首都圏帰宅困難989万人 帰宅困難者対策最終報告書を考える [編集長コラム]
帰宅困難989万人…社内に3日待機・備蓄要請(読売新聞)――――内閣府と東京都などでつくる「帰宅困難者等対策協議会」は10日、震災発生時などを想定した帰宅困難者対策の指針をまとめた。
・・・というニュースが先日ありました。
まず最初に言っておくと、
2011年3月11日の東日本大震災の時、首都圏は「被災地」ではありませんでした。
だから首都圏に住んでいた多くの人たちは「被災者」ではないということです。
首都圏で亡くなった方々もおられるので語弊があるかとも思うので断っておくけれども、
地震の揺れとその後の停電などに巻き込まれた当事者ではあったものの、強い揺れによる被害でその後の生活が困難になった液状化被害地域や大津波に襲われた岩手県や宮城県、福島県の住民などの文字通りの震災と、震度5程度の揺れにあっただけの場所では、その被害程度も規模もだいぶ様相が異なる、ということです。
だが、首都圏にも帰宅するのに一時的に困った人たちがいました。
でも、彼らは一時的に帰宅困難者予備軍になっただけでした。
つまり、帰れなくて困った、という人も多くいたけれども、これらの多くも正確には帰宅困難者ではない。
家族を持たない単身者だったら、自宅で幼い子供と妻がまっている妻帯者とは帰宅に対する意識が大きく異なるだろうし、歩いて帰れる距離にあっても歩くのが面倒だから無理して帰らなくてもいいや、とか、何となく周りの雰囲気に流されて施設などに泊まってしまった人も存外多くいました。
しばらくすれば電車や交通機関が復旧し帰れた人たちがほとんどで、一部の交通機関が復旧しても、もう夜も遅いからというよな理由で帰らなかった人も多かったのです。
それでも、政府の推計で約515万人の帰宅困難者が発生したと言われています。
そして、先日、
もし、数千人、数万人が亡くなるような大地震が東京で発生したら・・・という想定のもと、首都直下地震による帰宅困難者対策の「最終報告書」が9月10日に発表されました。
今回の報告書は、言うなれば、被災地でもないのに515万人の帰宅困難者が発生してしまった3月11日の想定外の事件を教訓に作成された指針でもあったのです。
さて、
今回のポイントは「地震になったら一斉帰宅をさせないぞよ」という点に尽きます。
その理由は以下の通りです。
首都圏直下で大地震が発生した際、もし、大量の帰宅困難者が一斉に帰宅を開始してしまったら、それらの人々が、救急・救助・消防・消火・緊急輸送を行う車両の通行の邪魔をしたりと、初動の応急活動に支障が生じてしまうかもしれない。
だから、そういう混乱のリスクをあらかじめ排除するために、首都圏の企業は従業員等を帰宅させないようにしなければならない(一斉帰宅抑制)。
また、企業は、従業員等を無理に帰そうとすると混乱に巻き込まれてかえって身が危険であるから、従業員の安全を確保するという意味で会社や施設などに待機させることが重要である。
というよなロジックです。
報告書を読んでいて、気になる点は、帰宅困難者の定義が報告書内で改めてなされていない点です。
ま、多少あいまいでも一般の人たちには<帰るのが大変な人>というよな意味は通るので良いとは思いますが、検討会の人たちの苦労がしのばれるのは、報告書全文にわたって「帰宅困難者等」と帰宅困難な人たち以外も対象とするように”等”という文字が付け加えられている点です。
つまり、自宅の所在地が会社から物理的にも徒歩圏ではない遠方の社員(数時間程度の徒歩ではとても帰れないような場所に住んでいる)、また、身体が不自由なので徒歩では帰れない人、などは交通機関がストップすることで帰りたくても帰れない帰宅困難者となります。
電車が止まってしまった駅前で、どうしようかな、と滞留している人の中でも、しかたないから一時間くらい歩いて帰ろうかな、と思える人は正確には帰宅困難者ではありません。
また、一部の交通機関が止まってしまったが、比較的に早い段階で代替の交通網(バスとか)が復旧し、これに乗っていけばそんなに苦労なく帰れる、なんて目算がある場合は、この人も帰宅困難者ではありません。
でも今回の報告書ではこれらの帰宅困難者になるかもしれない予備軍の人たちも「帰宅困難者等」に含まれるわけです。
要は、会社の隣近所に住んでいますなんて社員を除き、会社はほぼ全社員を帰らすな、ということになるわけです。
そして、これは、想像以上に企業経営者にとって大変な負担を余儀なくされることになるでしょう。
問題は、社員全員をいつまで会社に待機させておかなければならないか、ということ。
それは、最長で3日間、ということになります。
更に、社員(従業員等)の安全を守らなければならない企業としては、
一人当たり1.65平米の収容スペースを確保するとともに、自治体と協力(協定締結)して、社員じゃない他人にも一時滞在施設としてこの場所を提供しなくてはなりません。
当然に、社員ほぼ全員分の食糧や物資を確保しなくてはならないでしょう。
例えば食事ならば、1人1日3食を食べるのだから、3日間で一人当たり9食分を確保する必要があります。
予知できない災禍は突然襲ってくるものなので、それらの物資は、いつでも確保していなくてはならず、自ずとあらかじめ「備蓄」するしか確保方法はないのです。
食料の他にも、水や毛布(ブランケット)の確保と、トイレやごみ処理なども必要となるでしょう。
企業は、普段からこれら物資を備蓄し管理しなければならないため、保管スペースの確保と共にそれらの管理コストもかかるし、また、管理・運営マニュアル類の策定などしなければなりません。
どれだけ企業経営と直接関係のないコストがかかるのか、誰が見ても明らかでしょう。
良くある防災ニュースの業界笑い話で、近隣の仕出弁当屋と協定を結んだ自治体や企業が、もしもの災害時に、その仕出弁当屋から食料を人数分を届けてもらいましょう、なんてのがありますが、こういうのは備蓄とは決して言えません。どちらかというとジョークの類と言います。
12年ほど前からメルマガなどで何度かお伝えしてきましたが、
上記のような備えのスタイルは、広域にインフラが破壊される大規模災害にはそもそも向きません。
そこには他人へ自らの責任を丸投げしているだけで、どのように物資を確保しそれらをどのような方法で配給するか、というBCPの基本的な方法論がすっぽりと抜け落ちているからです。
また、被災した小さな者(自治体など)が自分よりも大きな者に救援を求める場合に有効な方法であったとしても、逆を言うと、小が大を助けることは絶対に不可能であることを認識する必要があります。
だからこそ、首都圏の災害では特に特徴的に、自ら備える(自助)という備蓄精神がより一層重要となります。
しかも今回の報告書がやっかいなのは、社員じゃない他の人たち(たまたま助けを求めてきた赤の他人の帰宅困難者たち)の必要物資と収容スペースの確保も謳われています。
その赤の他人のための必要量として、概ね10%を余分に備蓄しなさい、と言っています。
そもそも、有事への備えという意味合いの備蓄というものは、理想的には、経済的にも安定して体力に余裕のあるときに実行されるべきものです。
十数年以上も不景気な状況が続く中の経営に関係のない余計な経費は、誰もが嫌がるものではないかと思います。
先年の311震災の時、首都圏の私企業や自治体は、日頃からの備蓄物資を、善意から、助けを求めてきた赤の他人に無償配給しました。
でも、その多くは、本来ならば被災しなかった地域には不必要で過剰な供出となりました。
明確な配給指針やマニュアル類が、あの時はまだ未整備だったところが多かったからでもあります。
配ってしまった食料や水や毛布などのイザというときのための備蓄物資が無くなって初めて、これを補充・補填するのに苦労した私企業も多くいるのです。
報告書にはこう書かれています。
≪「一斉帰宅抑制の基本方針」を実効あるものとするためには、首都圏全体で基本方針に沿った取組を行う必要があることから、この基本方針を個人や企業等へ周知し、理解や協力を得るために〜<中略>〜考え方に従った取組を官民挙げて進めていく必要がある。≫
企業の社会的な責任と、それをバックアップする官の処理能力(金銭面のバックアップ、協定締結の条件やら災害救助基金の活用)が求められています。
●基礎資料
一斉帰宅抑制における従業員等のための備蓄の考え方
首都直下地震帰宅困難者等対策協議会・最終報告・平成24年9月10日発表より
1 対象となる企業等 首都直下地震発生により被災の可能性がある国、都県、市区町村等の官公庁を含む全ての事業者 2 対象となる従業員等 3 3日分の備蓄量の目安 4 備蓄品目の例示 (備考) (例)非常用発電機、燃料(危険物関係法令等により消防署への許可申請等が必要なことから、保管場所・数量に配慮が必要)、工具類、調理器具(携帯用ガスコンロ、鍋等)、副食(缶詰等)、ヘルメット、軍手、自転車、地図 (例)非常用食品、ペットボトル入り飲料水、運動靴、常備薬、携帯電話用電源 |
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