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海外情報(シンガポール)から食品汚染と風評被害を考える

time 2011/04/07

海外情報(シンガポール)から食品汚染と風評被害を考える

海外情報(シンガポール)から食品汚染と風評被害を(ちょっとだけ)考える  [編集長コラム]

まずは、私のブログ記事を読む前に、

【放射能漏れ】水の基準値、国際機関でも違いあり 日本は厳格(2011.4.5 産経新聞)
の記事を読まれることを推奨する。

さて、

シンガポール政府は、輸入した野菜から放射性物質が見つかったなどとして、現在(2011/4/7)、日本の11都県からの野菜・果物の全面輸入禁止措置を発表している。

最初に日本からの輸入禁止を発表したのは、3月23日夜に、福島、茨城、栃木、群馬県産の野菜、生乳に高濃度の放射能が発見されたという日本政府発表を受けたことに端を発している。

【主な参考資料】
厚生労働省:東日本大震災関連情報(水道・食品関係)
食品の放射性物質検査について検査結果(PDF:746KB)
日本の食品の暫定規制値(平成23年3月17日 食品衛生法)

そして、福島、茨城、栃木、群馬県産の牛乳、乳製品、野菜、果物、海産物、肉の輸入停止がシンガポール政府で決定され。
同時に、シンガポール政府は、日本から輸入する食品の検査強化を行ったため、現在も継続して輸入停止の状態が続いているというわけである。

現在、シンガポールでは、以下の地域からの野菜・果物の全面輸入禁止措置をしている。

兵庫、静岡、神奈川、東京、埼玉、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛 (以上11県)

また、以下の地域からの牛乳、乳製品、海産物(魚貝類)、肉類の輸入禁止措置をしている。

福島、茨城、栃木、群馬 (以上4県)

なお、シンガポールで輸入食品のテストをしている機関はシンガポール農産物獣医庁(農畜産物管理庁とも言う)(AVA = Agri-Food & Veterinary Authority of Singapore)である。

現時点で、シンガポール政府は、全食品輸入総量に占める日本からの輸入割合は0.5%未満であり、海産物も2%未満と取るに足らない値であることから、禁輸によるシンガポール国民への影響はかなり低い、とコメントしている。

以下、シンガポール当局による日本の禁輸地域の時系列変遷を記す。

3月23日(火):福島、茨城、栃木、群馬 合計4県
(理由:日本政府の高濃度放射線汚染の野菜、生乳の発表を受け)

3月25日(金):福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛 合計6県
(理由:シンガポール農産物獣医庁の検査で、千葉・愛媛の三つ葉、菜の花、オオバからヨウ素131、セシウム134・137を微量検出)

3月26日(土):福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛、東京、神奈川、埼玉 合計9都県
(理由:3/25-26に輸入した東京産のネギからヨウ素131 = 226 Bq/kg、神奈川産のキャベツからヨウ素131 = 936 Bq/kg , セシウム134 = 242 Bq/kg , セシウム137 = 474 Bq/kgを検出)

3月31日(木):福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛、東京、神奈川、埼玉、静岡 合計10都県
(理由:3/30に輸入した静岡県産の小松菜からヨウ素131 = 648Bq/kg , セシウム134 = 155Bq/kg , セシウム137 = 187Bq/kg を検出)

4月4日(月):福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛、東京、神奈川、埼玉、静岡、兵庫 合計11都県
(理由:4/2に輸入した兵庫県産のキャベツからヨウ素131,セシウム134を微量検出)

シンガポールでは、3月27日(日)より関東全域からの野菜・果物の輸入禁止をした形になる。

また関連ニュースとして、3月29日(火)に愛媛県は、シンガポールで放射性物質が検出されたとされた愛媛県産オオバについて在シンガポール大使館員が検体に使われたオオバを写真で確認・調査したところ、日本語で福島県産を示すシールが付いていたという。しかし、この時、輸出用の書類には英語で「愛媛県産」と記されていたという。農水省では「何らかの原因で書類の記載に間違いがあった可能性もある」とし輸出業者などから事情を聴く方針だという。

参考記事:【放射能漏れ】輸入停止野菜、産地誤る? 放射性物質検出めぐり(2011.3.29 産経新聞)

新たに、神奈川や東京などが加わったのは、以下の理由による。

2011年3月25日〜26日にかけてシンガポールに輸入された日本食品の放射線検査結果で、

神奈川産 キャベツ(Cabbage Kanagawa):ヨウ素131 = 936 Bq/kg , セシウム134 = 242 Bq/kg , セシウム137 = 474 Bq/kg

東京産  ネギ(Leek Tokyo):ヨウ素131 = 226 Bq/kg

が発見されることになる。

検査結果:AVA SUSPENDS IMPORT OF FRUITS AND VEGETABLES FROM KANTO REGION IN JAPAN : Detection of radioactive contaminants in another two samples of vegetables from Japan

シンガポールの食品の放射性物質残留基準(The Codex guidelines for radionuclides in food)では

ヨウ素131(Iodine131) 100 Bq/kg:ただし育児食を除く
セシウム134(Cesium134) 1,000 Bq/kg
セシウム137(Cesium137) 1,000 Bq/kg

とのことで、禁輸となったらしい。

シンガポール政府が指標としている食品の放射性物質の基準は、コーデックス委員会(The Codex)を基にしているのが、この報告書により読み取れる。

コーデックス委員会(COC)とは、FAO(国際連合食糧農業機関)やWHO(世界保険機関)が合同で設置した国際的な国際食品規格委員会で、日本政府(農水省)も1966年より加盟していることになっている。

コーデックスでは、食品の残留放射性物質基準のほかにも、チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺ガンの発生状況により乳幼児用の異なる基準も設けている。

参考資料:コーデックス委員会:食品の残留放射性物質の基準リスト基準を検索する

コーデックスの基準には法律上の強制力はないが、半ば、WTO(世界貿易機関)の国際ルールとなっているため、基準に従わなかった場合には各国はその国の食品を輸入しないというペナルティが科せられる。

コーデックス基準193 : 食品汚染物質と毒素の一般規格(CODEX STAN 193:General Standard for Contaminants and Toxins in Food and Feed)

上記基準をみてみると、

コーデックス基準193 食品の放射能基準

 

コーデックス基準193 食品の放射能基準

乳幼児用食品(Infant foods)と、一般食品(Foods other than infant foods)という分け方になっている。

ヨウ素131(I-131):100 Bq/kg(乳幼児用食品) / 100 Bq/kg(一般食品)
セシウム134(Cs-134):1,000 Bq/kg(乳幼児用食品)/ 1,000 Bq/kg(一般食品)
セシウム137(Cs-137):1,000 Bq/kg(乳幼児用食品)/ 1,000 Bq/kg(一般食品)

シンガポール政府からの禁輸を受けて、小松菜で引っかかった静岡県では、4月1日(金)に静岡県独自で小松菜を検査しヨウ素131 = 32.4 Bq/kg だったと発表した。これは、日本やEUの基準値(2,000Bq/kg)を大幅に下回ることから「安全」をアピールしたという。

参考記事:シンガポール、県産農産物輸入禁止 静岡(2011.4.3 産経新聞)

産経新聞の記事によるとEUは 2,000Bq/kg という基準値らしい。

そしてこの値は、日本の食品の暫定規制値(平成23年3月17日 食品衛生法)と同じであるとしている。

参考資料:EUの基準値(COUNCIL REGULATION (EURATOM):laying down maximum permitted levels of radioactive contamination of foodstuffs and
of feedingstuffs following a nuclear accident or any other case of radiological emergency, 2007)

では、EU基準をみてみる。

EU ヨーロッパの食品の放射能基準

こちらは、

乳幼児用食品(Infant food)

乳製品(Dairy produce)

一般食品(Other foodstuffs except minor foodstuffs)

飲料(Liquid foodstuffs)

という別け方になっている。

ヨウ素131(I-131):150 Bq/kg(乳幼児用食品) / 2,000 Bq/kg(一般食品)
セシウム134(Cs-134):400 Bq/kg(乳幼児用食品)/ 1,250 Bq/kg(一般食品)
セシウム137(Cs-137):400 Bq/kg(乳幼児用食品)/ 1,250 Bq/kg(一般食品)

ということだ。

一方で、

アメリカの基準(FDA = アメリカ食品医薬品局)はというと、

FDA アメリカの食品の放射能基準

ヨウ素131(I-131):170 Bq/kg
セシウム134(Cs-134):1,200 Bq/kg
セシウム137(Cs-137):1,200 Bq/kg

ということだ。

さて、

4月1日(金)に静岡県独自で検査した「小松菜」はヨウ素131 = 32.4 Bq/kg だったのに、実際にシンガポールで3月30日(水)に輸入された静岡県産「小松菜」は、ヨウ素131 = 648 Bq/kg だった。

検査結果の開きは、20倍以上もある。

そんなに、値に違いがでるものなのか。

記事からは分からないので、かなり偏見じみた解釈をするならば、

静岡県では小松菜をよく洗ってから検査した値で、シンガポールでは洗わないままの検査結果だったという解釈もできる。

また、洗ってなくても、

静岡県のはハウス栽培で、シンガポールに輸出されたのは外で栽培されたものと、憶測することも自由にできてしまう。

新聞記事では「科学的なデータ」を基にした説得記事であるにもかかわらず、かんじんの文章そのもは「科学的でない」という致命的な欠点があるのだ。

そのため、この記事を読んだ人は、きっと風評被害を恐れるあまり都合の良いデータを持ち出して抗弁している、とさえ受け取りかねないのだ。

データだけが一人歩きし、余計に混乱してしまう。

風評被害を抑える目的であるならば、新聞記事中にも、検査方法や収穫日、栽培方法などもちゃんと併記すべきではなかろうか。

ただ、東京と神奈川に関して、3月25日〜26日にかけてシンガポールに輸入されたキャベツやネギに放射性ヨウ素131が多く含まれていたのは、恐らく、3月20日(日)〜3月24日(木)にかけて関東地方で収穫された野菜だった可能性がある。
また同じように、3月30日に輸入された静岡県産の小松菜も、この雨の時期に収穫されたものという考え方もできるだろう。

この3月20日(日)〜3月24日(木)にかけて関東地方の天気は雨で、大気中に拡散している放射性物質が雨と一緒に地上に落下したことに影響を受けたものと思われる。

参考資料:都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果(東京都新宿区百人町)

都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果

ヨウ素131など、低い時と比べ雨の時には、4300倍以上も値が高くなっているのが分かる。

つまり収穫時期(の天候)によっては、放射性物質の値は、大きく異なる可能性があるということだ。

放射性ヨウ素131の半減期は8日だという。

シンガポール(3/30輸入 収穫日は3/22前後?)と静岡県(4/1収穫)の(恐らく)同じ地域、同じ栽培方法の小松菜のデータ。

静岡から発表された値をシンガポールの発表と比較できるだけのデータであると信頼するのであれば、

葉野菜の放射性物質は、気象条件に大きく左右されること。
そして、それが、日にちが経つにつれて、放射性物質の半減期より値が大きく減る可能性があること。

により、安全性は十分担保されている。

それよりも、これが風評被害だというのであれば、
もっと風評を抑える方向の科学的データをばんばんとリリースすべきじゃなかろうかと思う。

そもそも国内基準が諸事情でころころと大きく変わるということが問題をややこしくしている。
今まで、その基準というものに翻弄されてきた人も多数いるのだから・・・。

※追伸(2013.11.22更新)
2013年4月9日のニュースで ≪ シンガポール農食品・獣医庁(AVA)で、日本から輸出される食品(牛乳・乳製品、肉・肉製品、鶏卵、海産物、果物、野菜)に関する輸入規制緩和 福島を除く7都県からの輸入停止措置解除 ≫とありました。

■関連記事
産地偽装を考える(2011.04.08 編集長コラム)

<編集長 拝>

 

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