『 業火もえ 大地ゆりやまず 今し此 うつそみの世の終りは 来しや 』
佐佐木信綱(1872~1963 / 歌人・国文学者 東京帝大講師 文化勲章受章(1937年))
関東大震災の劫火によって、信綱が十二年の歳月をかけ編纂してきた『校本万葉集』は、出版目前にして全てが灰燼に帰した。
印刷直後の初版本、印刷用原稿、写本や資料の多くが焼失したことから信綱は脳貧血を起して倒れてしまったという。
その後信綱は、多くの人からの協力もあって、二年後となる大正14年(1925年)に『校本万葉集』(全25冊)の再出版を果たした。
格言は、震災直後に作った短歌『大震劫火』より。(初出:「心の花」大正12年10月号 / 出典:「編年体 大正文学全集第十二巻 大正十二年」(ゆまに書房 2002年)集録)
曰く―――。
まざまざと天変地異を見るものかかくすさまじき日にあふものか(一日)
業火もえ大地ゆりやまず今し此うつそみの世の終りは来しや
阿鼻地獄叫喚地獄画には見つ言には聞きつまさ目にむかふ
天をひたす炎の波のただ中に血の色なせりかなしき太陽
空をやく炎のうづの上にしてしづかなる月のかなしかりけり(一日夜)
恐ろしみ夜を守る心やから皆い寄りつどひて言も出ださず
もだをりて親子はらから夜を明かすせばき芝生にこほろぎ鳴くも
鶏の夜声しきりに闇にひびきむくつけき夜はやゝくだちたり
夜は明けぬ庭につどへる家びとが命ありし幸に涙おちけり
恐ろしみ明しし朝の目にしみて芙蓉の花の赤きもかなし(二日朝)
蝋燭の息づくもとに親子ゐてつかれ極まりいふ言もなし
此寒き夜の雨の音世をおもひ人をおもふに吾胸いたし
あしたとも昼ともわかず夢の国にいく日を過ぎぬつかれし心
あまりにも天つ災の大いなるに心いたみて泪もいでず(やけあとに立ちて)
こゝをしもありし都と誰か見る赤くただれしこの武蔵野を
夢にあらず此いたましさこはまさに吾前にある現ならずや
まさしくも現にみつゝ猶もこは悪夢の中にありやとおもふ
ただに見るは赤き瓦礫と灰燼(かいじん)とわが東京よいづちにかゆきし
人間の命に殉し家に殉しやけただれたるかなしき樹木
うせし者帰り来しごと水道の水いでたりとかたへにつどふ
大き家うつぶし臥せる傍らにこすもすの花のゆらぎてありけり(郊外にて)
青き芽をいたゞきにふくやけあとの枯木の中の棕梠(しゅろ)の一もと
天つ日は吾らが上にまさやけし昨日のゆめ昨日ならしめ
まことわれら試みの時にあへるなり大き自然の破壊のまへに
いかに堪へいかさまにふるひたつべきと試みの日は我らにぞこし
ちりと灰とうづまきあがる中にして雄々し都の生るゝ声す
… … …
佐佐木信綱(ささき のぶつな)は、明治から昭和期に活躍した三重県出身の歌人。近代万葉集研究の大家として知られ、唱歌「夏は来ぬ」の作詞家としても特に知られている。
生涯に1万余首を作歌し、歌集「思草」「天地人」「山と水と」などを発表、万葉学者として「新訓万葉集」「評釈万葉集」「校本万葉集(全25巻)」、歌学史研究書「歌学論叢」「日本歌学史」「和歌史の研究」「近世和歌史」などを刊行した。文学博士(明治44年)。
明治5年6月3日(1872年7月8日)多数の門弟をかかえた歌人・国学者の佐々木弘綱の長男として三重県鈴鹿郡石薬師村(現鈴鹿市石薬師町)に生まれる。父の指導で「万葉集」や「古今集」「山家集」の名歌を暗誦し、6歳で作歌を始めた。明治15年(1882年)11歳で上京、東京に移り住み、御歌所派の歌人・高崎正風(1836~1912)に入門。明治17年(1884年)12歳で東京帝国大学文学部古典科国書課に入学し、明治21年(1888年)16歳で卒業。「宮仕えせず」という父の教えを受け継ぎ、大学卒業後から生涯文筆生活を続けた。ただ、明治38年(1905年)から昭和6年(1931年)まで東京帝国大学で講師をしたが、これはいわゆる非常勤講師であった。
明治31年(1898年)27歳のとき短歌結社「竹柏会」を主宰し、新井洸、岡田道一、木下利玄、川田順、下村宏、前川佐美雄、九条武子、柳原白蓮、相馬御風、新村出、片山廣子、橘糸重、大塚楠緒子、村岡花子らが門下となり信綱のもとで和歌を学んだ。昭和9年(1934年)帝国学士院会員となり、昭和12年(1937年)には文化勲章受章。公職としては、大正6年(1917年)宮内省御歌所の寄人として歌会始撰者となり、明治天皇御製編纂委員に挙げられ、また貞明皇后ら皇族に和歌を指導した。戦時中の昭和19年(1944年)に熱海の「凌寒荘」に疎開し、ここに移り住み、昭和38年(1963年)12月2日、急性肺炎のため熱海市西山の「凌寒荘」にて没した。享年91。
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