『 関東大震災の様なタイプの地震が、東京で考えられる唯一のものではない。いろいろなものが起こり得る。 』
宇津徳治(1928~2004 / 地震学者 日本地震学会会長 東京大学名誉教授)
格言は1988(昭和63)年5月に参考人として出席した国会災害対策特別委員会の発言から。
曰く―――。
私は関東大震災は経験しておりませんが、私の父母と姉は経験しました。我家は東京港区の下町にあり、非常に大きな揺れではあったけれども家には全然被害はなく、棚の瓶が数本倒れた程度で、壁が割れることもなく、瓦がズレたこともなく、それから町の中で倒れた家も一軒もなかったということでした。それで、関東大震災の被害は震動ではなく火災によるものが非常に多かったわけです。倒壊家屋は山の手の方で1%程度、下町の方でも10%程度で、関東大震災ではそれほど強い揺れではなかったのです。
関東大震災と全く同じタイプの地震が近く起こるということは可能性は非常に低いと思いますけれども、違った場所に起こるかなり大きな地震ということはあり得ます。そのとき災害がどうなるかは、その地震のタイプ、季節、時間帯等によって大きく違うのではないかと思います。例えば、やや遠い非常に巨大な地震ですと、長周期の震動が卓越しましてエレベーターなどはひどくやられるのではないか、しかし木造家屋の倒壊というようなことは余りない。あるいは逆に、直下型の比較的小規模な地震ですと、短周期の震動が非常に卓越しまして、ブロック塀の倒壊とか看板が落ちるために多くの人が怪我をするとか、そういう現象が起こるけれど、大きな建造物などは全然影響がない。災害予測というのは、その条件を選ぶことによって非常に大きく変わります。
首都圏は非常に巨大なものですから、99.9%が安全でも残りの0.1%に被害があると、もとが巨大ですからその0.1%を掛けただけでも数としては非常に大きなものになりますので、大変心配です。
そういう訳で、今関東大震災が起こったらば東京でどうなるかということは予測が大変難しい。地震の多様性あるいは災害の多様性ということで、その時々に応じてどういうところが強調されて現われるかによってタイプが大きく違ってくると思っています。
… … …
宇津徳治(うつ とくじ)は「統計地震学の権威」で知られる地震学者。単純な余震確率の推計モデル「大森公式の改良」や「宇津・関の式」など地震モーメント公式やプレートテクトニクス論が確立する以前に島弧周辺のマントル構造「宇津モデル」を提唱し、根室半島沖周辺の第1種地震空白域を指摘したほか、歴史地震をまとめたデータベース「宇津カタログ」「世界の被害地震の表」などの研究でも著名。主な著書に『地震学(共立出版 1977年)』などがある。
東京市芝区(現港区)生まれ。1948(昭和23)年、旧制第一高等学校を卒業後、東京大学理学部地球物理学科に入学。1951(昭和26)年、中央気象台(現気象庁)入りし技官(地震課技術係長)を経て、1972(昭和47)年に名古屋大学理学部教授、1977(昭和52)年より東京大学地震研究所教授を歴任され、1989(平成元)年に停年退官されるまで東京大学地震研究所所長、日本地震学会委員長(現会長)を務めながら、日本学術会議研究連絡委員、地震予知連絡会委員、地震防災対策強化地域判定会委員なども歴任された。
1964(昭和39)年「気象庁長官賞」、1993(平成5)年「紫綬褒章」「藤原賞(藤原科学財団)」、1996(平成8)年「交通文化賞」、2000(平成12)年「勲二等瑞宝章」を受章。2004(平成16)年2月に脳出血のため入院し、同年8月18日に死去。享年76歳。
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