『 震災後の伝染病は益々注意を要するを知るに足れり。 』
二木謙三(1873〜1966 / 内科医・細菌学者 駒込病院長 東京大学教授 文化勲章受章)
格言は、関東大震災後の伝染病に関する調査論文『東京市ニ於ケル大震火災後ノ伝染病ニツキテ』(出典「医学中央雜誌 Japana centra revuo medicina(医学中央雑誌刊行会 1924年3月)」)より。
曰く―――。
《 震災後の伝染病は昨年末(※1923年)を以て決して終了を告げたるにはあらず。
衛生状態の復旧も容易の業にあらず、されば今夏今秋及以後に於ても伝染病流行決して無しと云うべからず、今後に於ても一層注意警戒を要する所以なり。
安政地震は安政二年にして 所謂 安政のこれらは、同五年に猖獄(しょうけつ)を極めたる例あり、益々注意を要するを知るに足れり。 》
猖獄(しょうけつ)は、猛威をふるうことの意。
東京市内(現東京23区)では震災直後の火災で本所病院が全焼したため、病人の多くが駒込病院、大久保病院、広尾病院に収容された。
また、労資協調会と日本赤十字社は、臨時の伝染病院を洲崎埋立地に設置、更に、警視庁の依頼で東京帝大医学部も臨時の伝染病室を大学構内に設けられ、伝染病研究所、慶応大学病院、日本赤十字社病院、三河島と小松川にも警視庁の臨時の伝染病院が設営され病気の蔓延に備えられた、という。
震災直後には、下痢の患者が激増し、うち赤痢患者が急増したものの、10月中旬になると次第に減少する。しかし、10月から11月下旬になると赤痢に代わって、腸チフスが蔓延することになった。これらの伝染病は、12月になる頃には概ね平年の数にまで減少する。
この1923年9月〜11月末までの旧東京市の患者は、赤痢と腸チフスを合わせて約3,000名で、東京郡部でも同数の患者がみられた。
二木謙三は《 市部に於ては人口が一時百万人も減少したる故、伝染病患者は反比例して実際は多かりしなり 》と報告している。
二木謙三(ふたき けんぞう)は、赤痢菌の新種(駒込A菌・B菌)や鼠咬症スピロヘータの発見者として知られる伝染病・細菌学の権威。東京の駒込病院長を務め、東京帝国大学医学部、日本医科大学、東京歯科医専、日本女子大学教授、日本伝染病学会初代会長などを歴任した人物で、玄米食や複式呼吸などの二木式健康法の創始者としても著名。
明治6年2月(1873年1月10日)、秋田藩主佐竹候の御典医をつとめた医師の家系・樋口家の二男として秋田市土手長町(現千秋明徳町)に生まれる。幼くして親類の二木家の養子となった。秋田県立尋常中学校(現秋田高校)、旧制山口高等学校(山口県山口市)を経て、東京帝国大学医学部に入学。1901(明治34)年、大学を卒業すると東京市立駒込病院に勤務し、1903(明治36)年にコレラ竹内菌、赤痢駒込菌を発見し細菌学者として知られるようになった。1905(明治38)年よりドイツ留学をし、ミュンヘン大学のグルーバー教授に師事。帰国後、1909(明治42)年に駒込病院副院長、東京帝大講師となる。1919(大正8)年から駒込病院長、1921(大正10)年に東京帝大教授に就任。1926(大正15)年、日本伝染病学会(日本感染症学会)が設立されると初代会長に選出され、以降22年間にわたって会長を務めた。1933(昭和8)年、東京帝大教授を定年退官。
1929(昭和4)年学士院賞受賞、1955(昭和30)年文化勲章を授与。1966(昭和41)12月5日、93歳没。死後に従三位が追贈された。
写真Wikiより
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