『 どんなに対策をたてても絶対安全ということはない。どんなに立派な耐震住宅を建てても活断層がなくても、大地が液状化すればひとたまりもない。 』
やなせたかし(1919~2013 / 漫画家 代表作「アンパンマン」)
格言は東日本大震災後の2011年5月11日にスタートした岩波書店初のウェブ連載企画「3.11を心に刻んで」で2012年2月11日掲載の「3月11日から」より。
曰く―――。
テレビで東日本大震災のニュースと映像が流れた。…(中略)…
原発はCO2を発生しないクリーンなエネルギーであることを売り物にしていたが、その危険な廃棄物については沈黙していた。実は僕は原発に賛成ではなかったが、チェルノブイリのような事故は日本では起きないと信じていた。日本人の国民性はまじめで規律を良く守る。戦後は誤った民主教育のためにいくらか怪しくはなってきたが、基本的な性格は変わらない。世界で一番安全な国と言われている。しかし安全神話はもろくもくずれ去ってしまった。
これが僕にはショックだった。
まさか一〇〇〇年に一度の国難のような大震災に遭うとは思わなかった。僕のマンションもその辺りの建物も幸いに無事だった。…(中略)…でも本当に驚いたのは黄昏になってからである。東京都のような大都市になると都内に住んでいても通勤に一時間ぐらいかかるところはザラである。遠い人は三時間ぐらいかけて勤務地へやってくる。すべての交通機関が止まってしまったので、帰宅できない帰宅難民があふれた。
新宿通りも靖国通りも道をうずめて大群衆が移動していく。スーパーやコンビニも弁当はすべて売り切れ、異様な感じになった。幸い停電はしなかったものの、大都市の弱点が浮き彫りになった。これでもし直下型地震だったらと思うと身の毛がよだった。…(中略)…どんなに対策をたてても絶対安全ということはない。 僕は震災直後、自家発電機や電池、非常食を買おうとしたが、なんとすべて売り切れていた。 世間の人は僕よりもはるかに用心深いようである。どんなに立派な耐震住宅を建てても活断層がなくても、大地が液状化すればひとたまりもない。
… … …
やなせたかし(本名:柳瀬嵩)は、『アンパンマン』生みの親として知られる漫画家・絵本作家。他にもいずみたく作曲の童謡『手のひらを太陽に(1961(昭和36)年)』の作詞者としても著名。
高知県出身。1919(大正8)年2月6日、東京府(現東京都北区)生まれ。旧制東京高等工芸学校図案科(現千葉大学工学部デザイン学科)を卒業後、田辺製薬宣伝部に就職するが、まもなく徴兵により帝国陸軍に入隊、下士官(軍曹)として中国戦線にいたときに敗戦を知った。やなせの弟は特攻隊に志願し戦死している。
終戦後は高知新聞、三越宣伝部デザイナーを経て1953(昭和28)年より独立してフリーとなる。1969(昭和44)年、大人向け絵本『アンパンマン』を執筆。1973(昭和48)年にはサンリオで雑誌「詩とメルヘン」を創刊し編集長を務めた一方で、「漫画家の絵本の会」を立ち上げ、フレーベル館の月刊絵本「キンダーおはなしえほん」に子供向けに改作した「あんぱんまん」を発表。1988(昭和63)年、テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』が日本テレビ放送網で放送開始され人気番組となる。翌年文化庁こども向けテレビ用優秀映画賞を受賞。1989(平成元)年からは劇場用アニメも制作され、1990(平成2)年 「アンパンマン」が日本漫画家協会大賞を受賞し、翌1991(平成3)年勲四等瑞宝章授章。2000(平成12)年、日本児童文芸家協会児童文化功労賞受賞。2009(平成21)年には最もキャラクター数の多いアニメとして「それいけ!アンパンマン」がギネス世界記録に認定された。70歳代以降は病を抱えながらも精力的に様々な活動を展開し、1992(平成4)年からは高知県主催の「まんが甲子園」の審査委員長、2000(平成12)年から日本漫画家協会理事長、2012(平成24)年からは会長を歴任。2013(平成25)年10月13日、心不全のため東京都文京区の順天堂大学医学部附属順天堂医院で死去。94歳。
2011年の東日本大震災時は、都営新宿線・曙橋駅近くの自宅マンション(東京・新宿区)で仮眠中に揺れに遭遇したが、地盤が強固だったこともあり本棚や壁掛け時計が落下するなど小被害ですんだという。
■「漫画家」「アニメ」「画家」「芸術家」に関連する防災格言内の記事
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武者小路実篤(1885~1976 / 小説家・詩人・劇作家・画家・政治家)(2010.10.11 防災格言)
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手塚治虫[2](1928~1989 / 漫画家 医学博士 「漫画の神様」)(2020.10.05 防災格言)
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明治三陸地震(1896年)と昭和三陸地震(1933年)の石碑「大津浪記念碑」(岩手県宮古市重茂・姉吉集落)(2021.07.12 防災格言)
南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ報告書(2013年5月)(2013.06.24 防災格言)
日野原重明(1911~2017 / 医師 聖路加国際病院理事長・名誉院長)(2017.07.24 防災格言)
柴田トヨ(1911~2013 / 詩人 代表作「くじけないで」(2010年))(2019.03.25 防災格言)
やなせたかし(1919~2013 / 漫画家 代表作「アンパンマン」)(2017.03.13 防災格言)
ドナルド・キーン(1922~2019 / アメリカ出身の日本文学・日本文化研究者)(2019.04.22 防災格言)
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田部井淳子(1939~2016 / 登山家 女性初のエベレスト・七大陸最高峰登頂者)(2019.12.23 防災格言)
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ワンガリ・マータイ(1940~2011 / ケニアの環境保護活動家 ナイロビ大教授)(2013.04.22 防災格言)
丸茂湛祥(1940~2020 / 僧侶・日本画家・宗教心理学者 日蓮宗本蔵寺住職)(2013.08.05 防災格言)
江田五月(1941~2021 / 弁護士・裁判官・政治家 東日本大震災時の法務大臣(第86代)・環境大臣(第16代))(2021.08.09 防災格言)
市川森一(1941~2011 / 脚本家・劇作家・小説家)(2017.03.20 防災格言)
サー・ジョン・ベディントン(1945~ / 元英国政府首席科学顧問 オックスフォード大学マーティンスクール上級顧問・教授)(2021.03.22 防災格言)
都司嘉宣(1947~ / 地震学者 理学博士 元東京大学地震研究所准教授)(2013.03.25 防災格言)
津島佑子(1947~2016 / 作家 太宰治の次女 代表作『火の山―山猿記』)(2021.03.29 防災格言)
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伊集院静(1950~ / 作家・作詞家 CMディレクター 代表作『乳房』)(2012.02.27 防災格言)
本間博彰(1950~ / 児童精神科医・医学博士 元宮城県子ども総合センター所長)(2014.10.06 防災格言)
ケリー・シー(1950~ / アメリカの地震学・地質学者 専門は古地震学)(2015.02.02 防災格言)
君塚栄治(1952~2015 / 陸上幕僚長 東日本大震災時の東北方面総監)(2016.03.14 防災格言)
ジョン・V・ルース(1955~ / 弁護士 駐日アメリカ合衆国大使(第28代))(2018.04.02 防災格言)
チャールズ・カスト(1955~ / 元米原子力規制委員会地域センター長)(2017.2.6 防災格言)
坂茂 (1957~ / 建築家 京都造形芸術大学教授 プリツカー賞受賞(2014年))(2016.03.21 防災格言)
村井嘉浩(1960~ / 宮城県知事 元陸上自衛隊東北方面航空隊パイロット)(2013.10.14 防災格言)
谷川浩司(1962~ / 将棋棋士 永世名人 日本将棋連盟会長)(2013.03.04 防災格言)
廣井悠(1978~ / 都市工学者 東京大学大学院准教授)(2012.03.12 防災格言)