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沢村貞子(1908~1996 / 女優・随筆家)の自伝『貝のうた』より関東大震災の思い出と名言 [今週の防災格言525]

time 2018/01/15

沢村貞子(1908~1996 / 女優・随筆家)の自伝『貝のうた』より関東大震災の思い出と名言 [今週の防災格言525]


『 あたりはいっぱいの人だった。その人たちが、夜ふけとともにものを言わなくなった。 』

 

沢村貞子(1908~1996 / 女優・随筆家 生涯に350本以上の映画に出演)

 

格言は、自伝『貝のうた』(1969年 新潮文庫)の「関東大震災のころ」より。狂言作家の家に生まれた沢村貞子は震災当時浅草に住んでいた。

曰く―――。

《 大正十二年、九月一日の関東大震災は、私が女学校三年の二学期、始業式の日に起こった。学校から帰った私は、昼ご飯の仕度をしていた。 ・・・《中略》・・・

でき上がったご飯をお櫃にうつし、お豆腐のおつゆの味をみようと小皿を口にもって行ったとき、突然、ゴーッといううなり声とともに家がぐらぐらとゆれ、あわててガスの火を消した私は足がもつれて尻餅をついた。まわりじゅうの壁がバラ、バラと落ちて、鍋の中が白くにごった。 ・・・《中略》・・・

案外、柱がしっかりしていたのか、わが家は、ひどくゆがんだだけで、つぶれなかったが、ちょうど昼飯時だったせいもあって、あっという間に八方から火の手が上がった。みょうにシンとした異様な空気のな かに、激しい叫び声、泣き声が鋭く耳を破った。余震は絶え間なくつづいた。

「私と父さんはもう少し様子を見るから、あんたたちは、とにかく先きへ逃げなさい」

母は、急いで、小豆ご飯のはいったお櫃と三本の鰹節を私に渡しながら言った。弟にはお湯のはいったままの鉄瓶を持たせた。吾妻橋を渡って向島で落ち合う約束をし・・・《中略》・・・

母は、私の腰に、ずっしりと重い袋を結びつけた。五銭白銅ばかりはいった、うこんの財布である。・・・《中略》・・・

結局、私たちは、母と約束した向島へ行けなかった。吾妻橋の上で、向島から逃げてくる人波に、押し返されてしまった。川の向こうも、あちこちに火の手が上がっていた。

やっと、上野の山へたどりついて、その夜をすごした。西郷さんの銅像の傍へ、やっと坐れるだけの席をとった。あたりはいっぱいの人だった。その人たちが、夜ふけとともにものを言わなくなった。無気味な静けさのなかで、動物園のライオンや虎のうなり声だけが、ときどき大きくこだました。上野の山から見おろす下町には、何十本もの真っ赤な太い火柱が、空を焦がすように傲然と立っていた。仮借(かしゃく)なく人間たちを焼き殺す地獄の火がどうしてあんなに美しく見えたのだろうか。 》

 

沢村貞子(さわむら さだこ / 本名:大橋貞子)は、昭和を代表する名脇役女優。浅草で生まれ育ち、1989(平成元)年の女優業引退までに350本以上の映画に出演。また、名文家としても知られ、60歳を過ぎ てからはじめた随筆も11冊が刊行された。

1908(明治41)年11月11日、狂言作者だった父・竹芝傳蔵(本名:加東伝九郎)、兄は歌舞伎役者の四代目・澤村国太郎(1905~1974)、弟は映画俳優の加東大介(1911~1975)という芸能一家の2男2女の二女として東京市浅草区で生まれる。
姉は民俗学者の矢島せい子(1903~1988)、甥(兄・国太郎の息子)は俳優の長門裕之・津川雅彦兄弟である。
夫は今村重雄(俳優)、藤原釜足(俳優)、大橋恭彦(映画・演劇評論家)と3回結婚をした。

浅草尋常小学校を経て、1921(大正10)年に府立第一高等女学校(現・都立白鴎高等学校)に入学。1923(大正12)年の関東大震災で家も焼けたため、一時母親の実家の群馬県吉井町に身を寄せたが、単身東京に戻り、学費を稼ぐために家庭教師をしながら女学校に通った。
1926(大正15)年、日本女子大学師範家政学部へ入学。在学中に役者を志し、新築地劇団の研究生となり初舞台を踏むが、次第にプロレタリア演劇運動へ傾倒するようになり二度の逮捕を経験する。日本女子大学中退し、釈放後は映画女優を目指し、日活現代劇部(日活太秦撮影所現代劇部)に入社。『路傍の石』で性格俳優として注目される。
1956(昭和31)年、『赤線地帯』『太陽とバラ』『現代の欲望』『妻の心』で毎日映画コンクール(第11回)助演女優賞を受賞。1977(昭和52)年に発表した自伝的随筆『私の浅草』で、日本エッセイスト・クラブ賞(第25回)を受賞し、初の自伝『貝のうた』と『私の浅草』は連続テレビ小説『おていちゃん』の原作となる。
80歳になり立ち上がるたびに「どっこいしょ」とかけ声をするようでは女優は務まらないと、1989(平成元)年のNHKドラマ『黄昏の赫いきらめき』を最後に女優業を引退。その後は海を眺められる神奈川県横須賀市の自宅に隠棲し、執筆活動と得意の料理に打ち込む生活を送った。
1996(平成8)年8月16日、心不全で横須賀市の自宅にて死去。87歳。
自宅前が湘南海岸のため、自身の葬儀で混雑したら海水浴客に迷惑との遺志で、訃報は伏せ、近親者だけで密葬が営まれた。
翌1997(平成9)年、日本アカデミー賞(第20回)で特別賞が没後追贈された。
沢村貞子 wikipediaより
『西鶴一代女』(1952年), via Wikipedia





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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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