防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

渋沢栄一の経営哲学「論語と算盤(1927年)」から処世信条にまつわる名言(1840~1931 / 日本資本主義の父)[今週の防災格言603]

time 2019/07/15

渋沢栄一の経営哲学「論語と算盤(1927年)」から処世信条にまつわる名言(1840~1931 / 日本資本主義の父)[今週の防災格言603]

『 小事かえって大事となり、大事案外小事となる場合もある。 』

 

渋沢栄一(1840~1931 / 幕臣 官僚・実業家・教育者 日本資本主義の父)

 

格言は著書「論語と算盤(1927年)」第一章「処世と信条」から「得意時代と失意時代」より。

曰く―――。

およそ人の禍(わざわい)は多くは得意時代に萌(きざ)すもので、得意の時は誰しも調子に乗るという傾向があるから、禍害(かがい)はこの欠陥に食い入るのである。されば人の世に処するにはこの点に注意し、得意時代だからとて気を緩(ゆる)さず、失意の時だからとて落胆せず、常操(じょうそう)を以(もっ)て道理を踏み通すように心掛けて出ることが肝要である。それと共に考えねばならぬことは大事と小事とについてである。失意時代における思慮は全くそれと反し、『なにこれしきのこと』と云ったように、小事に対しては殊に軽侮的(けいぶてき)の態度を取りがちである。しかしながら得意時代と失意時代とにかかわらず、常に大事と小事とについての心掛けを緻密にせぬと、思わざる過失に陥りやすいことを忘れてはならぬ。

・・・《中略》・・・

事の大小といったとて、表面から観察して直ちに決する訳にはゆかぬ、小事かえって大事となり、大事案外小事となる場合もあるから、大小にかかわらず、その性質をよく考慮して、然る後に相当の処置に出るように心掛けるのがよいのである。

・・・《中略》・・・

これに添えて一言しておきたいことは、人の調子に乗るはよくないということである。『名を成すは常に窮苦(きょうく)の日にあり、事を敗(やぶ)るは多く得意の時に因(いん)す』と古人も云っているがこの言葉は真理である。困難に処する時はちょうど大事に当ったと同一の覚悟を以てこれに臨むから、名を成すはそういう場合に多い。世に成功者と目される人には、必ず『あの困難をよくやり遂げた』、『あの苦痛をよくやり抜いた』というようなことがある。これ即ち心を締めて掛ったという証拠である。然るに失敗は多くの得意の日にその兆(きざし)をなして居(を)る、人は得意時代に処してはあたかも、かの小事の前に臨んだ時の如く、天下何事か成らざらんやの慨(がい)を以(もっ)て、如何なることも頭から呑(の)んで掛(かか)るので、ややもすれば目算が外れてとんでもなき失敗に落ちてしまう。それは小事から大事を醸(かも)すと同一義である。だから人は得意時代にも調子に乗るということ無く、大事小事に対して同一の思慮分別を以(もっ)てこれに臨むがよい。水戸黄門光圀公の壁書中に『小なる事は分別せよ、大なることに驚くべからず』とあるは、真(しん)に知言(ちげん)と謂うべきである。

… … …

渋沢栄一(しぶさわ えいいち)は、江戸末期に農民から幕臣に取り立てられ、明治新政府では大蔵大丞を務めた。欧州巡遊後、実業界の指導的役割を果たし、第一国立銀行の設立など生涯に約500余の企業を設立し、同時に約600余の社会・公共事業や民間外交にも尽力。多岐にわたる功績により「日本資本主義の父」と称された人物。2024年から新紙幣一万円札の顔となる。正二位勲一等子爵。

天保11年2月13日(1840年3月16日)、武蔵国榛沢郡血洗島村(現埼玉県深谷市血洗島)の農家に生まれる。尊王攘夷の思想に影響され上京、後に一橋慶喜(後の江戸幕府第15代征夷大将軍・徳川慶喜)に仕えた。27歳の時、水戸藩主・徳川昭武に随行し渡欧、パリ万国博覧会などを見学し欧州の先進諸国を見聞し、大政奉還後は大隈重信の説得により明治新政府の大蔵省の一員として国政に参画。1873(明治6)年に大蔵省を辞し、官僚時代に設立を指導した第一国立銀行(現みずほ銀行)頭取に就任、持論「道徳経済合一説」を説き、株式会社組織による企業の創設・育成に力を注ぎ、生涯に約500の企業設立に関わった。晩年も経済界の重鎮として政府に協力し、関東大震災では帝都復興に尽力した。多くの人々に惜しまれながら1931(昭和6)年11月11日に91歳で死去。

尚、渋沢栄一は、15歳の時に安政江戸地震(首都江戸を襲った直下型地震 M6.9 死者1万人)の揺れを田舎で体験。1923(大正12)年9月1日の関東大震災では、日本橋兜町の渋沢事務所内で被災。玄関が崩れたため裏庭から隣接する第一銀行へと避難した。しばらく後に大火災で事務所の貴重な書類が全焼してしまったことを悔やみ、船舶を使って書類を外部に持ち出す時間が十分にあったことや、震災直後の火災を予見できなかった自分の注意力の無さを率直に反省しつつ、帝大(現東京大学)の文化財の数々が灰燼に帰してしまったことについて大学関係者へ

自分が重要な書類を焼いていながら大学を責める事は出来ないという者もあるかも知れないが、自分が悪いから人はそれでよいというものではない。誰でも悪い事はどこまでも悪いと言わなければならぬ。

――と、大学の火災対策について一言述べてもいる。










■「実業家」に関連する防災格言内の主な記事
三井高房(1684~1748 / 江戸中期の豪商 3代目三井総領家(三井財閥))(2019.05.13 防災格言)
浜口梧陵(1820~1885 / 実業家 ヤマサ醤油第7代目社長)(2007.12.24 防災格言)
ハインリッヒ・シュリーマン(1822~1890 / ドイツの考古学者・実業家)(2016.11.21 防災格言)
五代友厚(1835~1885 / 幕末明治期の薩摩藩士・実業家 大阪経済界の功労者)(2021.04.05 防災格言)
大倉喜八郎(1837~1928 / 実業家 大倉財閥の創設者 従三位男爵)(2020.08.03 防災格言)
安田善次郎(1838~1921 / 実業家 安田財閥の創設者)(2011.01.03 防災格言)
渋沢栄一[1](1840~1931 / 幕臣 官僚・実業家・教育者 日本資本主義の父)(2013.03.18 防災格言)
渋沢栄一[2](1840~1931 / 幕臣 官僚・実業家・教育者 日本資本主義の父)(2019.07.15 防災格言)
井上甚太郎(1845~1905 / 実業家 政治家・衆議院議員(政友会))(2019.10.21 防災格言)
益田孝(1848~1938 / 実業家・茶人 旧三井物産の創設者 男爵)(2015.05.25 防災格言)
矢野龍渓(1851~1931 / 新聞経営者・小説家・政治家 代表作『経国美談』)(2022.05.09 防災格言)
本山彦一(1853~1932 / 実業家・大阪毎日新聞社長 貴族院議員)(2018.05.21 防災格言)
内藤久寛(1859~1945 / 実業家 日本石油会社創設者・初代社長)(2014.08.18 防災格言)
ロバート・ボッシュ(1861~1942 / ドイツの実業家 自動車部品メーカー・ロバート・ボッシュの創立者)(2011.12.12 防災格言)
横河民輔(1864~1945 / 建築家・工学博士 実業家 横河グループ創業者)(2010.02.08 防災格言)
大田黒重五郎(1866~1944 / 実業家 芝浦製作所(現東芝)専務)(2012.05.14 防災格言)
平生釟三郎(1866~1945 / 実業家 教育者 政治家 甲南学園創立者)(2009.11.02 防災格言)
志田鉀太郎(1868~1951 / 商法学者・教育者 明治大学総長(第5代) 東洋火災海上再保険代表取締役)(2018.11.26 防災格言)
久原房之助(1869~1965 / 実業家・衆議院議員(5期) 久原財閥総帥(日産・日立グループの前身))(2022.05.02 防災格言)
松永安左エ門(1875~1971 / 実業家・電気事業経営者 衆議院議員(1期) )(2012.08.13 防災格言)
北澤重蔵(1880~1932 / 実業家 天津甘栗「甘栗太郎本舗」創業者)(2015.08.24 防災格言)
石山賢吉(1882~1964 / 実業家・ダイヤモンド社創業者 ジャーナリスト)(2015.02.23 防災格言)
加藤久米四郎(1884~1939 / 政治家・政友会 実業家 衆議院議員(7期) )(2015.10.05 防災格言)
水上滝太郎(1887~1940 / 作家・旧明治生命保険会社筆頭専務)(2015.07.20 防災格言)
阿部良夫(1888~1945 / 物理学者・寺田寅彦門下 早稲田大学教授 北海タイムス社長)(2014.6.30 防災格言)
和辻春樹(1891~1952 / 実業家 船舶工学者・造船技師 大阪商船専務)(2013.01.21 防災格言)
松下幸之助(1894~1989 / 実業家 パナソニック(松下電器)創業者 「経営の神様」)(2021.05.17 防災格言)
稲山嘉寛(1904~1987 / 実業家 新日本製鐵初代社長 経団連会長(第5代))(2018.04.30 防災格言)
本田宗一郎(1906~1991 / 実業家 本田技研工業創業者)(2012.12.31 防災格言)
瀬島龍三(1911~2007 / 実業家・伊藤忠商事会長 関東軍作戦参謀・陸軍中佐)(2017.02.13 防災格言)
若狭得治(1914~2005 / 運輸官僚・実業家 全日本空輸名誉会長)(2014.08.11 防災格言)
坪井東(1915~1995 / 実業家 三井不動産(株)会長 三井ホーム設立者)(2012.10.15 防災格言)
渡辺文夫(1917~2012 / 実業家 東京海上火災保険会長 日本航空会長)(2013.11.25 防災格言)
伊藤淳二(1922~ / 実業家 カネボウ元社長・会長 日本航空元会長)(2010.01.18 防災格言)
牧冬彦(1922~2006 / 実業家・神戸製鋼所社長(第14代) 神戸商工会議所会頭)(2018.01.08 防災格言)
中内功(1922~2005 / 実業家 ダイエー創業者・最高顧問・元会長)(2009.09.07 防災格言)
品川正治(1924~2013 / 実業家 日本火災海上保険会長)(2016.05.30 防災格言)
小倉昌男(1924~2005 / 実業家・ヤマト運輸会長 ヤマト福祉財団理事長)(2016.02.22 防災格言)
関本忠弘(1926~2007 / 実業家 日本電気(株)代表取締役会長)(2012.10.01 防災格言)
星新一(1926~1997 / SF作家・星製薬社長 「ショートショートの神様」)(2021.08.23 防災格言)
五十嵐広三(1926~2013 / 実業家・政治家 阪神淡路大震災時の内閣官房長官(村山内閣))(2022.02.14 防災格言)
堤清二(作家・辻井喬)(1927~2013 / 元セゾングループ代表)(2013.12.02 防災格言)
秋山富一(1929~ / 実業家 元住友商事社長・会長 住友商事名誉顧問)(2013.09.02 防災格言)
児島仁(1930~ / 事業家 NTT相談役 元日本電信電話社長)(2009.02.16 防災格言)
領木新一郎(1930~ / 経営者 大阪ガス元会長 大阪工業会会長)(2008.11.03 防災格言)
柴田俊治(1931~2015 / ジャーナリスト・実業家 朝日放送社長 朝日新聞記者)(2019.01.07 防災格言)
福原義春(1931~ / 実業家 資生堂名誉会長)(2012.01.09 防災格言)
久我徹(1934~没年不知 / 元博報堂常務取締役 元博報堂関西支社長)(2009.04.06 防災格言)
加納時男(1935~2017 / 元・東京電力副社長 政治家・参議院議員(2期))(2008.06.09 防災格言)
三澤千代治(1938~ / 実業家 ミサワホーム創業者 ミサワ・インターナショナル代表取締役社長)(2016.03.28 防災格言)
麻生太郎(1940~ / 自民党政治家 実業家 外務大臣 第92代内閣総理大臣)(2008.01.28 防災格言)
岡本行夫(1945~2020 / 外交評論家・実業家 元外務省安全保障課長)(2018.08.20 防災格言)
出口治明(1948~ / 実業家 ライフネット生命保険創業者・会長兼CEO)(2017.05.22 防災格言)
スティーブ・ジョブズ(1955~2011 / アメリカの実業家 アップル設立者)(2013.9.16 防災格言)

 

著者:平井敬也(週刊防災格言編集主幹)

 

[このブログのキーワード]
防災格言,格言集,名言集,格言,名言,諺,哲学,思想,人生,癒し,豆知識,防災,災害,火事,震災,地震,備蓄,防災グッズ,非常食
みんなの防災対策を教えてアンケート募集中 非常食・防災グッズ 防災のセレクトショップ SEI SHOP セイショップ

メルマガを読む

メルマガ登録バナー
メールアドレス(PC用のみ)
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ

人気記事