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【リスクの本棚(連載第12回)】「台湾の危機は日本の危機」がわかる本 『 台湾有事と日本の安全保障 』(2020年 ワニブックス) | 著者:秋山進

time 2021/08/01

【リスクの本棚(連載第12回)】「台湾の危機は日本の危機」がわかる本    『 台湾有事と日本の安全保障 』(2020年 ワニブックス)    |  著者:秋山進

今年7月1日の中国共産党創立100周年記念式典で習近平主席は“台湾併合”を喫緊の課題としてあげ、その10日後には「台湾有事で日本が武力介入したら、中国は日本に核攻撃をすべきだ」と呼びかける動画がアメリカ国内で拡散されて大きな波紋を広げました。中国政府は直ちにこの動画を削除しこの威嚇が中国当局の公式見解ではないことを表明したものの、これまで習政権が一貫して執ってきた大国的振る舞いなどから動画拡散の背後に中国人民解放軍がいるとの見解も囁かれています。米インド太平洋軍司令官が「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性」を米国上院公聴会で示唆するなど、今年に入ってから、“台湾有事”がより現実味を帯びてきており、東アジア情勢は予断を許さない状況となりつつあるようです。秋山進氏のシリーズ連載「リスクの本棚」では、軍事のスペシャリストである元自衛隊幹部らの新書『台湾有事と日本の安全保障』を取り上げていただきました。


連載・リスクの本棚~リスクに関わる名著とともに考える~vol.12

『 台湾有事と日本の安全保障 -日本と台湾は運命共同体だ- 』(2020年)(渡部悦和(著)、尾上定正(著)、小野田治(著)、矢野一樹(著))

著者:秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)



「台湾問題の解決と祖国の完全統一の実現は中国共産党の揺るぎない歴史的任務で、中国全国民の共通の願いだ」

「台湾海峡の両側の同胞を含む中国の全ての息子と娘は協力し、団結して前進し、いかなる『台湾独立』のたくらみも断固として粉砕する必要がある」

「中国国民の強い決意や断固たる意思、国家主権と領土の一体性を防衛する強大な能力」を誰も侮るべきではない

2021年7月1日、共産党100周年記念式典において、習近平国家主席はこのように演説した。

これらの発言を聞くと、中国が力づくで統一を試みる「台湾有事」の可能性がある、と考えざるを得ない。そこで手に取ってみたのが本書である。著者(渡部悦和氏、尾上定正氏、小野田治氏、矢野一樹氏)たちは、自衛隊(陸海空)の元幹部であり、在外大学での研究の経験もある。軍事面だけにとどまらず幅広い視点から台湾有事に関する問題提起を行っている。



● 中国は覇権国家を目指す

まず、重要なことは中国が何を目指しているのかである。



台湾有事と日本の安全保障
(ワニブックスPLUS新書)

中国の国家ヴィジョンは、「中華民族の偉大なる復興」であり、具体的には、1 欧米諸国によって侵略される以前のアジアにおける中国の卓越した地位を取り戻す。2 本土の新疆ウイグル自治区やチベットのみならず、台湾と香港を含んだ大中国の領土に対する支配を再び確立する。3 国境沿い及び隣接海域における中国の歴史的な影響圏を取り戻し、偉大な国家が他の諸国に常に要求してきたことだが、その影響圏に敬意を払わせる。4 世界の舞台において中国に対する他の大国の尊敬を命じる、といったことを目指すこととなる。

そのために一帯一路といった経済構想、人民解放軍の強化、科学技術の振興などを着々とすすめ、成果を収めてきたのである。

そのなかにあって、台湾統一問題は、中国民族の偉大なる復興を実現するうえでもっとも重要な問題と言える。

中国当局は、台湾統一の方策を追求していますが、最終手段として「力による台湾統一」を採用する可能性はあります。しかし、「戦わずして台湾統一」が実現できれば理想的で、そのために習近平の台湾戦略は、様々な分野(経済、政治、軍事、文化、社会、司法)への浸透工作に具体化されています。

現在、台湾への軍事侵攻が行われるわけではないが、非戦闘行為を中心にした戦線はすでに開かれていると解釈できるだろう。



● 中国の台湾侵攻および浸透戦略

では、中国はどのような戦略で侵攻および浸透を図るのか?
本書によると、中国の基本的な方針は下記のようなものである。

まず戦闘行為においては、「一体化統合戦略」、「短期限定作戦」である。

一体化統合戦略とは、以下のようなものである。人民解放軍は、各軍種(陸、海、空、ロケット軍)が協力しあい、さらには情報、兵站支援、非軍事勢力(警察、国民など)の活用も含めた統合戦略をとらない限り、技術的に優れた他国の軍隊には勝てないと認識をしている。したがって、実際の戦闘においては、使用可能なあらゆる資源が総動員されることになる。

短期限定作戦とは、中国は現段階において、戦力に勝る米軍と本格的な戦争をしようとは考えておらず、短期で地域を限定した作戦を実施し、米軍が本格的な行動を開始する前に決着をつけようとするということである。作戦の基本は、陸海空の通常戦力のみならず、弾道ミサイル、衛星破壊兵器、サイバー・電子戦能力さらには特殊部隊や武装民兵等を活用し、あらゆる作戦領域において米軍の脆弱性(アキレス腱)を攻撃する。

さらには、「情報戦」、「サイバー戦」における戦いにおいても有利な立場を獲得しようとしている。

情報戦とは、情報の優越(情報の量、質、情報入手・分析のスピードなどで敵に勝ること)が強調され、敵よりも早く情報を入手し、その情報を迅速に処理し、その処理した情報を関係部署に伝達する、ことの実現を目指している。とくに人民解放軍は、作戦初期における(電子戦などで使用される)電磁波領域の支配を戦勝獲得のために非常に重視している。

サイバー戦は、人民解放軍、軍以外の公的機関(情報機関、治安機関など)、企業、個人のハッカーがすべて参加し、人民解放軍が統括する。習近平はサイバー空間を安全保障面で非常に重要なドメイン(作戦領域)と認識し、中国はサイバー強国を目指すと宣言している。

さらには、政治工作としての三戦、すなわち「世論戦」、「心理戦」、「法律戦」がある。

世論戦は、味方の敢闘精神の鼓舞、敵の戦闘意欲の減退を目的として、内外世論の醸成を図る作戦である。

心理戦は、敵の抵抗意慾の破砕を目的とする作戦のこと。作戦の具体的手段としては、宣伝、威嚇、欺騙(味方の意図と能力を隠すため、敵に誤った情報を計画的に与える作戦)、離間(味方同士の仲たがい)、心理防護(自らの心理を防護すること)がある。

法律戦は、味方の武力行使、作戦行動の合法性を確保し、敵の違法性を暴き、第三国の干渉を阻止することで味方を主動、敵を受動の立場におくことを目的とする作戦である。

中国は伝統的にこの三戦の展開に長けている。ちなみに、これらは2003年に中央軍事委員会が正式に採択した「中国人民解放軍政治工作条例」に記されており、様々な対象を相手に今日も行使されている。

さて、このように見ると広義の戦争はすでに行われているといえるだろうが、実際に戦闘行為が行われる可能性はあるのか、そして行われるとすればどの場所になるのか、といったことも重要だ。著者らは、以下のように答える。

私が懸念するのは、中国が世界一の強国を目指す過程において、手頃な相手に対して「短期限定作戦」を行う可能性です。

今後、発生が予想される「短期限定作戦」の舞台は、中国と台湾、中国とインドの国境付近、朝鮮半島、南シナ海、東シナ海ですが、中国は台湾を一番重視しています。人民解放軍の演習における紛争シナリオの80%は台湾紛争です。

そして、本書では、台湾海峡危機のシミュレーションが2つ記される。一つは、「ハイブリッド戦」(心理戦や軍事圧力、漁民団の活躍、台湾国内の分断作戦などを総合的に利用し、台湾国内を統一派に勝利させる方法)であり、もう一つは「台湾限定の短期激烈戦」である。いずれも起こりうると思われるが、評者はハイブリッド戦に大きなリアリティを感じた。



● アメリカは、日本はどう動く?

では、このような中国の動きに対してアメリカや日本はどう対応するのか、そしてアメリカ軍と自衛隊は対抗できるのか?

まずアメリカの基本姿勢だが、19世紀に大国として台頭して以来、アメリカは二つの目標を堅持してきたという。一つは北米における米国の覇権を維持すること、二つ目は、欧州、アジア及び中東において敵対的な大国の覇権を予防すること、である。そしてこれらは常に実践され、過去の挑戦国(ソ連、日本、ドイツ)は退けられてきた。そして、今回は中国である。2018年、アメリカは「国家防衛戦略 *1」を発表し、脅威対象国として中国とロシアを明示し、とくに中国には厳しく対峙することを宣言した。その後のヒートアップは皆さんもご存じの通りだが、これは完全なる覇権争いであり、そう簡単に終息することはない。

また、台湾について米国防省は、「米国は、ルールに基づく国際秩序の維持に死活的な利益を有している。その観点で強く・繁栄し、民主的な台湾を望む」とインド太平洋レポートで記している。

それを前提に、台湾有事があった際の対応の構想が練られてきた。「エアーシーバトル *2」、「海洋プレッシャー戦略 *3」などがそれにあたる。この内容は大変興味深いが、門外漢の私が内容を適切にまとめることはできないのでぜひ実際に本書を読んでもらいたい。一時的に米軍が安全圏に退却する等(これはすなわち、日本の諸地域の安全を日本の力だけで確保することを意味する)の可能性も示唆されており、状況を想像するとかなりの緊迫感がある。いずれにせよ、日本および自衛隊が関与することは避けられない。

これらを読むと、日本にとって台湾有事は米中の問題ではなく、明らかに自国の問題であることがわかる。地図を見ればわかるが、台湾と石垣島、宮古島などの南西諸島はびっくりするほど近い。2021年8月号の文藝春秋には「迫る台湾侵攻「日米極秘訓練」の全貌」という記事が掲載されているが、そこにはすでに3年前より米海兵隊と日本の陸上自衛隊がリアルに共同演習を実施していることが記されている。この際、状況にもよるが、日本の陸自、および日本の諸島が人民解放軍の攻撃対象になる可能性も十分にありうることが示されている。

このような事態がおこってから慌てるのではなく、台湾有事の可能性およびそれが引き起こす事態の重要性について、われわれ一般人ももう少し認識を深めておく必要があるだろう。著者たちは、有事を引き起こさないためにも、米国だけでなく、第一列島線を構成する台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアなどとの連携をさらに強めること、防衛装備の改善、憲法9条の改正や過度に抑制的な防衛政策の変革などを主張している。つまるところ日本の現況は台湾有事に対応できる万全の備えができていないという主張である。イデオロギーとしての平和を主張するだけで国家の安全保障が維持できるのであればよいが、それは難しいだろう。もちろん対外政策や法制度の変革は総合的な視点が必要であり、軍事的な視点のみによって意思決定することはできないが、中国の現状変更的な活動の激化および不透明な韓半島情勢を考えれば、著者らの主張は十分に説得力を持つと思われる。


*1 : 国家防衛戦略 ( National Defense Strategy: NDS )
*2 : エアーシーバトル ( Air Sea Battle: ASB )
*3 : 海洋プレッシャー戦略 ( Strategy of Maritime Pressure )


著者:秋山 進(あきやま・すすむ)


1963年、奈良県生まれ。京都大学経済学部卒。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。

主な著書に『「一体感」が会社を潰す』(PHP研究所)、『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』(日本能率協会マネジメントセンター)、『社長!それは「法律」問題です』(日本経済新聞出版)などがある。

【関連リンク】
・プリンシプル・コンサルティング・グループ:https://www.principlegr.com/
・麹町アカデミア:http://k-academia.co.jp/

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