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北澤重蔵が関東大震災の時に遺した格言(甘栗太郎本舗創業者)[今週の防災格言401]

time 2015/08/24

北澤重蔵が関東大震災の時に遺した格言(甘栗太郎本舗創業者)[今週の防災格言401]


『 あの騒ぎ(関東大震災)で、電話は通ぜぬ、電車も動かず
一面の猛火であったから、他の分店の消息など少しも分らない。
すべての事は、天に任せるよりほか致し方がなかった。 』

北澤重蔵(1880〜1932 / 実業家 天津甘栗「甘栗太郎本舗」創業者)

格言は自伝『五萬や拾萬の端金(1925年)』より。
関東大震災の罹災時の様子が綴られている。

曰く―――。

《 当時僕は屋内区裁判所(雪隠(せついん))にあって、盛んに所用を弁じつゝあった処(ところ)、俄然轟々たる大音響と共に、あの大震動に遭遇し、同時にミシミシガラガラと言う物凄い鳴(な)り音(おと)に思わず立ち上って辛うじて、便所の窓口へ縋(すが)りついて僅(わず)かに身を支え、神仏に祈りつゝ、震動の止むのを待つ程に果して震動が止んだ。得たり賢し天の助けとばかりに一目散に往来へ飛び出した。子供は戦(おのの)き怖れて泣き叫ぶ、屋根の瓦はガラガラと落ちて来る。電車軌道へは我も我もと近所隣から集まって来る。其の内に又々大震動がやって来る。子供の顔は青くなる、ふと考えて見ると、僕は便所から出る時、尻を拭(ぬぐ)うことさえ出来ずいつの間にか身に纏った猿股も、何処へやら紛失して仕舞ったが、今は詮索すべき場合ではない。しばらくすると、付近の帝大教室から火災が起きる、本郷元町からも火の手が揚がる、見る見る内に東京一面が火の海と化さんとする有様だ。僕の店舗は本郷五丁目のことゝて、元町一帯御茶ノ水女子師範高等女学校、小学校、幼稚園、順天堂病院を始め、湯島町一帯は見る見る猛火に襲われ、一方帝大の火勢は益々物凄く燃え広がったので、到底自己の店舗とて助かる望みはない。今はこれ迄と覚悟を決めて、店員数名をして重要書類から諸帳簿、身の回りのもの一切を屋内より叩き出させ、避難の準備をした。 》

北澤重蔵(きたざわ しげぞう)は、今に続く天津甘栗専門店「甘栗太郎(現・株式会社甘栗太郎)」の創業者。長野県上水内郡日里村(現長野市)で村会議員や醸酒業を営む家の長男に生まれる。16歳で、組合立中条高等小学校(旧制)の一期生として中くらいの成績で卒業。地元代用教員として働くなか、当時、村で中学に進学する者は誰もおらず、父の反対を押し切って家出同然で上京し、大田区の東京中学校(現上野塾・私立東京高等学校)5年生の教室に21歳で編入学する。若い17、18歳の同級生たちのなかで英語は苦手ながらも物理・数学の成績に秀で、70余名中13番の成績で入学から1年で中学を卒業。帰郷して父の後を継ぎ、醸酒製造業や製糸業を経営するも事業が失敗、借金生活で困窮を極めたが、30代で単身上京し中国大陸(支那)へと渡り、燕山山脈付近でしか取れない天津甘栗の味を知り、輸入を企てた。1914(大正3)年に甘栗専業として販売を開始。1918(大正7)年、東京池之端で世界万博が開催されたのを機に桃太郎にあやかり「甘栗太郎」と命名し実演販売で好評を博した。東京市本郷区湯島6丁目を本店に、日本各地や中国・満州にも支店を設け事業を拡大。1929(昭和4)年には米国にも進出。実業以外にも町議会議員、本郷区議として活躍し公共事業に貢献した。
1932(昭和7)年12月31日、近隣諸国への事業展開を進めていた最中、本郷区湯島6丁目の自宅の隣家で発生した猟銃発砲事件(大晦日猟銃殺人事件)に巻き込まれ志半ばで射殺された。享年52。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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