『 六〇年代以降、それまでさほど注目されなかった集中豪雨による山・崖崩れ、土石流などのゲリラ的な災害が目立って多くなってきた 』
倉嶋厚(1924~2017 / 気象学者・気象キャスター 元気象庁主任予報官)
格言は日本気象学会「藤原賞(2005年度)」受賞記念講演:「風水害の時代的変遷と防災気象情報の発展」より。(出典:日本気象学会機関誌「天気 vol.52」(2005.12))
曰く―――。
1960年以前の大台風の死者の内訳を見ると、たとえば洞爺丸台風(1954年)の死者1761人中その81%の1428人は洞爺丸を含めて函館港の船舶の転覆・沈没によるものであった。
また狩野川台風(1958年)の死者1269人の82%は狩野川水系の洪水によるものであり、伊勢湾台風(1959年)の死者5098人の72%は伊勢湾の高潮によるものであった。このことは交通機関の運航管理、大河川の治山治水、海岸防備が適確に行なわれていれば、大台風の死者の70~80%は防げること、つまり死者数を一桁下げられることを示しており、60年代以降の死者数の減少は、台風災害に対する大作戦の一応の成功によるものであったといえる。
しかし、60年代以降それまで大洪水・大高潮などの大型災害に隠されてさほど注目されなかった集中豪雨による山・崖崩れ、土石流などのゲリラ的な災害が目立って多くなってきた。ここにいう「ゲリラ的」の意味するものは、その生起の突発性、意外性、予測の困難性、局地・小規模・激甚性、同時群発性などである。
この種の災害の増大は人口の過密化、急傾斜地への生活圏の拡大、都市水害の変貌(遊水地への密集住宅域の拡大、舗装・排水路の整備・ショートカット方式の河道改修による出水の早まりと流出波形の先鋭化、地下室・地下道への浸水など)、レジャー人口の増大による野外での激烈な気象現象との遭遇率の増大、人口過疎地の荒廃などによるものであった。
… … …
倉嶋 厚(くらしま あつし)は、気象庁で主任予報官、鹿児島地方気象台長などを歴任し、定年退職後の1984年から97年にかけてNHKのお天気キャスターとして人気を博し、また、気象エッセイストとして多数の著作を刊行した気象学者。夏の季節風であるモンスーン研究で知られ、「熱帯夜」という用語をつくった人物としても知られている。
1924(大正13)年1月25日、長野県長野市に生まれる。
1949(昭和24)年、中央気象台付属気象技術官養成所研究科(現・気象庁気象大学校)を卒業後、気象庁へ入庁。気象庁主任予報官、札幌管区気象台予報課長、鹿児島地方気象台長を歴任され1984(昭和59)年に定年退職するまで、35年間にわたり天気予報・気象警報の業務に従事。その後の12年間は、NHK解説委員としてラジオ・テレビ番組の人気お天気キャスターとして活躍した。
1997(平成9)年、73歳のときに最愛の妻に先立たれ、喪失感から強いうつ症状に苦しみ、何度も自殺衝動に駆られた。その体験をもとにエッセイ『やまない雨はない:妻の死、うつ病、それから…』(文藝春秋 2002年)を上梓。後に渡瀬恒彦、黒木瞳の配役でテレビドラマ化もされた。2017(平成29)年8月3日、腎盂がんのため埼玉県川口市内の病院にて死去。93歳。
NHK放送文化賞(1996年)、日本気象学会藤原賞(2005年)、勲三等瑞宝章(1996年)など。
画像:YouTube NHK「ニュースセンター9時」1984.12.24
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