『 備えていたことしか、役には立たなかった。
備えていただけでは、十分ではなかった。 』
国土交通省東北地方整備局「災害初動期指揮心得(2013年3月)」より
東日本大震災の経験を踏まえ、国交省が内部資料として作成した指揮官向けの災害対応危機管理マニュアルが『東日本大震災の実体験に基づく 災害初動期指揮心得』である。大規模災害の発生後から復旧・復興が軌道に乗るまでの期間で、シナリオのない最もシビアな決断が迫られる最初の約一週間を乗り切るため、全国の道路や河川、港湾・空港など社会インフラの整備を担う国土交通省地方整備局の各クラスの指揮官向けにまとめられた行動マニュアルである。
東日本大震災を経験し、実際に過酷な災害対応任務に追われた東北地方整備局職員の実体験に基づいて作成された内部資料で、国交省地方整備局や国際協力機構(JICA)などの危機管理研修教材として今も使用されているものだが、その力強く説得力のある教訓の数々が大きな反響を呼び、後に英語にも翻訳され希望者へと配布されたという。
尚このマニュアルは、2015年2月10日にamazonで日本語・英語版(Kindle版)が全世界に向け無償公開され、誰もが読むことができる。
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曰く―――。
《 あの東日本大震災を共に闘った仲間たちと本書を書き終え、今、振り返ってみて、つくづく思うのは、「備えていたことしか、役には立たなかった」ということです。
防災ヘリコプター「みちのく号」をクルーだけで迅速に飛ばした行動も、巷間、防災課長の機転と伝わっていますが、実際は、緻密な「備え」の結果でした。 《中略》 防災課長の褒められるべきは機転ではなく、災害がなければ誰にも知られることすらなかった、長年にわたる「備え」の努力だと思います。過去の災害を研究し、考案し、訓練したことだけしか、実際の役には立ちませんでした。 《中略》 しかしながら、全く矛盾したことを書くことになりますが、全てに備えることなど出来はしません。
関東大震災では87%の人が火災のため命を落としたのに対し、阪神淡路大震災では83%が圧死であり、東日本大震災では92%が溺死であったように、災害の様相は毎回異なっています。「みちのく号」のフライトも、訓練していたヘリの離陸オペレーションだけでは十分ではなく、津波による仙台空港の水没という想定外の事態に遭遇し、空港に向かっていた職員を引き返させるとともに、ヘリを福島に南下させるなど、臨機の応用動作を行うことにより、人命を救い、原発の状況を把握することができました。今回も、「備えていただけでは、十分ではなかった」のです。
備えは大事、教訓は貴重です。本書に書かれた教訓が、今後大災害に直面するであろう各整備局の参考になることを願っています。しかし、本書で紹介した東日本大震災の実相にも、とらわれすぎることは禁物です。過去の教訓に精通した上で、これを超越し、自由自在に「応用」してこそ、将来の大災害に対応できます。
「備え、しかる後にこれを超越してほしい。」これが、東日本大震災を実体験した私たちが伝えたい最後の教訓なのです。教訓を身につけ、これを自在に応用できる指揮官と熟練した整備局職員の存在こそが究極の「備え」であるというのが、私たちの結論です。 》
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