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災害対策が災害を呼ぶ 利根川改修工事に見る例

time 2010/02/26

災害対策が災害を呼ぶ  利根川改修工事に見る例
災害対策が災害を呼ぶ 利根川改修工事に見る例  [編集長コラム]

徒然なるままに・・・コラムを。

流域面積日本一、信濃川に次ぐ二番目に長い日本一ビッグな川が利根川である。もちろん日本の一級河川である。
徳川家康将軍が治めた江戸時代から利根川の大きな流れは、歴史的な災害が多発し、度重なる改修事業(江戸時代は一般的に東遷事業と呼ぶ)に費やされてきた。

近代的な改修工法による利根川改修計画は、明治33(1900)年に始まった。
この時、それまでの洪水時の最大水量 3,750 m3/s(立方メートル/秒)というデータを元に、最大の増水量 3,750 m3/s を無事に流すことを目的に堤防建設や支流への分流工事などが行われた。

それまでの利根川水害の最大洪水流量
水害 流量
明治18(1885)年7月水害 3,700 m3/s
明治23(1890)年8月水害 3,780 m3/s
明治27(1894)年8月水害 3,710 m3/s
明治29(1896)年9月水害 3,870 m3/s

しかし、この工事の途中である明治43(1910)年8月に 847名の死者・行方不明者を出す大洪水が発生した。
この時の流量は6,960 m3/sを記録。

つまり想定していた水量より2倍近い洪水が発生してしまったのである。

当然、利根川改修計画の目標水量は、明治44(1911)年に変更がなされ、総延長204kmに及ぶ堤防が昭和5(1930)年に完成することになる。

ところが、昭和10(1935)年9月の洪水では 流量 9,030 m3/sに達し、再度の改修がなされることになった。

しかし、今度は、昭和22(1947)年9月のカスリーン台風による洪水(死者・行方不明者:1,100名、浸水家屋:約30万戸)では、流量 17,000 m3/s が発生してしまった。

年を増すごとに利根川水害の洪水量が増していった。

これは、地球温暖化や気候変動だとかの影響で、年々、降雨量が増えていっているからである・・・なんてことではなく、単に改修工事の結果として、利根川の流量が増えていってしまったという “悪循環” が発生していたのである。

何も利根川に限ったことではなく、こういった状況は、多かれ少なかれどこの河川でも見られる現象という。

「いつまでたっても河川の工事って終わらないよね」という地元民の”ボヤキ”は、実はこの様な理由も一つにある、ということだ。

水害から住民の暮らしの安全の守るための河川工事では、その工事によって被害の形も変わってくるのである。

たとえば洪水災害による堤防決壊ヶ所を調べると、年とともに次第に上流へと移っているという。

ある災害が起きたとき、その後の対策として、その場所に堤防が築かれる。
当然、その河川の本流はしっかりと補強されることになる。
その結果、水害に強くなった護岸は、決壊という事故がなくなるため、大雨による増水の時には、これら下流に水が溜まりやすくなる。
つまり、流しの水漏れをしないようにしたつもりが、それが栓になってしまって、かえって上のほうに水が溜まってしまったということだ。

また、河川沿岸の低地など遊水域を護岸工事することに、もともと人の住んでいなかった場所に新たな土地が生まれ、家が建つようになると、新たな洪水被害が発生することにもなる。

例え、同じ場所で発生した災害でも、被害がいつも同じだとは限らないということも知っておくとよい。

以前も書いてきたが、絶対の安全というものはない。だから危険をゼロにすることは出来ない。
特に、複雑で微妙なバランスのもとで成り立っている自然環境が起こす災害というものは予測が難しい。
災害は起こる、ということを前提に、発生したときにできるだけ被害を分散し、受け流すことができる社会システム(減災)が今求められている。

参考URL:利根川ダム総合管理事務所

関連コラム⇒利根川の洪水想定 首都圏で死者4,500〜6,300人(2010年3月5日)

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