『 流行性感冒の流行時期には一寸した事でも細かな注意を拂はねばならぬ。 』
柳瀬実次郎(1875~1923 / 小児科医 大阪回生病院長 大阪こども研究会発起人)
格言は遺稿『子供への心遣り(大阪こども研究会 1924年)』より。
曰く―――。
インフルエンザや肺炎の流行しない時の風邪は世間一般の人の所謂「風邪位」でいいのだが、虎列刺(コレラ)の流行期に下痢を恐れるのやペストの流行期に一寸(ちょっと)した傷を恐れるのと同じく流行性感冒の流行時期には一寸した事でも細かな注意を拂(はら)はねばならぬ。
口は禍(わざわい)の門(かど)であると申しましたやうに、肺炎にも此(この)言葉が必要で、是非とも此『口』と云ふものに就て注意を怠ってはなりません。
敵はどう云う方面から入るか、其方面を知るのは敵を予防する上に必要であると同じく、肺炎がどうして身体を侵すか、果してどう云ふ道を通って体内に侵入して来るかも知る必要があります。即ち肺炎の黴菌(ばいきん)の入る道は、呼吸の道である所の『口』にあるので、先ず此『口』に就て注意する必要があらうと思はれますが誰でも身体は温かくして居りますけれども、いつも口の方の防御は薄く等閑(なおざり)になり勝なものであります。
柳瀬実次郎(やなせ さねじろう)は、明治から大正時代に活躍された小児科臨床医・医学博士。敬虔なキリスト教徒でもあり、日本初となる子供の母親のための小児医学を分りやすく解説した手引書を執筆した人物として知られる。愛媛県出身。東京帝国大学卒。主な著書に『母の手引』(1909)、『小児救急 母の手引』(1916)、『子供への心遣り』(1924)。
乳幼児の死亡率が高かった明治の末期。実次郎は、はじめ法律家を目指していたが、日本の子供たちの死亡率が世界一である事実を偶然知ってから、子供の救世主となることを決意。志望を小児科医へと転じ、東京帝国大学に入り医学を学んだ。卒業後、大阪回生病院に勤め、大阪市北区川崎町へ移り住んだ。明治39(1906)年、ウィーン大に留学し、生理学、病理学、小児科学を学び、帰国後に復職。後に大阪回生病院院長となった。
謹厳温厚な性格で、紳士の典型と称賛されたほどの人格者でもあり、発起人として「大阪こども研究会」を設立した際には推挙された会長職を固辞したため、ついには研究会は幹事制となって長を置かないことになった逸話もある。生涯を子供のためにささげ、大正12(1923)年7月11日に48歳で死去。
柳瀬実次郎
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