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九州を襲った日本最強台風「シーボルト台風(1828年)」での被害や流言飛語にかかわる名言(『鍋島直正公伝』第1編より)[今週の防災格言624]

time 2019/12/09

九州を襲った日本最強台風「シーボルト台風(1828年)」での被害や流言飛語にかかわる名言(『鍋島直正公伝』第1編より)[今週の防災格言624]

衆心しゅうしん驚悸きょうきなおまず、恟々きょうきょうとしてやすところもなかりしに。 』

 

鍋島直正(1815~1871 / 大名・肥前国佐賀藩主(第10代) 大納言)

 

1828(文政11)年9月17日から19日にかけて、日本の過去300年間で最強とされる最低気圧900hPa、最大風速50メートルの猛烈な台風が九州に上陸した。
たまたま、日本の科学の発展に大きな貢献をしたオランダ商館付のドイツ人学者・シーボルト(1796~1866)が長崎に滞在していて、この時の気圧や気温を観測していた。
シーボルトが帰国しようと乗り込んでいた船は台風のために大破した。船の積荷から外国へ持ち出すことが禁じられていた日本地図が発見され、シーボルトは出島に禁固されて幕府の取調べを受け、翌年、国外追放・再来日禁止の処分を受けた。世にいう「シーボルト事件」である。後の気象史家は、この時の台風を「シーボルト台風」と名付けた。

この台風で、高潮などにより肥前佐賀藩内(佐賀県)だけで1万人が亡くなり、九州北部全体で死傷者4万人に達する大災害となった。
佐賀藩内の主な被害は、死者1万人、負傷者11,373人、全壊35,364戸、焼失1,677戸。高潮が大託間に及んで伊万里の街を洗い、佐賀城下では土石流により八丁馬場や伊勢の町屋が全滅し、筑後川は死体で埋まった。ほかに、鹿児島で死者53人、熊本県天草で33人、長崎で3,435人、福岡で1,000人、久留米地方で370人、山口県下関で500人以上、石川・富山で190人、と記録されている。

最大被害となった肥前佐賀藩内(佐賀県)では、台風の直接被害と大火災に加え、町は流言飛語に翻弄された。

『鍋島直正公伝』第1編に、9月19日夕方に人騒がせな男二人が「また高潮が来るぞ」と叫びながら城下を走り去り、路上はさながら蜂の巣をつついたようにパニック状態になった町人らが右往左往しながら荷物を捨てて高台へと逃げ惑う様子が描かれている。
川上、水上、春日山、熊山などは人が溢れかえり、道路には慌てた町民らが落した遺失物が散乱したが、結局、はるか海面には何らの異常もなく、人々は狐につままれたような気持ちで呆然となりながら散じ帰った。衆心の動揺はなお止まらず、数日後には「大地震があるぞ」と風評が流れ、人々は恐れおののく毎日を過ごした、という。

 

曰く―――。

《 八月九日(※文政11年:太陽暦1828年9月17日)の夜、大颱風襲来し、豪雨なるため山嘯海嘯併せ起り、肥前領内到る処の山谷海浜を蕩壊し、家屋樹木を吹倒したり。 ・・・中略・・・・ かゝる大変災にて人心の恟々(きょうきょう)たるに乗じ、十一日の夕方、又も海嘯寄せ来と呼ばゝりつゝ、青襦袢(じゅばん)を着、手拭にて鉢巻したる男二人、連立ちて城下を走り去りしが、一時かくと聞きたる城下の士民は、男女悉く家を棄てゝ北山へ走り逃れしを以て、路上は宛ら蜂窩(蜂の巣)の破れたるが如く、或は風呂敷包を負ひ、或は飯櫃(びつ)を抱きて、悪鬼に追はるゝ亡者の如く、右往左往先を争ひ、もどかしと之を道に遺棄するあれば、帯解けたれども結ばん暇なくて其儘(そのまま)に放却する婦人もありたりき。かくて、遺失物は道路に狼藉し、川上、水上、春日山、熊山等は悉く人に埋みて雑沓(ざっとう)したりしが、遂に海面を望むに及んで何等の異状もなかりしを以て、衆皆狐に魅せられたるが如き心地して、茫然として散じ帰れり。 ・・・中略・・・・ されど衆心の驚悸は猶(なお)熄(や)まず、数日ありて又大地震あるべしと風評し、恟々(きょうきょう)として安き所もなかりしに。 》

 

鍋島直正(なべしま なおまさ)は、江戸時代末期の大名。第10代肥前国佐賀藩主。
文化11年12月7日(1815年1月16日)、9代藩主・鍋島斉直の嫡男(三男)として生れる。天保元(1830)年に家督を相続し、第10代藩主となった。
儒者(朱子学者)古賀穀堂(こが こくどう / 1778~1836)らを用い、フェートン号事件(1808年)による警備費用の負担増やシーボルト台風(子年の大風)(1828年)の被害などで財政破綻状態にあった佐賀藩の財政を再建させ一躍佐賀藩を雄藩にした人物。「佐賀の七賢人」の一人。
役人削減とともに藩政機構を改革し、出自に関わらず有能な家臣を積極的に登用させ、西洋文化の積極的な移入をはかり、磁器・茶・石炭などの殖産興業にも努め、同時に藩校弘道館を拡充し優秀な人材を育成する教育改革を行い、藩の近代化の先駆けとして、将来にわたる佐賀藩の財政再建と軍備の近代化を成功させた。1871(明治4)年1月18日、薨去。没後、正二位のち従一位贈。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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