防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

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小田原評定
小田原評定おだわらひょうじょう  [編集長コラム]
 
16世紀の戦国時代、豊臣秀吉が30万人という軍勢で、北条家の小田原城を取り囲んだ。
迎える北条軍は5万人と圧倒的な大差であった。
小田原城内は、毎日のように「戦うか」「降参するか」と会議が行われたが、意見がまとまらず、いたずらに月日を費やし、結局、意見のまとまらないまま、秀吉軍に滅ぼされてしまった。
いつしか、いつまでたっても決まらない無駄な会議のことを小田原評定と言うようになった。
 
世の中には結果的に無駄だった議論というのも存外多い。
特に2人よりも3人、3人より4人と大きな組織体であればあるほど、権限や責任の所在があやふやとなりやすい。
小田原方も、その時、議論に参加していた人たちは真剣だったはずだが、残念ながら、結果的に彼らの議論は何の意味も為さなかった。

「小田原評定」は、予測のつかない危機的状況に陥ったときの教えだ。
つまり危機管理の教えだともいえる。
 
危機管理では、危機的な状況に遭遇したケースを予め想定し、被害を最小限に食い止めるべく迅速に行動できるように、事前にマニュアルを定めておくことが重要である。
口で言うのは簡単だが、緊急時に迅速に動けるためには、行き当たりばったりでは難しい、マニュアル通り事務的にこなすだけの事前の訓練や準備も必要なのである。

しかし、多くの人は「災害は忘れた頃にやって来る」と寺田寅彦の言葉をそのまま額面どおりに受け取ってしまい、どこかで準備を怠ってしまう。
「忘れた頃にやって来たのだから・・・」という言い訳をしているのではいつまで経っても進歩がないのだ。

「災害は忘れた頃にやってくるのだから、日頃の備えが大事だ」が教訓としては望ましいのである。
 
実は、危機管理のマニュアルを運用する側の問題で、防げたはずの事故というのは意外と多いように思える。
後になって後悔しても失った命の代償は大きい。
「防げたはず」と後悔する大きな要因の中に、人間の心構えが足りない、という種類があるのだと思う。

しかし、いつ起るかとも分からない危機なので、もしかすると生涯一度も起らないかもしれない。
また、起ったとしても自分には関係ないかもしれない、そんなはっきりしないものに予算は掛けられないし、真剣に取り組むのはどこかでバカバカしいと思ってしまう。
かと言って国民保護の法律もあることだし、形だけでもマニュアルを作っておかなければ・・・といった行政も存外多いのではないかと疑ってしまう。

マニュアルをただ形だけ作っただけとなっていては、訓練も運用も、下手すると担当者がマニュアルの存在すら何も知らない、なんてこともあり得そうな話である。恐ろしい。
 
2003年7月20日、九州北部で猛烈な集中豪雨が降った。雨の影響で熊本県水俣市の河川が氾濫し、ガケ崩れが発生して土石流により19人が亡くなる痛ましい水害となった。世にいう水俣土石流災害である。
この時、災害の起る数時間前に気象庁から「大雨洪水警報」が発令されていた。そして、死者の出る数十分前には、当時の水俣市が作成していた防災マニュアルの基準に照らしても、「避難勧告」がいつ付近住民に出されてもおかしくない状況まで河川が増水していた、と当時の新聞にあった。
にも関わらず、結局、事故を前にして避難勧告は一度も出されることはなかった。結果的に土石流が住居を押し流し死者19人を出してから1時間ほど後、水俣市全域に避難勧告が発令されたのだという。
 
避難勧告というのは、通常は、政府の指針などに従がって、その地域の自治体が独自に基準やマニュアルを作成し、それらの規定に基づいて自治体の長が「避難勧告をする」「しない」を判断し発令されるものである。
 
もし避難勧告を発令しても、実際には被害が少なかったり、更に、何も起きないかもしれない。
避難させてしまったことにより商店が休業となり、経済的損失だけが発生してしまうかもしれない。
ひょっとすると損害倍賞なんて責任問題となるやもしれない―――というように避難勧告発令に躊躇する自治体の葛藤も色々と想像できるが、なぜ避難勧告が出されなかったのか、本当のところはいつも余り報道されないので良くわからないのがもどかしい。

ただ、政府の要人だって市町も自治体の職員だって人の子なのだろうから自分たちの決定に不安を覚えたのかもしれない、と思う。もし、そうだとしたら一体何のためのマニュアルだったのか?と思うのだ。

■寺田寅彦の格言天災は忘れた頃にやってくる解説

■「集中豪雨・土砂災害」に関連する防災格言内の記事
 小田原評定(水俣土石流災害)(2006.1.29 編集長コラム)
 災害対策が災害を呼ぶ 利根川改修工事に見る例(2010.2.26 編集長コラム)
 利根川の洪水想定 首都圏で死者4,500〜6,300人(2010.3.5 編集長コラム)
 今週の防災格言<125> 慈善家・奥貫友山氏(2010.4.5 防災格言)
 豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(2010.7.20 編集長コラム)

■「安全論・危険論」「防災論」「安全神話」に関連する防災格言内の記事
 -「安全」を考える(2004.9.30 編集長コラム)
 -日本の防災制度(2004.11.24 編集長コラム)
 -教訓(安全神話とは何か)(2005.1.17 編集長コラム)
 -苛政猛於虎也(苛政は虎より猛なり)(2005.04.13 編集長コラム)
 -小田原評定(2006.1.29 編集長コラム)
 -災害に備えるということは?(防災論事始)(2007.10.3 編集長コラム)
 -毒矢の教え(フェイルセーフ論)(2010.7.30 編集長コラム)

<編集長 拝>

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