあるもの』などの他、エッセイに『私の刑法研究』『道しるべ』『早稲田の杜よ永遠に』など多数。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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