『 大正十二年のような地震が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び東京を見舞うだろうということは、これを期待する方が、しないよりも、より多く合理的である。 』
寺田寅彦(1878~1935 / 物理学者 随筆家 俳人)
関東大震災(大正12(1923)年)を体験した物理学者の寺田寅彦は、震災の翌年(大正13(1924)年7月)の随筆『鑢屑(やすりくず)』で以下のように記した。
曰く―――。
大正十二年のような地震が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び東京を見舞うだろうということは、これを期待する方が、しないよりも、より多く合理的である。
その日が来た時に、東京はどうなるだろう。おそらく今度と同じか、むしろもっと甚だしい災害に襲われそうである。
被服廠跡(ひふくしょうあと)でも、今度は一箇所ですんだが、この次には、これが何箇所にもなるだろう。それから、今度の地震にはなかった新しい仕掛けの集団殺人設備が、いろいろ出来ているだろう。たとえ高圧水道が出来ていようが、消防船が幾台出来ていようが、おそらくそんなものは何にもなるまい。それが役に立つくらいなら、今度だって、何かあったはずである。
もし百年の後のためを考えるなら、去年くらいの地震が、三年か五年に一度ぐらいあった方がいいかもしれない。そうしたら、家屋は、みんな、いやでも完全な耐震耐火構造になるだろうし、危険な設備は一切影をかくすだろうし、そして市民は、いつでも狼狽しないだけの訓練を持続する事が出来るだろう。そうすれば、あのくらいの地震などは、大風の吹いたくらいのものにしか当るまい。
その他、寺田寅彦の防災格言
■国家を脅かす敵として天災ほど恐ろしい敵はないはずである
■科学の方則とは畢竟「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。
■天災は忘れた頃来る
■ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。
■戦争はしたくなければしなくても済むかもしれないが、地震はよしてくれと言っても待ってはくれない。
■「知らない」と「忘れた」とは根本的にちがう。
■大正十二年のような地震が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び東京を見舞うだろうということは、これを期待する方が、しないよりも、より多く合理的である。
■地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えている
■文明がすすむほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防護策を講じなければならないはずである
■文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増す。
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