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時実新子が阪神淡路震災の時に残した格言(作家)[今週の防災格言475]

time 2017/01/23

時実新子が阪神淡路震災の時に残した格言(作家)[今週の防災格言475]


『 衣食が何とか足りれば、次に求めるのはプライバシーの保てる「住」だ。 』

時実新子(1929〜2007 / 川柳作家・エッセイスト 代表作「有夫恋」)

格言は阪神淡路震災直後に書かれたエッセイ「阿修羅のごとく」(月刊PHP 1995年5月号)より。

曰く―――。

《 呆然自失とはこのことか。書きかけの原稿が気になったが、手につかず、とにかくぼーっと悪夢を見ている感じだった。

二日経ち三日経ち、死者の数はどんどん増えて、何日目かに五千を超えた。五千となると数の感覚がにぶる。百人ぐらいの時がいちばんつらかったように思う。私の知人も三人死んだ。

避難所には人があふれた。寒かろう、ひもじかろう、どんなに悲しく苦しかろうと、胸を錐で刺される思いだ。そのうちボランティアの人たちが続々と神戸に入ってくる。つめたい握り飯と一杯の水を押しいただく人たち。その顔の、何といい顔だこと。人は窮地に立つとこんなにも崇高で美しい顔になるのかと、別の意味で心打たれた。ボランティアの人たちの顔はさらに輝いている。

あまりにも大きすぎる犠牲を払ったけれど、この地震によって、人は、人の情に涙し、また人のお役に立てることの喜びを知った。つかのまにしろ、人間の原点に立ちもどることができたのではないだろうか。

≪中略≫

人間の我慢の限界は二十一日ぐらいだと誰かに聞いたことがある。

事実、避難所の人たちも、あのいいお顔からだんだんと元の顔に戻りつつある。衣食が何とか足りれば、次に求めるのはプライバシーの保てる「住」だ。当然の欲求である。その次には生きる方法を考え、行政に対しても要求を出すようになる。つまり、人間の欲望こそが復興のエネルギーになるのだから、いつまでもいいお顔でいられるわけがない。

しかし、どうぞあの、見知らぬ人が枕を並べ、一個のパンも分けて食べた避難所の日々を悲しみと共に忘れないでほしいと願う。

≪中略≫

大震災にあって、天を恨む気持ちはわかる。不公平な行政のあり方に楯つく心の荒れもむべなる哉と思う。

しかし、私たちは地震という自然の猛威にひざまずき、己の無力を思い知ったのである。忘れかけていた人の情を知ったのである。エネルギーをまともに使って立ち上がり、人間の底力を示す好機だと思うのだがどうだろう。》

時実新子(ときざね しんこ)は、大胆で奔放な作風で一躍人気作家となり、大衆的な現代川柳のすそ野を大きく広げた人物。本名は大野恵美子。
1929(昭和4)年、岡山県上道郡九蟠村(現岡山市東区西大寺)生れ。岡山県立岡山西大寺高等女学校(現西大寺高等学校)を卒業後、17歳で親が決めた姫路の文房具店へと嫁いだ。25歳で新聞への投句をはじめて、28歳の時に川柳界の大御所であった川上三太郎(1891〜1968)に師事。1963(昭和38)年に初の句集『新子』が話題となり、短歌界の与謝野晶子になぞえられ「川柳界の与謝野晶子」と評された。1975(昭和50)年から個人季刊誌『川柳展望』を発行。56歳の時に夫と離婚し、2年後の1987(昭和62)年に川柳研究家・曽我六郎と再婚し、そのときに発表した句集『有夫恋(ゆうふれん) おっとあるおんなのこい』がベストセラーとなった。
1995(平成7)年1月17日の阪神淡路震災では、神戸市中央区の自宅で仕事中に罹災。その時の様子を

『 電気もガスも水も止まった寒い部屋で、まさか神戸や芦屋が西宮があんなに悲惨な状態になっていようとは思ってもいなかった ≪中略≫ つめたいごはんをぬるくなったポットの湯でかき込んでいると、ぱっと電気がついた。 ≪中略≫ それから丸一日テレビに目が釘づけになった 』

と紹介している。
被災体験を共有しようと、夫とともに震災川柳を募り、震災二ヶ月後に句集『悲苦を超えて 阪神大震災』を発表。この年、神戸新聞平和文化賞受賞。翌1996(平成8)年『川柳展望』を人手に譲り、新たに『月刊川柳大学』を創刊。各紙誌の投稿川柳の選者としても活躍し、後進の指導と川柳の普及に努めた。2007(平成19)年3月10日、肺癌により神戸にて逝去。78歳。
時実新子

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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