防災意識を育てるWEBマガジン「思則有備(しそくゆうび)」

中貝宗治(1954~ / 兵庫県豊岡市長)の台風第23号(2004年)災害後の寄稿『みんなの力で命と暮らしを守る』からの名言 [今週の防災格言675]

time 2020/11/30

中貝宗治(1954~ / 兵庫県豊岡市長)の台風第23号(2004年)災害後の寄稿『みんなの力で命と暮らしを守る』からの名言 [今週の防災格言675]

『 どんなに堤防を強化しても、それを上回る自然の脅威は、必ずやってきます。そのときは、「逃げる」です。早く、うまく逃げる。 』

 

中貝宗治(1954~ / 政治家 兵庫県豊岡市長(5期))

 

2004年(平成16年)10月20日に大型で強い勢力を維持したまま高知県土佐清水市付近に上陸した「台風第23号」は、関東から九州の広い範囲に記録的な大雨を降らせた。日降水量は四国で400mm、西日本の多くの地点で300mmを越えた。この台風と大雨で、兵庫県豊岡市では市内を流れる円山川、出石川の堤防が決壊し、京都府でも由良川が氾濫し浸水被害となったほか、京都府宮津市、香川県東かがわ市などで土砂災害が発生した。人的被害は、兵庫県、京都府、香川県を中心に死者95人、行方不明者3人、重軽傷者552人という甚大なものとなった。

この災害では、自力で迅速な避難行動をとることが困難とされる高齢者などの災害時要援護者に対する避難支援対策が課題となった。

政府では、同年(平成16年度から17年度にかけて)に、避難勧告等の判断・伝達のあり方について議論され、2005年(平成17年)3月に「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」がまとめられ公表された。その後は、このガイドラインを防災基本計画へフィードバックする取組が行われることになった。

格言は、2010年(平成22年)3月に政府の災害時要援護者の避難対策に関する検討会で作成された『災害時要援護者の避難対策事例集』のなかの中貝市長の寄稿文『みんなの力で命と暮らしを守る』より。

曰く―――。

2004年10月、豊岡市は台風23号に襲われました。死者7名、住宅の全半壊・床上浸水約5000世帯。その数字の背後に、市民の途方もない苦しみが横たわっていました。
「助けて!ドアが開かないの!」
車ごと濁流に流されて命を失った女性が、携帯電話で夫に訴えた最後の言葉だったそうです。

亡くなった方の無念、残された方の「なぜ助けることができなかったのか」という無念。被災の現場で、私は「人は死んではならない」という強烈な思いにとらわれました。

もちろん、堤防の整備は重要です。しかし、どんなに堤防を強化しても、それを上回る自然の脅威は、必ずやってきます。工事中に襲われることだってあります。そのときは、「逃げる」です。早く、うまく逃げる。

とりわけ、自分ですぐには逃げられない人々への対策は不可欠です。想像力を働かせて、状況を具体的に思い浮かべて、事前に対策を練っておくことが大切です。

台風23号の際の、要援護者対策に関する私たちの経験です…聴覚障害者にはファックスで避難情報を送信することになっていました。しかし、一斉送信のシステムでなく、一人ひとりに随時送信し、時間を浪費してしまいました。しかも、送信内容は「大丈夫ですか?」という間の抜けたものでした。そのうち福祉事務所が水没し、送信すらできなくなってしまいました。

亡くなった方の中に要援護者に該当する方はありませんでした。台風が接近する前の早い段階から、障害者のグループで声を掛け合った自主避難や、消防団員や民生委員による事前の救出が行われていたことを後で知りました。コミュニティの力です。

避難所でのこと。聴覚障害者は、手話やメモで伝達を行いますが、消灯後はそれができなくなります。灯りをつけると、他から文句が出ます。要望に応じ、専用の部屋を用意しました。手話通訳者の手配も、障害者団体の要望を受けてからでした。

油断、機能不全、支えあう人々。あの災害で翻弄された私たちの経験を短い言葉で要約すると、こうなります。そして、支えあう人々、これこそが私たちの希望でした。

要援護者対策はゼロからの模索ではありません。すでにあるコミュニティの力の再組織化と行政との連携の再構築あるいは強化が基本です。「みんなの力で命と暮らしを守る」、それが台風23号を経験した豊岡の合言葉です。

なお、この当時の豊岡市の人口は29,617世帯89,208人で高齢化率25.9%。台風23号の市内の被害は、死者7人、重傷者23人、軽症者28人、住家全壊333棟、大規模半壊1,082棟、半壊2,651棟、一部損壊292棟、床上浸水545棟、床下浸水3,326棟で、実に市内の住居の三割(28%)が被害を被ったことになる。

… … …

中貝宗治(なかがい むねはる)氏は、1954年(昭和29年)11月4日兵庫県豊岡市下宮生まれの地方政治家。兵庫県議会議員を経て豊岡市長(当選4回)として現職。
地元の豊岡市立豊岡南中学校、兵庫県立豊岡高等学校を経て、1978年(昭和53年)京都大学法学部を卒業後、兵庫県庁に入庁。1991年(平成3年)から2001年(平成13年)まで兵庫県議会議員(3期)務め、2001年(平成13年)7月の豊岡市長選挙で当選し豊岡市長に就任して以降、4選を果たした。著書に『鸛(こうのとり)飛ぶ夢』(2000年 北星社)。


中貝宗治・豊岡市長
平成22年3月『災害時要援護者の避難対策事例集』より

■「被災時の首長」に関連する防災格言内の記事
中貝宗治(台風23号(2004年10月)時の兵庫県豊岡市長)(2020.11.30 防災格言)
加々美武夫(室戸台風時の大阪府助役 警察官僚・内務省内務書記官 大阪市長(第8代))(2020.09.21 防災格言)
越森幸夫(政治家 北海道南西沖地震時の奥尻町長)(2018.02.05防災格言)
松野友(水害の町である岐阜県本巣郡穂積町町長 日本初の女性村長)(2015.03.02防災格言)
岡村正吉(1977年有珠山噴火時の北海道虻田郡虻田町長)(2012.07.16防災格言)
及川舜一(カスリーン台風とアイオン台風の大水害時の岩手県一関市市町)(2015.09.14防災格言)
小川竹二(下越水害時の新潟県豊栄市長)(2017.09.11防災格言)
後藤新平(関東大震災時の内務大臣兼帝都復興院総裁)(2010.04.26防災格言)
永田秀次郎(関東大震災時の東京市長)(2015.01.05防災格言)
安河内麻吉(関東大震災時の神奈川県知事)(2008.04.28防災格言)
石黒英彦(昭和三陸地震時の岩手県知事)(2013.06.10防災格言)
貝原俊民(阪神淡路震災時の兵庫県知事)(2014.11.01防災格言)
斎藤富雄(阪神淡路震災時の兵庫県副知事・兵庫県初代防災監)(2017.11.20防災格言)
片山善博(鳥取県西部地震時の鳥取県知事)(2014.1.27防災格言)
村井嘉浩(東日本大震災時の宮城県知事)(2013.10.14防災格言)
泉田裕彦(新潟県中越地震時の新潟県知事)(2012.02.20防災格言)
ミハイル・ゴルバチョフ(旧ソビエト連邦最後の共産党書記長)(2008.03.24防災格言)
李登輝(政治家・台湾総統)(2015.07.13防災格言)

■「洪水・水害」に関連する防災格言内の主な記事
長野県伊那地方の水害の伝承「未満水(ひつじまんすい)(1715年)」より(2020.06.29 防災格言)
落雷のまじない「くわばらくわばら(桑原桑原)」の伝承の由来(2021.07.05 防災格言)
中谷宇吉郎[2](物理学者・随筆家 カスリーン台風後の随筆「水害の話(1947年)」より)(2020.07.06 防災格言)
寺田寅彦[9](物理学者 室戸台風直後の随筆から)(2019.06.24 防災格言)
寺田寅彦[10](物理学者 室戸台風直後の随筆から)(2020.08.31 防災格言)
加々美武夫(室戸台風時の大阪府助役 警察官僚・内務省内務書記官 大阪市長(第8代))(2020.09.21 防災格言)
藤原咲平 (気象学者 室戸台風後の著書『天気と気候』より)(2013.10.28 防災格言)
丹羽安喜子(歌人 室戸台風で罹災)(2016.08.22 防災格言)
諫早豪雨の教訓から(1957(昭和32)年7月25日)(2017.07.10 防災格言)
松野友(岐阜県本巣郡穂積町町長 日本初の女性村長)(2015.03.02 防災格言)
及川舜一(元岩手県一関市市町 カスリーン台風とアイオン台風の大水害)(2015.09.14 防災格言)
小川竹二(元新潟県豊栄市長 下越水害)(2017.09.11 防災格言)
奥貫友山(利根川・荒川水害である寛保大水害時の慈善家)(2010.4.5 防災格言)
安芸皎一(河川工学者・土木技術者 東京大学教授 「伊勢湾台風」の名言)(2020.09.07 防災格言)
川合茂(河川工学者 舞鶴工業高等専門学校名誉教授)(2011.08.15 防災格言)
高橋裕(河川工学者 東京大学名誉教授)(2017.06.12 防災格言)
幸田文(随筆家・小説家 代表作『崩れ』『流れる』)(2015.05.11 防災格言)
桑原幹根(愛知県知事)(2014.09.15 防災格言)
廣井悠 (都市工学者)(2012.03.12 防災格言)
大隈重信 (佐賀藩士・早稲田大学創立者)(2010.09.27 防災格言)
下田歌子 (歌人・実践女子学園創始者)(2009.12.14 防災格言)
平生釟三郎 (川崎重工業社長)(2009.11.02 防災格言)
山下重民 (明治のジャーナリスト 風俗画報編集長)(2008.09.22 防災格言)
吉田茂 (政治家)(2008.05.05 防災格言)
脇水鉄五郎(地質学者・日本地質学会会長)(2011.07.18 防災格言)
谷崎潤一郎 (作家)(2014.12.08 防災格言)
矢野顕子 (シンガーソングライター ハリケーン・サンディ水害)(2016.10.17 防災格言)
森田正光 (お天気キャスター)(2017.06.05 防災格言)
中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」(2008年9月8日)より(2018.07.09 防災格言)
二宮尊徳翁(二宮金次郎)(江戸時代後期の経世家・農政家)(2012.01.30 防災格言)
上杉鷹山 (江戸時代中期の大名 出羽国米沢藩9代藩主)(2010.04.12 防災格言)
莅戸善政[1] (かてもの作者 出羽国米沢藩家老)(2008.03.17 防災格言)
莅戸善政[2] (かてもの作者 出羽国米沢藩家老)(2011.12.05 防災格言)
中江藤樹 (江戸時代初期の陽明学者 近江聖人)(2010.11.22 防災格言)
『百姓伝記』(1680~1682年・著者不明)巻七「防水集」より(2018.08.27 防災格言)
中西 進(国文学者 大阪女子大名誉教授 文化勲章受章)(2019.04.08 防災格言)
倉嶋厚(気象学者・お天気キャスター 元気象庁主任予報官)(2019.07.22 防災格言)
宮澤清治 (気象学者・NHK気象キャスター)(2016.09.05 防災格言)
高橋浩一郎(気象学者 気象庁長官(第5代) 筑波大学教授)(2019.10.14 防災格言)
中曽根康弘(政治家 内閣総理大臣(第71~73代))(2019.12.02 防災格言)
中貝宗治(台風23号(2004年10月)時の兵庫県豊岡市長)(2020.11.30 防災格言)
鍋島直正(大名・肥前国佐賀藩主(第10代) 「シーボルト台風」)(2019.12.09 防災格言)
利根川改修工事に見る水害の歴史(2010.2.26 編集長コラム)
利根川の洪水想定 首都圏で死者4,500~6,300人(2010.3.5 編集長コラム)
小田原評定(水俣土石流災害)(2006.1.29 編集長コラム)
豪雨そして土砂災害。その犠牲者はいつも老人ホーム(2010.7.20 編集長コラム)
アーノルド・ニーベルディング(1838~1912 / ドイツの法学者 政治家)(2020.09.14 防災格言)

 

著者:平井敬也(週刊防災格言編集主幹)

 

[このブログのキーワード]
防災格言,格言集,名言集,格言,名言,諺,哲学,思想,人生,癒し,豆知識,防災,災害,火事,震災,地震,備蓄,防災グッズ,非常食
みんなの防災対策を教えてアンケート募集中 非常食・防災グッズ 防災のセレクトショップ SEI SHOP セイショップ

メルマガを読む

メルマガ登録バナー
メールアドレス(PC用のみ)
お名前
※メールアドレスと名前を入力し読者登録ボタンで購読

アーカイブ

人気記事