『 常に心に油断あるべからず 』
乃木希典(1849~1912 / 武士・長府藩士 陸軍大将 学習院院長(第10代))
格言は、乃木希典述『修養訓』(明治45年2月 吉川弘文館)より。
曰く――――。
世の中は、漸次(ぜんじ)多忙を極めて来る。此間に処して、最後の勝利を収めんとしたならば、分陰(ふんいん)を惜(おし)むと云ふ習慣を養ふことが大切である。人は一日の中に、飲食、休息、起臥(きが=寝起きすることの意)乃至(ないし)社交(しゃこう)等の為めに知(し)らず識(し)らずの中に、少(すくな)からぬ時間を費すのであるから、若(も)し夫等(それら)の時間を除いて仕舞ふと、余す処の時間は、甚だ多くないのである。随(したが)って人間は常に油断なく己が業務にいそしむことが肝要である。
この本を上梓してから半年後の1912年(明治45年/大正元年)7月30日、明治天皇が崩御。乃木は大喪の日の9月13日、妻・静子とともに割腹自殺をした。享年64(満62歳)。
乃木希典(のぎ まれすけ)は、たいへん実直で清廉な軍人として知られ、当時「海軍の東郷、陸軍の乃木」と並び称された人物。
嘉永2年11月11日(1849年12月25日)長府藩(長州藩の支藩で現在の山口県下関市長府)藩士・乃木希次の三男として、藩の江戸上屋敷(現・東京都港区六本木)に生まれる。
誕生したときには、長兄と次兄はすでに夭逝していたため、両親から無人(なきと)と名付けられ、乃木家の世嗣となった。幼少の頃は身体が虚弱で臆病だったことから、厳格な父にたいへん厳しく育てられた。
10歳の時、父親が藩主の不興を買い減俸閉門を命ぜられ、一家をあげて長府へ転居する。親戚の玉木文之進(1810~1876 / 長州藩士・山鹿流兵学者 松下村塾創立者)に師事し、山鹿素行(1622~1685)や吉田松陰(1830~1859)に私淑する。16歳(1864年)で、萩藩(山口県萩市)の藩校・明倫館に学び、第二次長州征討(1865年)では長府藩報国隊に属し、戊辰戦争(1868年)では東北を転戦した。維新後は、藩命でフランス式軍事教育を受け、明治4年(1872年)、22歳で大日本帝国陸軍少佐に抜擢された。西南戦争(1877年)では歩兵一四連隊長として出陣するが、西郷軍に連隊旗を奪われ自責の念から自決を決意したところ、親友の児玉源太郎少佐(1852~1906 / 後の陸軍大将)に説得され思いとどまった。明治12年(1879年)大佐に昇任、明治16年(1883年)東京鎮台参謀長に任じられ、明治17年(1885年)最年少で少将に昇進、歩兵第11旅団長に任命される。明治20年(1887年)ドイツ留学を経て、帰朝後の明治21年(1888年)歩兵第一旅団長となり、日清戦争(1894年)では歩兵第1旅団を率い、台湾征討(1895年)出征を経て、第3代台湾総督となった。日露戦争(1904年)では第三軍司令官となり、大将に昇進、苦心の末に旅順攻囲戦(1904年8月~1905年1月)で難攻不落の旅順要塞を陥落させた。凱旋後、軍事参議官に任じられ、明治40年(1907年)には乃木に迪宮裕仁親王(昭和天皇)教育係を希望した明治天皇の意向で学習院長を兼任、伯爵を授けられる。明治天皇崩御後、大葬の日に東京の自宅で夫人とともに殉死したことで国民的英雄となり、後の帝国日本軍に影響を与えた。
栄典は贈正二位勲一等功一級伯爵。乃木伯爵家は、長男・次男が日露戦争で戦死、実弟も萩の乱で戦死したため世嗣がなく後に断絶した。
出典:近世名士写真 其1
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