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カール・ワイク『 想定外のマネジメント ―高信頼組織とは何か― 』(2002年)【リスクの本棚(連載第4回)】

time 2020/12/01

カール・ワイク『 想定外のマネジメント  ―高信頼組織とは何か― 』(2002年)【リスクの本棚(連載第4回)】

大きな災害や事故が突如として発生するように、私たちは「想定外」に満ちた世界を生きています。それらに対する準備が足りず慌てふためくのは、個人も企業・行政などの組織も変わらないでしょう。リスクにかかわる名著を毎回1冊取りあげ、秋山進氏に本の要約をいただくシリーズ連載「リスクの本棚」の第四回は、組織学研究の分野に「ルース・カップリング」「マインドフルネス」「センスメイキング」という概念を取り入れたアメリカの組織社会心理学者カール・ワイクの著書『 不確実性のマネジメント 』を取り上げていただきました。


連載・リスクの本棚~リスクに関わる名著とともに考える~vol.4

『想定外のマネジメント ―高信頼組織とは何か―』

評者:秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)



著者カール・ワイクはミシガン大学の世界的な組織心理学者である。本書は現在、第3版が出版されている。第1版は2002年。言葉が多少難解で構成も入れ子構造があり、多少冗長なところもあるが、内容は大変示唆に富む。大きなリスクが顕在化し、想定をはるかに超える事態が多発する現在、より多くの人が読んでおくにふさわしい本だと思う。

想定外のマネジメントとはより重大な脅威となりうる弱いシグナルを定義して監視し、それらのシグナルがもっと複雑な意図せざる結果の連鎖へと結晶化しはじめるときに、適応可能なアクションをとるための絶え間ない取り組みだ

想定外のマネジメント 文庫 – 2017/7/28
想定外のマネジメント
―高信頼組織とは何か―[第3版](文眞堂)

想定外のマネジメントができていない状態とは、別々のシグナルが首尾一貫したパターンを形成しはじめているにも関わらず、組織のメンバーが立場の違いや利害関係、パワー、能力、インセンティブ、データへのアクセスなどの違いから、おのおのが関心を寄せる内容が異なり、さらには個々の事象へのそれらしい解釈が行われるため、組織全体での統一的な事態の解釈が行われないことを意味する。新しい事態が発生しているにもかかわらず、過去の考え方にそった旧来の解決策が現場で行われている状況であり、問題の本質的解決には程遠いのである。

これらの状況をできるだけ排除し、想定外に強い組織を作るための基本的な考え方が本書では語られる。そのキーワードは「マインドフル」である。
マインドフルというと禅やヨガなどで使われる用語として有名だが、あらゆる領域に対して敏感に対応できる組織の状態という意味で本書では使われている。

 

◆マインドフルな組織化の基盤とは

想定外の事象が発生しているシグナルは、組織の下位の者が見えるところにバラバラに存在している。しかし、これらの人々は、それを重大なものとして認定する権限をほとんど持っていない。

しかし、組織の構成員すべてが、自分たちの活動の文脈と、外界の反応についての基本的な想定、想定の範囲、そして修正の必要性に気づいておれば、組織の活動はマインドフルになりえるというのが著者の主張である。

そして、このマインドフルな強い組織を作るうえで、重要なコンセプトは、センスメイキングであるという。

センスメイキングは、流れについての直接の経験を編集し、短縮し、単純化し、分類する社会的なプロセスなのだ。センスメイキングのこの社会的な性質によって、いかに上手く想定外をマネジメントできるかが決まる。

センスメイキングとは、問題に関する現場からの情報、センサーや遠隔監視のデータ、そしてシステムに関するリアルタイムの状態やパフォーマンスといった多様なインプットから、全体的状況に関するひとつのイメージを統合することである。これらが予定のシナリオ通りに動いている間は、新たなセンスメイキングは必要ないが、予期せぬ情報、異常値のデータなどが出てきた際には、各々の情報やデータを互いに結びつけることで新たな意味を再考し、妥当性のある別のストーリーを創出することが必要になる。

このとき、過去のストーリーが機能しない一方で、効果的なストーリーがいまだ見つからない期間は、暗中模索の状態になる。ああでもない、こうでもないと言いながら、試行錯誤が行われ、それは構築される。センスメイキングとは行為しながら考えることでもある。

このようなセンスメイキングを組織的に行うためには、

1. 存在する記述を能動的に差異化し洗練させ

2. 活動を通して流れる絶え間ない出来事の流れから、新しい独自のカテゴリーや記述を生み出し

3. 出来事の文脈や、解釈のなかでその文脈を保持する他の方法についてのより微妙な評価を発達させる。この差異化と創造、そして評価の組み合わせが、より細部を捉え、より幅広い多様な役割を喚起し、その細部やルールをより豊かな共有された推測へ統合する

言葉は難しいが、いま目の前で起こっているの情報や感知されたデータを説明するうえで、もともと想定していたストーリーが意味をなさない場合に、妥協せずに新たな意味を探し求め続けることである。

そして、それを可能にするのが強くて良い組織であり、著者は「高信頼組織」と名づける。

 

次は、「高信頼組織」とは何かを解説・・・
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