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小野蕪子(小野賢一郎)の関東大震災での名言(俳人・小説家・陶芸評論家・東京日日新聞ジャーナリスト)[今週の防災格言673]

time 2020/11/16

小野蕪子(小野賢一郎)の関東大震災での名言(俳人・小説家・陶芸評論家・東京日日新聞ジャーナリスト)[今週の防災格言673]

『 焼けざるところはまた焼くべし、焼けたるところへ避難せよ 』

小野蕪子(小野賢一郎)(1888~1943 / 俳人・小説家・陶芸評論家・ジャーナリスト)

「焼けていない場所はこれから焼けるから、すでに焼けたとこへ避難しなさい」の意味。

格言は関東大震災記『地震と火事』(著書『陶器を試る人へ』(大正14年)集録)より。震災当日(9月1日)からの様子が簡潔な日記にまとまっている。

曰く――――。


一日。
激震、火事、社にてあふ。防火、報道、家をおもふのひまなし。夜を徹す。おどろきと、つかれとにて何の感激もなし、うつうつと銀座街の焼くるを見る。一種恍惚状態にいれるものか。夜明けたりとも日出でたりともおぼえず、水をのみ握飯一個をくらふ。 ・・・(中略)・・・

二日。
へとへとになりて家にかへれば火は次第に迫りくる、荷物はみなくくられたり。かほどの雑物をいかにすべき、みなほどかせて焼くるに任せんとす。毛布、着替一枚づつ、食物を入れたる手提カバン、この外一物をも持つべからず。猫は妻、狆(ちん)は女中抱け、猿は解き放て、親犬はついて来るべし、ただ仔犬をいかにすべきか。 ・・・(中略)・・・ 月を仰いでなげくのみ。焼けざるところはまた焼くべし、焼けたるところへ避難せよと命じ又家を出づ。

三日。
歩きなれねば疲労日々に加はり来る。家にかへれば親族の避難者来れり、水なし、米なし、ふそくなし、芋かゆ、小豆かゆ、いろいろにくらふ。枕行燈をともす。信州よりもらひし蕎麦など、この中の贅なり、余震は絶えず来る。 ・・・(中略)・・・ (『地震と火事』(大正14年)より)

人間を焼く臭ひが天地にこもったことである。被服廠や吉原の人を焼く臭ひが飛行機上の鼻も襲ふたさうだが、下界にゐる私たちは猶更たまらなかった。どこにいっても火葬場の臭ひがした。
モーターボートで大川をのぼった。焼けた上に水ぶくれになってゐる人間が燈籠流しのやうに沖へ沖へとながれてゆくのをみた。五十や八十の人間のながれるのを見ることはわけのないことである。悪食と負けずきらひの私も東京湾でとれる魚を食べる気がしない。まぐろの腹から人間の骨が出てきさうな気がする。
水たまりをみてゐると地が震ふ。光ってゐる水たまりがガラスにヒビが入ったやうにキラキラと裂けるのである。(『余震』(大正14年)より)

※ペットの子犬は六匹いた。狆(ちん)とは金魚のこと。

尚、東京日日新聞社屋(有楽町)で被災した小野は、新聞発行が一時不能となったことから『 紙ではなく、口で報道すべきだ 』と主張し、この意見により社員らはメガホン片手に東京市内外へとくり出すことになった。
人心の安定を一番に考えて、『 帝都は断じて移さるゝ事はない御模様(首都移転はない) 』というニュースを中心に、大火災についての速報を伝えた、という。

《 避難した人たちは私たちの車が動かないほど詰寄せて来て質問したり安心したりした。「風評に迷ふてはイケない、治安は大丈夫だから」といふ事も伝へた。 》

と晩年に述懐している。(『話術覚書』(昭和17年)より)

小野蕪子(おの ぶし / 本名・小野賢一郎)は大正から昭和初期の俳人でジャーナリスト。号は蓼山荘主人・麦中人。

1888年(明治21年)7月2日、福岡県遠賀郡蘆屋村(現芦屋町)生まれ。
16歳で小学校準教員検定試験に合格し代用教員となる。1906年(明治39年)、18歳で朝鮮に渡って「朝鮮日報」や「朝鮮タイムス」などの記者として活躍し、1908年(明治41年)に毎日電業社(東京日日新聞社、大阪毎日新聞の前身、現在の毎日新聞)に入社。毎日電業社が東京日日新聞社に吸収されると社会部記者を経て、事業部長、社会部長などを歴任。1934年(昭和9年)からは日本放送協会(NHK)に移り、文芸部長、業務局次長などを歴任した。
この間に、小説家としては東京日日新聞に小説『溝』(1911年)、『蛇紋』(1912年)などを連載。一時は小説家として独立も考えたが、上司に諌められ、結局新聞社に留まった、という。また、「主婦の友」に発表した小説『奥村五百子』(※肥前唐津出身の明治期の社会運動家で愛国婦人会創設者)が、1929年(昭和4年)に帝国劇場で上演され、尾上梅幸、守田勘彌らの好演により脚光を浴びた。
美術や民芸への造詣が深く、特に陶芸の研究家として知られ、出版社「宝雲舎」を起こして『陶器大辞典』(全6巻)、『陶芸全集』(全4巻)などを編集・出版した。
俳句では1919年(大正8年)に『草汁』を創刊、1927年(昭和2年)「虎杖(いたどり)」の選者となり、1929年(昭和4年)にこれを「鶏頭陣」と改題創刊し没年まで主宰した。
戦時中の「新興俳句弾圧事件(昭和俳句弾圧事件・京大俳句事件)」の黒幕とされ、小野の密告によって多くのプロレタリア俳人らが特高警察に逮捕されたと言われている。
大戦中は、日本俳句作家協会常任理事、後に日本文学報国会俳句部会の審査委員を務め、1943年(昭和18年)2月1日、54歳で死去。
小野蕪子(小野賢一郎)

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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