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阪神淡路大震災後に騒動となった地震予知デマ情報と五十嵐広三(1926~2013 / 阪神淡路大震災時の内閣官房長官)の名言 [今週の防災格言738]

time 2022/02/14

阪神淡路大震災後に騒動となった地震予知デマ情報と五十嵐広三(1926~2013 / 阪神淡路大震災時の内閣官房長官)の名言 [今週の防災格言738]

『 政府としてはいかなる情報であっても真剣に対応しなければならない 』

 

五十嵐広三(1926~2013 / 実業家・政治家 阪神淡路大震災時の内閣官房長官(村山内閣))

 

阪神淡路大震災(1995年1月17日)の直後、1995年(平成7年)6月7日、北海道札幌市を舞台に、レベルの低い「地震予知のデマ騒動」が日本政府のトップを巻き込んで発生した。

―――未曽有の震災のあと、東京で大地震が起きる、といった「予知情報(デマ情報)」がたびたび週刊誌を賑わすものである。

1995年(平成7年)5月、中国科学院の研究者を僭称する人物が、北京の日本大使館を訪れ、東京を中心とする半径100km以内でM7以上の大地震が5月24日から30日の間に起る恐れがあると「予知情報」を伝えた。この情報は日本の研究者らや国連の関係部局などにも緊急情報としてFAX送信された。もちろん、東京に地震は起きなかった。

その後、この者らは日本大使館を訪れて、6月7日前後に札幌を中心とした半径200km以内でM7前後の大地震が60%の確率で起る恐れがあるという「予知情報」を伝えた。この情報は大使館から外務省を経て国土庁にと伝えられた。国土庁から情報の真偽を確認された茂木清夫(当時、地震予知連絡会会長)は「国内の観測データに異常がない事」や「そもそも外国で発生する地震について根拠のない予知情報を流すことは国際常識として自粛すべきことであり、このような予知情報は無視すべきである」と具申した、という。
しかし、無責任な「予知情報」は、当時の自治省を通じ、北海道庁へと伝えられ、北海道では広報車を出して住民に注意を呼びかけるという事態にまで発展した。
北海道には、もちろん今度も、地震は起きなかった。

翌日の『朝日新聞』は「『予知情報』快走」、『北海道新聞』は「『札幌で地震』怪情報独り歩き―――お役人的ずるずる伝達」の見出しで騒動を詳報した。
まさに日本政府の危機管理の不在の実体をまざまざと見せつけた事件だった。
さらに驚くべきことは、この騒ぎについて当時の五十嵐広三官房長官は6月8日の記者会見で、「 政府としてはいかなる情報であっても真剣に対応しなければならない 」(『朝日新聞』より)と話したという。

日本では、戦後の混乱期に、地震学者の個人的見解として、関東地震説、関西地震説、秩父地震説などが発表され、秩父町では疎開騒ぎが起るなどした。
政府はその都度、委員会を組織し、それらの言説に根拠がないことを確めてから記者会見を行って沈静化につとめた。
このような経験を踏まえ、1969年には地震予知連絡会が発足。全国主要大学と関係国立研究機関の委員らが定期的に夫々のデータを持ち寄り、意見を交換し、その結果を記者会見で公表し、行政関係機関にも説明するという方式が確立し、今日に至っている。
とくに東海地震(南海トラフ地震)では、1978年以来、常時観測体制と判定会による記者発表などの体制が整っており、今までに、大きなデマ騒動はほとんど発生していない。

茂木清夫氏は、著書「考え直そう、地震防災」(岩波ブックレットNo.485 1999年)で…、 “(五十嵐広三官房長官の記者会見の発言は)予知のデマ情報について認識が全く欠如していると言わざるをえない ”…と当時の政府の対応を批判しながら…“ 阪神大震災直後、このようなレベルの低いデマ情報騒ぎが政府のトップを含めておこったことは誠に残念であった。このようなデマ騒ぎをおこさぬよう官民ともに注意しなければならない”…と述べている。
(出典:茂木清夫著「考え直そう、地震防災」(岩波ブックレットNo.485 1999年)より)

 

五十嵐広三(いがらし こうぞう)は、阪神淡路大震災時の村山内閣で官房長官を務め、従軍慰安婦問題や被爆者援護法制定などの戦後処理、アイヌ新法制定に尽力した人物。北海道旭川市長(3期)を経て衆議院議員(5期)を務め、北海道民芸品株式会社社長、株式会社ほくみん代表取締役会長などを歴任した。

1926年(大正15年)3月15日生まれ。1943年(昭和18年)に北海道庁立旭川商業学校を卒業後、愛別村立愛山国民学校の教諭を経て、
戦後の1953年(昭和28年)に旭川市にて民芸品販売店「五十嵐広三商店(後の北海道民芸品株式会社、ほくみん)」を創業。実業家として雑穀商、民芸会社、地方新聞社などの多角的な経営を行い、北海道を代表する総合商社へと成長させた。
1963年(昭和38年)37歳のとき、日本社会党から旭川市長に当選し、以降3期11年を務め、旭山動物園や旭川空港の開設などに尽力。1975年(昭和50年)、1979年(昭和54年)、二度にわたり北海道知事選挙に立候補するも落選。この選挙期間中に雑誌「北方ジャーナル」に北海道知事として相応しくないといった内容の中傷記事が書かれ、札幌地方裁判所に雑誌の出版の差し止めを求める仮処分を申請し、これが認められた。雑誌の事前差し止めが「検閲」に該当するか問う言論の自由についての裁判へと発展し、以降7年間、最高裁まで争われることになる(北方ジャーナル事件)。
1980年(昭和55年)の衆議院総選挙で日本社会党から旧北海2区に出馬し初当選。以後、衆議院議員を5期16年を務め、1993年(平成5年)の細川内閣で建設大臣(第59代)として初入閣し、1994年(平成6年)の村山内閣では内閣官房長官(第58代)を務め、自社さ連立政権を支えた。
1996年(平成8年)に政界引退。勲一等瑞宝章(1997年)、旭川市名誉市民(1998年)。晩年は自身が創業した民芸会社「ほくみん」の会長を務めた。2013年(平成25年)5月7日、肺炎により札幌市内の病院で死去。87歳。没後従三位叙任。


旭川市長時代(1970年頃)








■「阪神淡路大震災」に関連する防災格言内の記事
余禄(毎日新聞 1995年1月18日朝刊)より(2016.01.18 防災格言)
天声人語(朝日新聞 1995年1月27日朝刊)(2009.01.19 防災格言)
AC公共広告機構 阪神淡路大震災キャンペーン広告「人を救うのは、人しかいない」(2009.11.30 防災格言)
地震は起きる。それは「想定」ではない。「前提」だ。:三菱地所ホーム(株)のポスター広告 2015年(コピーライター:谷野栄治、三宅ひづる)より(2021.01.18 防災格言)
和達清夫(1902~1995 / 物理学者 初代気象庁長官)(2007.12.03 防災格言)
本田宗一郎(1906~1991 / 実業家 本田技研工業創業者)(2012.12.31 防災格言)
朝比奈隆(1908~2001 / 指揮者 大阪フィルハーモニー交響楽団創立名誉指揮者 文化勲章受章(1994年))(2014.03.10 防災格言)
鈴木俊一(1910~2010 / 元東京都知事 元内務官僚 東京都名誉都民)(2008.10.13 防災格言)
瀬島龍三(1911~2007 / 伊藤忠商事会長)(2017.02.13 防災格言)
後藤田正晴(1914~2005 / 政治家 内閣官房長官 副総理 警察官僚)(2010.11.29 防災格言)
中内功(1922~2005 / 実業家 ダイエー創業者・最高顧問・元会長)(2009.09.07 防災格言)
村野賢哉(1922~2007 / 科学評論家 元NHK解説委員)(2016.08.08 防災格言)
牧冬彦(1922~2006 / 神戸製鋼所社長・神戸商工会会頭)(2018.01.08 防災格言)
李登輝(1923~2020 / 台湾の政治家・農業経済学者 元中華民国総統)(2015.07.13 防災格言)
下河辺淳(1923~2016 / 建設官僚・都市計画家 国土庁事務次官)(2018.04.23 防災格言)
司馬遼太郎(1923~1996 / 作家・評論家 代表作『梟の城(直木賞)』など)(2015.01.12 防災格言)
陳舜臣(1924~2015 / 小説家・歴史著述家)(2015.01.26 防災格言)
黒岩重吾(1924~2003 / 直木賞作家)(2018.01.22 防災格言)
村山富市(1924~ / 震災時の首相 社民党初代党首 内閣総理大臣(第81代))(2007.12.31 防災格言)
野中広務(1925~2018 / 震災時の自治大臣 衆議院議員(7期) 内閣官房長官(第63代))(2018.02.12 防災格言)
五十嵐広三(1926~2013 / 実業家・政治家 阪神淡路大震災時の内閣官房長官(村山内閣))(2022.02.14 防災格言)
河野保(1927~ / 元朝日監査法人代表 日本公認会計士協会近畿会会長)(2011.01.10 防災格言)
吉村昭(1927~2006 / ノンフィクション作家 代表作『関東大震災』『戦艦武蔵』等)(2021.07.19 防災格言)
篠塚昭次(1928~2016 / 民法学者・不動産法 早稲田大学名誉教授)(2020.01.06 防災格言)
田辺聖子(1928~2019 / 作家・随筆家 文化勲章受章)(2019.06.17 防災格言)
西原春夫(1928~ / 法学者 早稲田大学総長)(2018.04.09 防災格言)
多木浩二(1928~2011 / 評論家・思想家 専門は芸術学・記号論・哲学)(2013.01.14 防災格言)
秋山富一(1929~ / 実業家 元住友商事社長・会長 住友商事名誉顧問)(2013.09.02 防災格言)
西川杏太郎(1929~ / 美術史家 東京文化財研究所名誉研究員)(2017.01.16 防災格言)
池端清一(1929~2007 / 旧社会党出身の民主党政治家 国土庁長官(第27代))(2008.01.07 防災格言)
時実新子(1929~2007 / 川柳作家・エッセイスト 代表作「有夫恋」)(2017.01.23 防災格言)
佐々淳行[2](1930~2018 / 評論家 警察官僚・初代内閣安全保障室長)(2018.10.15 防災格言)
篠塚正宣(1930~2018 / 土木工学者 コロンビア大学栄誉教授 プリンストン大学名誉教授)(2020.01.20 防災格言)
領木新一郎(1930~ / 経営者 大阪ガス元会長 大阪工業会会長)(2008.11.03 防災格言)
柴田俊治(1931~2015 / ジャーナリスト 朝日放送社長 朝日新聞記者)(2019.01.07 防災格言)
伊藤滋(1931~ / 都市計画家 東京大学名誉教授)(2019.07.29 防災格言)
小松左京(1931~2011 / SF作家・小説家)(2011.08.01 防災格言)
早川和男[1](1931~2018 / 建築学者 神戸大学名誉教授 日本居住福祉学会会長)(2014.06.16 防災格言)
早川和男[2](1931~2018 / 建築学者 神戸大学名誉教授 日本居住福祉学会会長)(2019.11.11 防災格言)
海部俊樹(1931~2022 / 政治家・衆議院議員(16期) 内閣総理大臣(第76・77代))(2022.01.31 防災格言)
五木寛之(1932~ / 小説家・随筆家・作詞家・作曲家)(2020.01.13 防災格言)
岩城宏之(1932~2006 / 指揮者 メルボルン交響楽団終身桂冠指揮者)(2008.02.18 防災格言)
吉田正輝(1932~2011 / 大蔵官僚・銀行局長 兵庫銀行頭取)(2019.01.28 防災格言)
依田智治(1932~ / 元自民党参議員 元防衛事務次官 元警察官僚)(2007.12.10 防災格言)
貝原俊民(1933~2014 / 阪神淡路大震災時の兵庫県知事)(2014.11.01 防災格言)
斎藤栄(1933~ / 推理作家 代表作『殺人の棋譜』『魔法陣シリーズ』)(2014.03.03 防災格言)
永六輔(1933~2016 / タレント・作家・放送作家・作詞家)(2016.07.18 防災格言)
藤本義一(1933~2012 / 作家・脚本家 代表作「鬼の詩(第65回直木賞)」)(2011.01.17 防災格言)
中井久夫(1934~ / 精神科医 神戸大学名誉教授 文化功労者)(2020.03.09 防災格言)
久我 徹(1934~没年不知 / 元博報堂常務取締役 元博報堂関西支社長)(2009.04.06 防災格言)
筒井康隆(1934~ / SF作家・小説家・劇作家)(2013.02.18 防災格言)
美智子上皇后(1934~ / 第125代天皇明仁の皇后 旧名・正田美智子)(2010.10.18 防災格言)
堺屋太一(1935~2019 / 作家・経済評論家 経済企画庁長官(第55~57代))(2019.02.11 防災格言)
筑紫哲也(1935~2008 / ニュースキャスター・ジャーナリスト 元朝日新聞記者)(2009.09.21 防災格言)
羽田 孜(1935~2017 / 政治家・衆議院議員(14期) 内閣総理大臣(第80代))(2017.09.04 防災格言)
阿久悠(1937~2007 / 作詞家)(2013.06.17 防災格言)
高橋壽正(1938~ / 元社団法人・全国産業廃棄物連合会技術部長)(2012.01.16 防災格言)
古市忠夫(1940~ / プロゴルファー 兵庫県神戸市長田区出身)(2019.07.08 防災格言)
草地賢一(1941~2000 / 牧師 国際ボランティア学会創設者 PHD協会総主事)(2011.08.29 防災格言)
桂文枝(桂三枝)(1943~ / 落語家・タレント 社団法人上方落語協会会長)(2015.01.19 防災格言)
ジェームズ・L・ウィット(1944~ / 元・米連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官)(2010.01.11 防災格言)
岡本行夫(1945~2020 / 外交評論家・実業家 元外務省安全保障課長)(2018.08.20 防災格言)
斎藤富雄(1945~ / 兵庫県初代防災監 兵庫県副知事)(2017.11.20 防災格言)
遠藤勝裕(1945~ / 震災時の日本銀行神戸支店長)(2017.05.15 防災格言)
鳩山由紀夫(1947~ / 政治家・衆議院議員 内閣総理大臣(第93代) 民主党代表)(2009.08.31 防災格言)
伊集院静(1950~ / 作家・作詞家 CMディレクター 代表作『乳房』)(2012.02.27 防災格言)
大森一樹(1952~ / 映画監督・脚本家 代表作『ヒポクラテスたち』)(2013.04.08 防災格言)
髙村薫(1953~ / 作家 代表作『マークスの山(第109回直木賞)』)(2013.07.29 防災格言)
藤原智美(1955~ / 小説家・随筆家)(2013.08.12 防災格言)
田中康夫(1956~ / 作家・政治家 元長野県知事 元衆議院議員 元参議院議員)(2019.01.14 防災格言)
西村明儒(1961~ / 医師・医学博士 横浜市立大准教授 徳島大学教授)(2009.12.21 防災格言)谷川浩司(1962~ / 将棋棋士 永世名人 日本将棋連盟会長)(2013.03.04 防災格言)
白羽弥仁(1964~ / 映画監督)(2008.01.21 防災格言)
沢松奈生子(1973~ / 元女子プロテニス選手)(2008.1.14 防災格言)
イチロー(1973~ / 元プロ野球選手)(2013.08.26 防災格言)
立春の日のコロンブスの卵(中谷宇吉郎随筆より)(2006.01.17 編集長コラム)
阪神淡路震災より18年(2013.01.17 店長コラム)

 

著者:平井敬也(週刊防災格言編集主幹)

 

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