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白井俊明が著書『子供の科学文庫:火と焔』に記した格言(東京大学名誉教授)[今週の防災格言471]

time 2016/12/26

白井俊明が著書『子供の科学文庫:火と焔』に記した格言(東京大学名誉教授)[今週の防災格言471]


『 火の用心は
一人の人に任せずに、
皆が互いあいたすけて
ばんぜんの注意をすべきもの 』

白井俊明(1900〜1975 / 化学者 東京大学名誉教授 東京理科大学教授)

曰く―――。

火事の原因を見ますと、放火という特別に悪意のあるのは別としても、自然発火や、落雷、漏電などという予期し難い原因による火事は非常に少く、あとは火の取扱いの不注意とか、弄火(ひあそび)のようなことが主な原因になっています。

漏電は電気の設備の注意で防げますし、自然発火は自然発火しそうなものについて特別の注意をしていれば防げるものですから、こう考えると火事は殆ど全部が不注意に基くものと断定してもいいでしょう。

もちろん不注意になるにもいろいろわけがあることでしょうが、火の用心は一人の人に任せずに、皆が互いあいたすけてばんぜんの注意をすべきものです。

《 中略 》

大地震のあとでは、水道の断水が起り、その上一時に多数の地点で発火するおそれがあるので一番危険といわねばなりません。一時に多数の火事が出ると、どうしても消火器は勿論、人手は不足してきて大火になります。この意味から日本では、地震にもこわれぬ水道と、各家庭で地震の際に、特につとめて失火しない心掛けと火は小さいうちに消す心構えとを作っておかねばなりません。地震に絶対にこわれぬ水道は望まれぬと思いますから、大都会では各家庭に井戸を備えておく必要があります。しかしこの井戸は常に清潔に保って、伝染病の巣にしないような注意も肝要です。

大風のため遠くまで飛火して、一時に多数の火事を出すこともあります。そんなときは、風下の家の人は逃げ出すことばかりを考えないで障子のむきだしをなくするため雨戸を閉めたり、水をかけたりして飛火のための発火を防ぐよう心掛けていれば、幾分でも延焼をおそくし、大火になることを防げると思います。大風の昼間に火事がある時は、各家庭に男手が割合少く、飛火しても煙は地を匐(はらば)い、火は見つけにくいのですから、特にこの方面の配慮は必要と考えます。

元来、大都会は、火事は小さいうちに消し止められるようにできていなければならぬものです。これは都市計画をする人たちがいろいろと苦心しているところです。例えば家と家との間を広くするとか、通りは特に広くするとか、すべて防火建築にすることはできぬとしても、要所要所は防火建築にして一種の防火壁にするとか、いろいろの工夫をしています。

またその都会では、どの方向に乾燥した風が一番よく吹くかをしらべて、その方向に軒並み長い町を作らぬようにすることも必要なことです。例えば東京では、冬は北西の乾いた風が多く、その他の季節に吹く北東の風のあとには雨が多いのですから、北西の風に特に留意して北西から東南にかけて長く混みあっている町を作らぬことです。

また通りの幅がいくら広くなったからといっても、火事の時に、その広い通りに無制限に家財を運び出して並べ立てては、却って家事を拡げる役にしか立たぬことを忘れてはなりません。

格言は著書「子供の科学文庫:火と焔」(誠文堂新光社 1948年)より。

白井俊明(しらい としあき)は、東大地震研究所や理化学研究所の研究員を経て、東大教授、東京理科大教授を歴任した化学者。専門は物理化学。理学博士。

はじめ、高等学校で習ったドイツの化学者アーノルド・ホルマン(1859〜1953)の無機化学に興味を覚え、後に、スウェーデンのノーベル化学賞学者スヴァンテ・アレニウス(1859〜1927)やドイツの化学者ヴァルター・ネルンスト(1864〜1941)らの地球化学・宇宙化学論文に影響を受けたという。
大正12(1923)年東北帝国大学理学部化学科を卒業し、同年、東京帝国大学理学部助手となる。大正15(1926)年東京帝国大学地震研究所、理化学研究所に研究員として長く勤務し、東大助教授を経て、昭和25(1950)年東京大学教養学部教授に就任。昭和35(1960)年東大を定年退官し東大名誉教授。同年東京理科大学教授に就任され、昭和45(1970)年退職。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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