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寺田寅彦が室戸台風(昭和9年)を契機に遺した随筆『天災と国防』からの名言(物理学者 随筆家 俳人)[今週の防災格言600]

time 2019/06/24

寺田寅彦が室戸台風(昭和9年)を契機に遺した随筆『天災と国防』からの名言(物理学者 随筆家 俳人)[今週の防災格言600]

『 文明がすすむほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防護策を講じなければならないはずである 』

寺田寅彦[9](1878~1935 / 物理学者 随筆家 俳人)

京阪神で死者3千人以上をだす昭和9(1934)年9月の室戸台風後に物理学者の寺田寅彦(てらだ とらひこ)は『天災と国防』(経済往来 昭和9年11月)という随筆を残している。

寅彦が、関東大震災(大正12(1923)年)で横浜から鎌倉までの被害状況を視察したときに、丘陵のふもとの古い家屋が平気だったのに対して、田んぼの中に発展した新興住宅(原文では「新開地の新式家屋」という表記)が破壊されていたのを思い出した。今回の台風では、関西の古い神社仏閣が大丈夫だったが、新しく建てられた学校や工場が無残に倒壊していた。これを受けて以下の考察をしている。

曰く―――。

《 昔の人間は過去の経験を大切に保存し蓄積してその教えにたよることがはなはだ忠実であった。

過去の地震や風害に堪えたような場所にのみ集落を保存し、時の試練に堪えたような建築様式のみを墨守して来た。

それだからそうした経験に従って造られたものは関東震災でも多くは助かっているのである。

やはり文明の力を買いかぶって自然を侮りすぎた結果からそういうことになったのではないかと想像される。

二十世紀の現代では日本全体が一つの高等な有機体である。各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である。

その神経や血管の一か所に故障が起こればその影響はたちまち全体に波及するであろう。今度の暴風(※昭和9年の室戸台風)で畿内地方の電信が不通になったために、どれだけの不都合が全国に波及したかを考えてみればこの事は了解されるのであろう。

・・・中略・・・

それで、文明がすすむほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防護策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできていないのはどういうわけであるか。

そのおもなる原因は、畢竟(ひっきょう)そういう天災がきわめてまれにしか起こらないで、ちょうど人間が前車の顛覆(てんぷく)を忘れたころにそろそろ後車を引き出すようになるからであろう。 》


その他、寺田寅彦の防災格言
国家を脅かす敵として天災ほど恐ろしい敵はないはずである
科学の方則とは畢竟「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。
天災は忘れた頃来る
ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。
戦争はしたくなければしなくても済むかもしれないが、地震はよしてくれと言っても待ってはくれない。
「知らない」と「忘れた」とは根本的にちがう。
大正十二年のような地震が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び東京を見舞うだろうということは、これを期待する方が、しないよりも、より多く合理的である。
地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えている
文明がすすむほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防護策を講じなければならないはずである

■「寺田寅彦」「室戸台風」に関連する防災格言内の記事
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寺田寅彦[3](物理学者)(2009.10.12 防災格言)
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丹羽安喜子(歌人 室戸台風で罹災)(2016.08.22 防災格言)

 

<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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