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小野村林蔵の「函館大火(1934年)」の名言(1883~1961 / 日本基督教会札幌北一条教会牧師 日本キリスト教会創立者)[今週の防災格言774]

time 2022/11/07

小野村林蔵の「函館大火(1934年)」の名言(1883~1961 / 日本基督教会札幌北一条教会牧師 日本キリスト教会創立者)[今週の防災格言774]

『 都市集中の結果として生ずる、都市の危険性を感覚すると共に、非常に際しての用意を為すことは、人間みづからの責任である。 』

 

小野村林蔵(1883~1961 / 札幌北一条教会牧師 日本基督教会指導者 日本キリスト教会創立者)

 

東京都心が焼き尽くされた関東大震災から10年後、1934年(昭和9年)3月21日、北海道最大の都市である函館市(当時の人口約21万人)を大火災が襲いました。
函館大火と呼ばれる災害です。

この日、発達した低気圧の影響で、折から函館市内には風速20メートル(最大瞬間風速39メートル)を超える暴風が吹いていました。

市内各地の看板や家の屋根、物干しの物などが飛ぶという大変な暴風となるなか、午後6時30分頃には、電線の接触火災が6か所から発生し断線により全市で停電となりました。

午後6時53分、風に煽られた函館市住吉町の一軒の民家の屋根が飛ぶと、その直後、壊れた家に隙間風が入り、家のなかの囲炉裏の火が舞った結果、火はまたたく間に燃え広がりました。

一軒の家から出た火災は、木造家屋が密集する市街地へと広がります。
物凄い火炎が、青柳町から豊川町、鶴岡町、松風町、新川町方面を襲いました。

強風と倒壊した家屋や倒れた電柱などの障害物に阻まれて、住民や消防隊、軍隊の必死の努力もむなしく、消火活動はうまく機能することができませんでした。

最初の火災から12時間近く燃え続けた結果(翌3月22日午前6時頃に鎮火します)、人口21万人が住む市街地の3分の1が焼失してしまいました。

この函館大火で、市内22町が全焼し、半焼は18町、焼失面積は416.39ヘクタールとなり、死者2,166人、重傷者2,318人、軽傷者7,167人、焼失家屋11,105棟、罹災者10万2,001人を数えました。

死者のうち焼死・窒息死した者が約1,000人、火に追われ逃げ場を失い川で溺れた者917人、冬の寒さで凍死した者も217人いたといいます。

… … …

大火災の直後の3月23日、札幌北辰教会牧師の小野村林蔵は、焼け野原となった函館の町を慰問に訪れました。

函館山から平地へ下ると、路傍に莚(ムシロ)を被せられた焼死者が見えました。そして更に、大森海岸へと歩くと、“五歩に二つ、十歩歩くごとに五つの遺体”がいたるところに累々と転がっているが見れました。川には溺死した者たちが沈み、ランドセルを背負った子どもの焼死体も見つけました。

自ら創刊した月刊誌「泉」に、このときの様子について記しています。

随筆『焦土を踏む(1934年4月)』に曰く―――。

私は確信する。もし目測僅かに五、六間(約9~11メートル)の幅に過ぎぬ新川の、橋の凡てが不燃質のもので出来ていたなら、そして大森海岸に添うて、安全地帯としての公園が設けられていたなら、この悲惨な犠牲者を、恐らく四半分の一に減少し得たであろう。
若しそれ市内の所々に、安全地帯が適当に配置されていたなら、完全に人命を防護することも、決して困難ではなかったろう。

我等は先年の関東大震火災によって、十二分の教訓を、眼にも肝にも焼き付けられていた筈である。それをむざむざ無視したことに、今回の大惨事の原因はあった。

げに愚かなるは人間である。眼前に活きた教訓に接しながらも、強いてそれに眼を閉じて、姑息な無為に安んじようとする。一日遁(*原文ママ)れに日を過すうちに、何時しか高価な犠牲も忘れて、折角の教訓を無益にしてしまう。今回の函館の参事は、そうした愚かさの最も悲しむべき実例である。関東大震火災の大教訓は、函館市民にとって厘毫(りんごう)の益も致さなんだ。無量の痛恨を感ぜざるを得ない。

今日の盛大な文化を生むだけに理智に恵まれた人間である。都市集中の結果として生ずる、都市の危険性を感覚すると共に、非常に際しての用意を為すことは、人間みづからの責任である。今回の惨事は断じて不可抗力の結果でない。為すべきことを為さなんだ酬いである。

…(中略)…

罹災者十五万、内死者二千、重傷者二千四百、資財の焼失一億三千万圓と言われている。斯うした損失を予防するためとあるなら一千万金、二千万金もまた惜むに足らない筈である。我等は日本の何れの都市もが、今回のような犠牲を再びすることの無いように、都市の理事者及び市民の自戒を要請せずに居られない。

… … …

大火の後、函館市では防火機能を重視した都市計画が行われ、復興事業として函館市の街路に防火線としてのグリーンベルトが作られました。今では地域の象徴として美しい景観とともに機能しています。

函館市の幹線道路の幅員は防火のため、南北30間5路線(約54メートル)、東西に20間1路線(約36メートル)、そのなかを縦断するグリーンベルトが設置されたほか、住吉町、大森町、新川町に公園が設けられ、水道の増設や鉄筋コンクリート造の小学校が建てられました。

1937年(昭和12年)、津軽海峡から吹く風に煽られ最も火災が激しかった亀田川を流れる大森橋近くの大森公園(函館市大森町)内に函館大火慰霊堂が建立され、毎年3月21日に慰霊祭が行われています。

… … …

 

小野村林蔵(おのむら りんぞう)は、戦前はキリスト教伝道者・植村正久(1858~1925)の弟子として日本基督教会を指導し、戦時中に官憲の厳しい弾圧を耐え、戦後は日本基督教会の再建(日本基督教団に日本基督協会が併呑され日本キリスト教会を創立)に尽力した牧師。

1883年(明治16年)11月22日、徳川時代に両替を商う大阪十人両替の一人で、灘の銘酒「沢の鶴」の酒造家だった米屋喜兵衛の別家・小野村林兵衛の長男として大阪市東区今橋に生まれる。
少年時代に上京し慶應義塾幼稚舎に入学するが、病弱のため間もなく帰省し、商業学校に学んだ。日清戦争後の混乱で実家が金融資本に買収されると、家業の復興のために兜町で証券相場師となるが、友人で同業者の自殺を契機に人生に悩み苦しみ、仕事を辞め大阪へと帰った。
中江兆民らの唯物思想(唯物論)に影響を受け、1903年(明治36年)英語学校の友人・吹田佳三の紹介で日本基督教会大阪西教会で馬場鉄作牧師に師事し、1905年(明治38年)22歳のときに馬場牧師から洗礼を受け、伝道者の道を志した。
1906年(明治39年)大阪伝道同志館神学校(大阪神学院)に入学するが、馬場牧師の勧めから1907年(明治40年)市ヶ谷教会の神学校「東京神学社(東京神学社神学専門学校)」に転学し、教授で設立者の植村正久から多く薫陶を受けた。1910年(明治43年)卒業すると新潟県佐渡の日本基督教会佐渡講義所に伝道師として赴任。翌年、東京市ケ谷教会で牧師となり、1911年(明治44年)渡辺ぜんと結婚。その後、和歌山教会赴任を経て、1918年(大正7年)札幌北一条教会(札幌北辰教会)牧師に就任し、以降、1959年(昭和34年)病気療養で千葉に移るまで41年のあいだ札幌北一条教会で牧師職を務め、札幌における伝道界の指導的役割を担い、北海道プロテスタント教会の重鎮として活躍した。また日本基督教会北海道中会議長、伝道局理事長、北海道教区初代教区長を歴任した他、北星女学校で理事・講師を務めた。
1952年(昭和27年)作家・三浦綾子(1922~1999)に洗礼を授け、1953年(昭和28年)に札幌北一条教会を引退。
1961年(昭和36年)10月11日死去。78歳。


小野村林蔵(1883~1961)写真:札幌市中央図書館(新札幌市史 第4巻 通史4)


函館大火(山の手から下町方面を望む)












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著者:平井敬也(週刊防災格言編集主幹)
[主な著書]「天災人災格言集―災害はあなたにもやってくる!(興山舎 2012年)

 

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