ローリングストック法とは、普段購入する食品を少し多めに購入して、古いモノから順番に使うことで常に一定の食料を家庭に備蓄することです。
それって 買いおきと何が違うのか? と思いますよね。
そこで、ローリングストック法について考えてみました。
備蓄の意味
そもそも、なんで備蓄をしなければいけないのでしょうか?
それは、食料安全保障の問題だからです。
農林水産省は、
「食料は人間の生命の維持に欠くことができないものであるだけでなく、健康で充実した生活の基礎として重要なものです。全ての国民が、将来にわたって良質な食料を合理的な価格で入手できるようにすることは、国の基本的な責務です。
このため、平成11年7月に公布・施行された「食料・農業・農村基本法」においては、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保することとしています。」(※1)
と言っています。
備蓄は法律で定められた国の義務です。
日本の食料自給率
それでは、私たちの生命を維持するのに必要な食料は十分に確保されているのでしょうか?
そこで、日本の食料自給率についても農林水産省のホームページを確認します。
すると、
「我が国の食料自給率は、自給率の高い米の消費が減少し、飼料や原料を海外に依存している畜産物や油脂類の消費量が増えてきたことから、長期的に低下傾向で推移してきましたが、カロリーベースでは近年横ばい傾向で推移しています。」(※1)
とあります。
昭和40年(1965年)以降の食料自給率(※1)
さらに、
「令和12年度までに、カロリーベース総合食料自給率を45%、生産額ベース総合食料自給率を75%に高める目標を掲げています。また、飼料自給率と食料国産率についても併せて目標を設定しており、飼料自給率と食料国産率の双方の向上を図りながら、食料自給率の向上を図っていきます。」
とあります。
どうやら日本の食料自給率はかなり低いらしいことが分かります。なにしろ、表から分かるとおり、かつて(昭和40年代)の半分近くにまで低下し続けているのですから。
ちなみに世界の食料自給率事情についても、農水省のホームページに資料があります。
日本と諸外国の食料自給率(※1)
もしも不測の事態が起こったら、私たちは食事が摂れるのでしょうか?
不測の事態はたくさん考えられます。大規模自然災害や異常気象、地球温暖化による農作物への影響、家畜や水産物の伝染病、人口の増加、戦争や国交の断絶による輸入の停止、現在も世界中で蔓延し続けるコロナウィルスによる感染症。これら不測の事態により経済が停滞し、貿易や流通がストップしたら、私たちは国内で生産される食料だけで生きていかなければいけません。
ここまで見てきたとおり日本の食料自給率は足りていないため、緊急事態に備えて何か対策をとらなければいけません、それが備蓄です。防災には公助・共助・自助という分類がありますが、公助は行政による備え、共助はコミュニティや企業(団体)による支え合い、そして自助とは自分と家族の安全は自分たちで守るという考え方です。緊急事態に備えるには、公助と共助と自助を駆使して行う必要があります。
家庭内備蓄は足りているか
このうち自助で行う備蓄を家庭内備蓄といいますが、私たちは、どのくらい家庭内備蓄をしているでしょうか。
下表をみてください、内閣府が不定期で行う防災意識調査で、災害に備えて準備していることの内「食糧や飲料水を準備している」と答えた人の割合を調査の年の順に並べた推移表です。この表に因れば、1987年に11パーセントの人しか家庭内備蓄を行っていなかったのが、1995年の阪神淡路大震災の後に20%台になり、東日本大震災を機に40%台となっているものの、未だ半分を割っており、しかも前回(2013年)調査時よりも2017年は1パーセント減っています。
内閣府:防災に関する世論調査より筆者作成(※3)
半分以下の人しか食料備蓄をしていないことも問題なのですが、さらに問題なのはその中身です。静岡県が実施している南海トラフ地震(東海地震)についての県民意識調査 平成29年度(静岡県危機管理部危機情報課)(※2)によれば、「今、災害が発生したと仮定して、あなたのお宅では、利用できる食料は家族の何日分ありますか」という質問に対して、4日以上の食料備蓄があると答えた家庭は、38.9%となっており、防災王国静岡の住民でも1週間以上の食料備蓄をしているものは、19.6%とわずかでした。
食料自給率が低くて、備蓄をしなければいけないけれど、家庭内備蓄もそれほど多くないようすです。いやいや公助と共助があるでしょうと言う方のために、国や自治体の食料備蓄は基本的に被災者のための食料であり、運よく(運悪く)被災を免れたご家族の食料は用意されていません。
もしも、それでも強引に国や自治体の備蓄食糧を配布することを考えた場合、国民一人につき1食さえも配れない備蓄量となります。
毎日、有り余るほどの食料を目にしており、賞味期限が過ぎたり、食べきれなくて廃棄している食料がたくさんある事を考えると、不思議な気持ちになります。
そこでローリングストック法の登場です。
急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド
「農林水産省では、食料安全保障の観点から、地震などの大規模災害や新型インフルエンザなどの新型感染症といった緊急時に備え、日頃から家庭での食料品の備蓄に取り組むことを推奨しています。」(※1)
農林水産省のパンフレット(※1)
家庭での備蓄が進まない主な理由は、置く場所が無い、面倒である、お金がないということです。ローリングストック法なら、普段の買い物をちょっと多めにすることで家庭内での食料備蓄を増やすことができるというわけです。
これ、でも考えてみると、パンフレットに書いてある通りの買いおきです。
買いおきなら、どこの家庭でも普段からやっているでしょうから、ハードルは低いはず。だから家庭内備蓄は増やせると思うのですが、そこに落とし穴があります。
たとえばこんな風に考える方も多いのではないでしょうか?
「買いおきなら、普段からしているなぁ」「あれも備蓄なのか、それなら我が家も備蓄をしていることになるな。」と、
備蓄を二つに分けると、積極的な備蓄と間接的な備蓄が考えられます。前者は緊急事態に備える意思をもって備蓄すること、後者は意思はなかったが気がついたら備蓄していた。買いおきは後者の備蓄です。先の内閣府の調査に「備蓄をしている」と答えた方の中には、間接的な備蓄の方がいるのでは無いかと推察します。
農林水産省のパンフレット(※1)
この間接的な備蓄、普段の行動でとられる買いおきは、緊急事態に備えての十分な食料を備蓄できないのではないだろうか?と心配になります。少し多めの食料で、災害時の不足する食糧は補えるのでしょうか?
もう一度、農林水産省のホームページで確認しますと、「簡単!「ローリングストック」」のパンフレットの下の方に、このように書かれています。
「主に災害時に使用する「非常食」だけでなく、日常で使用し、災害時にも使えるものを「ローリングストック」としてバランス良く備えることが大事です。」
つまり、家庭内備蓄はローリングストックだけではだめで、非常食(備蓄食・防災食)もあわせてバランス良く備えるのが良いということです。
賞味期限25年の超長期保存食サバイバルフーズの備蓄と、買いおきによるローリングストックを組み合わせて、万が一の緊急事態でも3日以上(できれば7日以上)の食料を確保するべく、家庭内備蓄の大幅増量を実行してください。
参考資料:
1)知ってる?日本の食料事情(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/
2)平成29年南海トラフ地震(東海地震)についての県民意識調査(静岡県危機管理部危機情報課)
3)内閣府「防災に関する意識調査(S62年8月)、平成元年7月、平成3年7月、平成7年9月、平成9年9月、平成14年9月」「防災と情報に関する世論調査(平成17年8月、平成21年12月)」「防災に関する世論調査(平成25年12月、平成29年11月)」