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有馬朗人（1930～2020 / 原子核物理学者・俳人東京大学名誉教授）の新聞寄稿『空白地帯での地震（半歩遅れの読書術）』から福岡県西方沖地震（2005年）についての名言 [今週の防災格言710]

time 2021/08/02

『全く安定していると思った地方に大地震が起る。』

有馬朗人（1930～2020 / 原子核物理学者・俳人東京大学名誉教授政治家・参議院議員（1期）文部大臣(第125代) 文化勲章受章）

格言は、日経新聞（2005年4月10日朝刊）「空白地帯での地震（半歩遅れの読書術）」より。

曰く―――。

三月二十日、福岡で地震があり、玄界島の被害は大きかった。昨年十月の中越地方と大きな地震が続くことが心配である。世界的にもスマトラの地震とそれに伴う大津波、そしてニアス島の地震と、同じ地方に災害が続いている。五百年以上地震がなく、安全と思われた福岡地方に、どうして発生したのであろうか。

一九九五年阪神淡路大震災の直後、科学技術庁（当時）の依頼で、地震に関する研究会を静岡市と浜松市で開催した。そのとき活断層、井戸水の高さの推移、水中に融けている物質の変化、地電流の変化などの研究、そして防災工学の発展が重要であることを知った。しかし地震予知の難しさをしみじみと悟った。

私は一九九七年、文部省（当時）の依頼で「地震予知計画実施状況等のレビュー案に関する外部評価報告書」を座長としてまとめた。そして一九六二年に発表された「地震予知―現状とその推進計画」は正しかったし、基礎科学的研究は大いに成果を挙げたが、まだ「地震予知の実用化への目途は、三十余年を経た現段階においても立っていない」と述べたのである。その頃から地震予知という言葉への風当りが強くなった。このような風潮に対して批判をしたのが、茂木清夫さんであった。

茂木さんは、『地震予知を考える』（岩波新書、一九九八年）で、予知の可能性を論じている。その中の一つに、今村明恒が五十年も前に主張した、地震空白域の考えがある。例えば一九八三年の秋田県・青森県西方沖の海底でＭ七・七の大地震が発生した。その前兆として、「日本海中部地震の震源域とそのごく周辺で、一九七八年頃から地震空白域が出現していた」「大地震は地震空白域をほぼ埋めるようにおこった」「予知は手のとどきそうなところにあった」「この経験を阪神大震災の予知に生かさなかったことは深く反省しなければならないと思う。」と茂木さんは述べ、阪神にもこの空白域があったことを指摘している。

又、「南のインド半島はきわめて安定した亜大陸である」にもかかわらず、一九九三年「デカン高原のまんなかでＭ六・三のラトゥール地震がおこった。」「地震の活発な地域が南下したのである」という。このように全く安定していると思った地方に大地震が起る。福岡の地震もこのようなものであったのであろうか。これは空白域とも違うのであろうか。この本を読み、あらためて地震予知の研究を進めるべきだと思い茂木さんに同意する。

有馬朗人（ありまあきと）は、東京大学総長や文部相・科学技術庁長官を務めた原子核物理学の世界的権威。「天為俳句会」を主宰する俳人としても知られ、俳句の国際交流や、ユネスコ（国連教育科学文化機関）無形文化遺産登録をめざす活動にも尽力した人物。理学博士。

原子核物理学が誕生した頃から研究をはじめ、有馬・堀江理論（配位混合理論）、原子核の相互作用をするボゾン模型の提唱、原子核のクラスター模型への貢献などの多くの業績で国際的に知られた。
物理学者と俳人ともに数々の業績を残し、仁科記念賞（1978年）、フンボルト賞（1987年）、フランクリン財団ジョン・プライス・ウェザリル・メダル（1990年）、アメリカ物理学会ボナー賞（1993年）、日本学士院賞（1993年）、レジオン・ドヌール勲章（1998年）、旭日大綬章（2004年）、文化勲章（2010年）、蛇笏（だこつ）賞（2018年）を受賞。
代表句集に『母国』（1972年）、『耳順』（1993年）、『立志』（1998年）など。

1930年（昭和5年）9月13日、俳人の両親・有馬丈二、籌子の長男として大阪府住吉区に生まれる。
静岡県立浜松第一中学校（現浜松北高等学校）、武蔵高等学校（旧制）を経て、1953年（昭和28年）東京大学理学部物理学科を卒業。東京大学原子核研究所助手、その後、理学部物理学教室講師、助教授を経て、1975年（昭和50年）より東京大学理学部教授に就任。東京大学大型計算機センター長、理学部長を歴任し、1989年（平成元年）から1993年（平成5年）まで東京大学総長（第24代）を務めた。東京大学退官後は、法政大学教授、理化学研究所理事長、中央教育審議会会長を歴任。
1998年（平成10年）には自民党からの求めに応じる形で、参議院選挙に立候補し比例名簿1位で初当選。小渕恵三内閣の文部大臣として、在任中は国立大学の法人化に道筋をつけたほか、授業内容を大幅に削減した「ゆとり教育」の学習指導要領を告示した。
参議院議員は1期で引退、その後、母校の武蔵学園学園長や静岡文化芸術大理事長などを務めた。2020年（令和2年）12月6日、心不全により東京都世田谷区の自宅で死去。90歳。死後正三位叙位。