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馬渡俊雄(1876~1946 / 内務官僚 関東大震災時の東京市助役)が関東大震災の時に遺した名言 [今週の防災格言516]

time 2017/11/13

馬渡俊雄(1876~1946 / 内務官僚 関東大震災時の東京市助役)が関東大震災の時に遺した名言 [今週の防災格言516]


『 咽喉元過ぐれば熱さを忘るゝは人情の弱点であって、緊張せる気分に多少の緩みを生じ、真面目の復興精神を傷くる等のことがあっては、これこそ帝都長久の基礎を危くするものである。 』

馬渡俊雄(1876~1946 / 内務官僚 関東大震災時の東京市助役)

関東大震災一周年(大正13年9月1日)に向けての言葉から。
(出典:東京市役所・万朝報社共編「震災記念:十一時五十八分(大正13年)」序文より)

震災から5ヶ月たった東京市助役時代の大正13(1924)年1月には、以下のように述べている。

《 人生の行路元より坦々たる事を望むは無理な事である以上、其等の人々により組織せられる社会が又変転極まり無きことも当然であって、不思議なことは少しも無いのであるが、今回の如き自然の大破壊力の前には、人生百年の努力が如何にも力の無いことをつくづく感ずるのである。

先頃、国民新聞紙上に徳富蘇峰先生が、震災の感想を述べられて人生の寸前闇黒なることゝ、自然力に直面しては人の力と云うものの如何にも微小なることを説かれ、尚かゝる大事変に遭遇しては、人の賢愚とか聖俗とか云うことは、殆んど何等の区別の無いものである。又仮りに差別があったとしても、それは五十歩百歩の差に過ぎないものであると謂われたが、全くあの悲壮なる修羅の巷に立ってはかゝる感想を深くするものである。

然(しか)し月日の経つのは早いものであって、あの想うても身震いのする阿鼻叫喚の修羅の大地獄の光景は、日一日と薄らぎ行き、市民の大勢力と国の内外の非常なる同情と救援とによりて、秩序は刻々と恢復せられ、生活の安定も得られることと成り、天に漲(みなぎ)る火焔のために暗かりし天日も、漸く其光を放つに至って、災厄の時より日を経ること五ヶ月に及んだのである。従って今日の有様は大体に於て、救護応急の時代を過ぎ、茲(ここ)に善後復興の緑の幕が開かれ始めたわけである。罹災の市民が其避難先より各自の焼跡に立戻って来て、満目荒涼たる焦土に立ち茫然自失しながらも、五尺の微体より湧き出づる大噴泉は、如何にして善後の策を講ずべきや、如何にして此不幸を転じて他日の幸福と為すべきやと云う、復興的大勇猛心にたぎり立つべき時代と成ったのである。

こゝで私の想い出すことは、幼少の時近所に居た婆さんから聴かされた或る言葉である。・・・《中略》・・・其言葉は、何か不仕合(不幸せ)に出逢った人で「アー弱った」とのみ繰返して居る者は、到底見込の無い人である。が併し、「アーよわった、どうしたらよいだろう」と云う人こそ見込のある人間である、と云う一言である。この婆さんの言ったことは今に私の耳朶に残って忘れ得ない教訓なのである。

自治と云うことは、外敵に対する防衛から生れ出でたるものであると言う説もある通り、今回の如き大災厄に遭遇して見ると、他力に依頼する余地無く、自然に自己の力を以て自己を治むると云う覚悟が生ずるものである。然(しか)し目前に迫る危害が遠ざかるにつれて、昂奮状態から覚めて又元の冷静なる心に戻ると共に、奮闘的大勇猛心が其影を薄くし、其一角づゝ崩れ出すと云うことも亦(また)人情の然(しか)らしむるところである。

然(しか)しそこが人間と云う崇高なる精神の所有者の、大に考えなければならぬことではあるまいか。 》
(出典:帝都復興叢書刊行会「復興と児童問題(大正13年)」復興の新気運、より)

馬渡俊雄(まわたり としお)は、関東大震災時に旧・東京市助役として市長の永田秀次郎を補佐し、震災後は東京市社会局長として罹災状況の調査や復興に努めた人物。

1876年(明治9年)12月14日、旧華族・加藤男爵家の三男として東京府豊多摩郡淀橋町(現新宿区)で生まれる。
父の加藤弘之(1836~1916 / 政治学者・東京府華族・男爵)は、明治維新後に福澤諭吉、森有礼、西周らとともに日本初の啓蒙学術団体「明六社」を結成し、後に東京帝国大学総長や初代帝国学士院院長となった人物。甥には喜劇役者の古川ロッパ(実兄・加藤照麿男爵の六男)がいる。
8歳のとき、佐賀出身で維新後に裁判所判事、横浜始審裁判所八王子支庁長を務めた弁護士の馬渡俊猷(まわたり しゅんゆう)の養子となった。第一高等学校を経て、1901(明治34)年に東京帝国大学法科大学政治学科に入学。文官高等試験行政科試験に合格し、1906(明治39)年に東京帝大を卒業し内務省に入省。滋賀県事務官、大阪府事務官、山口県事務官・警察部長、福岡県事務官・警察部長、神奈川県警察部長、和歌山県内務部長、新潟県内務部長などを歴任し、1919(大正8)年4月に愛媛県知事に任命された。1921(大正10)年5月、欧米諸国の社会政策研究のための外遊を命ぜられ知事を辞任し、1921(大正10)年6月より香川県知事の佐竹義文らとともに欧米視察。一ヶ年の外遊から帰国後の1922(大正11年)年6月に福島県知事に就任するが、同年10月、わずか4ヶ月で依願免官した。その後、1923(大正12)年6月13日より東京市助役として招へいされ、その3ヶ月後の9月1日に関東大震災が発生した。翌1924(大正13)年9月に東京市社会局長に就任し帝都復興に尽力した。1930(昭和5)年に東京市電気局長・東京市参与となり、後に東京電燈取締役、東京瓦斯取締役、理研護謨工業(現理化学研究所)取締役などを務めた。1946(昭和21)年2月1日、69歳没。
東京市助役・馬渡俊雄

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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