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江戸時代前期の代表的農書『百姓伝記』(1680~1682年・著者不明)巻七「防水集」に記された洪水の心得から[今週の防災格言557]

time 2018/08/27

江戸時代前期の代表的農書『百姓伝記』(1680~1682年・著者不明)巻七「防水集」に記された洪水の心得から[今週の防災格言557]

『 洪水たりとも、半日か一日の大雨にて満水まんすい多かるべし。大雨・大風の二日をすぎたる事なし。二ときときをふせぎ、かこへば引水ひきみずとなる。 』

『百姓伝記』(1680~1682年・著者不明)巻七「防水集」より

天和年間(1680~1682年)に著されたとされる江戸時代前期の代表的な農業手引書『百姓伝記』(ひゃくしょうでんき / 著者不明)には、「防水集」と題する巻七に、経験的に得られた出水の状況判断などの洪水の知識、また洪水に対する具体的な対策や技術・心構えなど、この時代の河川防災に関する様々な心得が記されている。

格言は「防水集:大河の堤をつく事」より、出水の特徴を記したもの。一時(いっとき)は約二時間、の意。

口語訳「洪水は、出水によりたとえ越水したとしても、半日か一日だけ手をあててでも防ぐことが重要である。洪水は、半日か一日の大雨で河川の水が一杯となることが多いが、豪雨や台風は二日続くものではなく、四~六時間を防ぎ、水をかこえば水は引いていく」。

(出典:古島敏雄校注「百姓伝記(上)」(ワイド版 岩波文庫<188> 2001年))

曰く―――。

「大河の堤をつく事」
堤を大河の水かこひにつくる事、いか程つよき洪水有共(とも)、我々がかゝゑの所(※各人の分担の所、の意)をきらさぬ様につくが巧者なり。たとへ満水に及びて、堤をのり越水たり共、半日か一日は、手をあてゝもふせぐ心得肝要也。洪水たり共、半日か一日の大雨にて満水多かるべし。大雨・大風の二日を過たる事なし。二時三時をふせぎ、かこへば引水となる。

「川除こゝろへの事」
川除(かわよけ)は堤をきらさぬ備へなり。つねの水にも、川のまがりめありては、水あて、堤の根ほれて淵となり、次第に堤あせきれるなり。ひたもの堤裏に土を置て、にげつき(逃げ築=後退しながら前提の後に土をおいていく)に堤をつけば、其処弥(いよいよ)まがりて水あたる。さやうなる処を、川むかひとこなたに水よけをして、水の押付(おしつけ)をやわらげ、堤をつよくし、淵には洲を居させ、瀬をちがふる(※河の早く深く流れる所を変える)事肝要也。大水の時は、取わけさやうなる所へ水当り、あぶなし。つねにかこひをするが備へ也。

・・・中略・・・

万一洪水の節、水下(みずしも)の村里より出て、堤をかゝゑる(※堤をまもる、の意)人足等のつもりをしてしり、何方より何方まで、何村何千石の人足(※村名・村高を記す、の意)にて堤をかゝゑ、大水をふせぎ分と定、杭に書付をして、つねに川下の村里の土民、男・女・子どもまでも知るやうに云合(いいあわせ)・定置(さだめおき)、夜中たり共(とも)出集り、堤をかゝゑて水難をのがるゝ心得かんやうなり。

「水の出はなを知事、同ひかたをしる事」
川々洪水に大水の出来る時、川上のちかきは、水色に山々里々の上土を流すに、ごみ・あくた・木・かやのこげて(※根もとよりぬけて、の意)ながるゝ事すくなく、水の黒みすくなく、あわたつ事大きならず。あわのうちごみ・あくた・木・かやの葉すくなし。水の増に随て、あわくろみ、水色どろこくなり、あわの外にも木かやの葉・ごみ・あくたちりぢりになりて流れきたる。

・・・中略・・・

洪水と云には、遠き川上、近き水上二日三日も雨降つゞきて、後一日か半日大雨ふりて、山の水も里の水も一同に落かゝる。依之見分仕安し。常ならぬ草木の葉、水に先立て流れ来る。どろ水こくなるは水増なり。ごみ・あくた多く流出るは、猶満水也。水上谷々の水なる故、出はなには水先々々たかくなりて押来る。何国の川も、水の出来(できた)るを知ば、別儀なし。

「大水をふせぐ事」
むかしより大洪水と云、雨一日降たる事なしといひ伝へる。三間先の見へわからぬ程に、大雨三時ふりては、山海ひとつになると云。伝え承るに、左様なる雨ふりたる事、百歳に及ぶ土民もしらず。然ば三日四日五日の雨を合ても、大洪水と云程なる雨はすくなかるべし。只二時(とき)三時(とき)の水先をしのげば、大難儀のがるゝものなり。

※川除(かわよけ)は治水工法のことで「水防」の意味。特に堤を切らさぬための施設をいう。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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