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寺田寅彦が昭和三陸地震津波(1933年)直後に遺した随筆「津浪と人間」の名言(1878~1935 / 物理学者・随筆家)[今週の防災格言184]

time 2011/06/20

寺田寅彦が昭和三陸地震津波(1933年)直後に遺した随筆「津浪と人間」の名言(1878~1935 / 物理学者・随筆家)[今週の防災格言184]

『 科学の方則とは畢竟ひっきょう「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。 』

 

寺田寅彦(1878~1935 / 物理学者 随筆家 俳人)

 

畢竟(ひっきょう)とは「結局のところ」という意味。
2万人以上の犠牲者をだした「明治三陸地震津波(1896(明治29)年)」から37年後、1933(昭和8)年3月3日深夜に発生した「昭和三陸地震津波(死者3,064人 重軽傷者1,092人)」の直後、寺田寅彦(てらだ とらひこ)は『 津浪と人間 (1933(昭和8)年5月)』と題する随筆を残している。

曰く―――。

同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。歴史に記録されていないものがおそらくそれ以上に多数にあったであろうと思われる。現在の地震学上から判断される限り、同じ事は未来においても何度となく繰返されるであろうということである。
こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える。
津浪に懲りて、はじめは高い処だけに住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間には、やはりいつともなく低い処を求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の一万数千日の終りの日が忍びやかに近づくのである。
これが、二年、三年、あるいは五年に一回はきっと十数メートルの高波が襲って来るのであったら、津浪はもう天変でも地異でもなくなるであろう。
しかし困ったことには「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にも全く同じように行われるのである。科学の方則とは畢竟「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。それだからこそ、二十世紀の文明という空虚な名をたのんで、安政の昔の経験を馬鹿にした東京は大正十二年の地震で焼払われたのである。


寺田寅彦

その他、寺田寅彦の防災格言
国家を脅かす敵として天災ほど恐ろしい敵はないはずである
科学の方則とは畢竟「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。
天災は忘れた頃来る
ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。
戦争はしたくなければしなくても済むかもしれないが、地震はよしてくれと言っても待ってはくれない。
「知らない」と「忘れた」とは根本的にちがう。
大正十二年のような地震が、いつかは、おそらく数十年の後には、再び東京を見舞うだろうということは、これを期待する方が、しないよりも、より多く合理的である。
地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えている
文明がすすむほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防護策を講じなければならないはずである
文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増す。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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