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豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(土砂災害警戒区域)

time 2010/07/20

豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(土砂災害警戒区域)
豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(土砂災害警戒区域)  [編集長コラム]

今からちょうど1年前の2009年7月21日、山口県防府市では大雨が続いていました。
1時間に最大51mm、連続雨量で264mmという猛烈な大雨が降りました。
昼頃、大規模な土砂崩れが起き、山口県防府市真尾にある特養老人ホーム「ライフケア高砂」にいたお年寄り7人が土砂に巻き込まれて亡くなりました。

昨年(2009年7月19日〜21日)の中国・九州北部豪雨では、死者34人、重傷21人、軽傷38人という被害となりました。
特に、山口県防府市の土砂災害では14人が亡くなりうち65歳以上が13人にのぼったといいます。

この写真を見てください。

左の山から土石流が右のライフケア高砂に直撃しています。
近くに真尾川と言う川が流れていますが、土石流は、この川の氾濫により発生したものではありませんでした。
きっと川でもない山から突然、土石流が襲ってきたのでしょう。
しかし、この周辺には山側に沿って棚田が多く、その棚田の中に、ぽつんとライフケア高砂が位置しています。
地勢的に、古来から土砂災害の多い場所ではなかったのかと思われますが、通常であれば、この立地で、住まいを建てようとする人は少ないのではないでしょうか。

この災害を受け、1年後の2010年6月18日、国土交通省から「土砂災害のおそれのある災害時要援護者関連施設の調査結果」が発表されました。

調査によると、全国には、土砂災害の恐れのある13,730施設の災害時要援護者関連施設(いわゆる老人ホームなど)があるとが判明。
そのうち、砂防堰堤等の砂防関係施設がすでに整備されている施設(いわゆる土砂災害対策の出来ている施設)は全施設の3割に満たないという結果でした。
また、土砂災害の恐れ・可能性のある場所は、国や行政により「土砂災害警戒区域」に指定されるのですが、約7割の施設は土砂災害の恐れがある場所に立地しているのに関わらず、この指定がなされていないことが確認されたといいます。

政府は、今後、調査結果に基づいて、関係省庁・都道府県及び市町村と十分連携を図った上で、施設の規模や構造等の特性を踏まえて砂防関係施設の整備を重点的に実施するとともに、土砂災害警戒区域等の指定による危険な箇所の明示及び警戒避難体制の整備を推進するなど、ハード・ソフト一体となった重点的な土砂災害対策を実施するとしています。

政府のプレスリリースはいつも言葉が難解ですけども、

要するに、全国13,730施設が土砂災害の起きやすい場所に立地していて、そのうち7割の9,565施設が土砂災害警戒区域にすら指定されていない。土砂災害対策がとられている施設は全国13,730施設中で3,598施設(僅か3割以下)だということです。

土砂災害の恐れのある災害時要援護者関連施設数 13,730施設
うち、土砂災害対策の実施状況 砂防関係施設が整備されている施設数
3,598施設


土砂災害警戒区域に指定されている施設数
4,165施設


砂防関係施設が整備され かつ警戒区域に指定されている施設
1,153施設


【関連資料の外部リンク】
土砂災害のおそれのある災害時要援護者関連施設の調査結果について by 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/000116739.pdf
http://www.mlit.go.jp/common/000116740.pdf

さて、このニュースには、国や行政の限界が見え隠れしています。

災害時要援護者関連施設(老人ホームなど)の土砂災害について、実際に、国や県の課題としてあげられていることは、「福祉医療施設(要援護者対策)についての施設における土砂災害対策や防災マニュアル作成指針の作成」だといいます。

でも、よーく考えて欲しい。
この対策は、防災(災害を防ぐ)というよりも、起こったときにどうするかという減災(災害を減らす)に力を入れている点を。

内陸部の地震(いわゆる直下型地震)のように発生する場所も被害も予測が難しい災害では、建物を耐震化したり、インフラを強化して「減災」に努めることしか命の対策はない。
しかし、大雨などによる洪水・土石流などの災害は、あらかじめ危険な場所をかなりの確率で予測できます。
だから土砂災害から命を守るには、本来なら、あらかじめ災害が起きないように防いでしまう「防災」こそ望ましいのです。
最も簡単な対策は、災害が起きそうな場所に建物を建てないことで、ほとんどの災害を未然に防ぐことができるでしょう。

実際、老人ホームなどが建てられる時に、地域住民が「環境が悪化するから=老人が徘徊したり死者が出るから嫌だ」というよな理由で、建設に反対したりします。
すると、安全な場所や町中には建てる場所がなくなってしまい、しかたなく僻地(これが危険な場所だったりする)に追いやられて施設を建てざるを得ないという悲しい現実があります。

この根本的な原因は、国や行政が立てる対策や方針には全くといいってほど書かれておりません。
また、マスコミもそれを報道することはありません。

防災の根本的な対策は、そもそも、災害の発生しない場所にこれらを建てることではないのか?
確かに、一般論で言えば、危険地に老人ホームのような施設や家を建設しないことが一番の対策です。

ただ、老人ホーム(介護施設)などの事業は、地価の安い場所に建設することで、その分、居室や設備などを充実させることができるというメリットもあるのでしょう。実際に、そういう立地の対策では、頑丈な防護壁を設けたり、建物の構造から対策がとられたりしているそうです。

でもね、それを当然だからって・・・だって仕方ないんだもん、と「危険が起きた時にどうするか」という対策ばかりが計画に持ち上がるのはやはり問題ではないかと私は思います。

危険な立地に建てられた施設を、建てた後から対策を取ろうとすると、それには、たいへん大きな労力とコストがかかります。
普通に、最初から危険のない立地に建てたほうが、遥かに費用が安いかもしれませんしね。

建てる場所については、このような災害の対策の議論にすらあがりません。

住民の理解と啓蒙に務める、とかなんとかいう議論があっても良いのじゃないのだろうか。

とこのニュースを見て思いました。

■「集中豪雨・土砂災害」に関連する防災格言内の記事
 小田原評定(水俣土石流災害)(2006.1.29 編集長コラム)
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 豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(2010.7.20 編集長コラム)

<編集長 拝>

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