『 人々は運命に対して惰性的であることに安心している。 』
岡本太郎(1911~1996 / 芸術家 代表作「明日の神話」「太陽の塔」など)
格言は、著書『自分の中に毒を持て(新装版)』(青春出版社 2017年)より。初出は1993年の同名の文庫版から。
曰く――――。
人々は運命に対して惰性的であることに安心している。これは昔からの慣習でもあるようだ。
無難な道をとり、みんなと同じような動作をすること、つまり世間知に従って、この世の中に抵抗なく生きながらえていくことが、あたかも美徳であるように思われているのだ。徳川三百年、封建時代の伝統だろうか。 …(中略)… 信念をもって、人とは違った言動をし、あえて筋を通すというような生き方は、その人にとって単に危険というよりも、まるで悪徳であり、また他に対して不作法なものをつきつけるとみなされる。 …(中略)… ぼくはいつもあたりを見回して、その煮えきらない、惰性的な人々の生き方に憤りを感じつづけている。 》(「自分の大間違い」より)
また、同書「あなたは何に燃えたいか」では、以下のように述べている。
巨大化していく生産など、未来をばら色に描き出した夢、プラスと思ったことが逆に裏目に出て、人類滅亡の方向に加速度をつけていることは事実のようだ。環境破壊、人口問題、さし迫ってくる問題で解決の見込みのついているものは一つもない。
近代合理主義を誇り、進歩などと得意になって突っ走った馬鹿馬鹿しさ、今になって、不吉なゴールを予感して悲鳴をあげている。人間はまことに矛盾した生きものだ。…(中略)…
地球は死につつある。だが今日の機構、体制、考え方、すべてが、進歩・生産、合理主義の方向に統一されてしまっているから、この時点に至って手の打ちようがない、呆然としている感じだ。
とりわけ日本人の場合は傷ましい。文明開化以来、西欧近代文明を手本として、なりふり構わず、あくせく頑張りつづけてきた。追いつき、追い越せ。ひたすら走りつづけ、驚異的な成功をおさめた。ところが、とたんに逆目が出てしまったのだ。
公害の実験室となり、エコノミック・アニマルのレッテルをはられ、貿易不均衡、国際通貨不安のもとと世界中で白い眼を向けられ……悩みは深刻である。…(中略)…
ぼくがここで問題にしたいのは、人類全体が残るか滅びるかという漠とした遠い想定よりも、今現時点で、人間の一人ひとりはいったいほんとうに生きているだろうかということだ。
ほんとうに生きがいをもって、瞬間瞬間に自分をひらいて生きているかどうか。システムのベルトコンベアーに乗せられ、己を失って、ただ惰性的に生活をつづけているというのなら、本質的に生きているとは言えない。ならば人類滅亡論をいうことも意味がないじゃないか。一人ひとりが強烈な生きがいにみちあふれ、輝いて生きない限り。
確かに今日の小市民生活は物質的に恵まれている。暮しは昔に比べてはるかに楽になってはいるが、そのために生命の緊張感を失い、逆に空しくなっている。
進歩だとか福祉だとかいって、誰もがその状況に甘えてしまっている。システムの中で、安全に生活することばかり考え、危険に体当たりして生きがいを貫こうとすることは稀である。自分を大事にしようとするから、逆に生きがいを失ってしまうのだ。己を殺す決意と情熱を持って危険に対面し、生きぬかなかければならない。今日の、すべてが虚無化したこの時点でこそ、かつての時代よりも一段と強烈に挑むべきだ。
強烈に生きることは常に死を前提にしている。死という最もきびしい運命と直面して、はじめていのちが奮い立つのだ。死はただ生理的な終焉ではなく、日常生活の中に瞬間瞬間にたちあらわれるものだ。この世の中で自分を純粋に貫こうとしたら、生きがいに賭けようとすれば、必ず絶望的な危険をともなう。
そのとき「死」が現前するのだ。惰性的にすごせば死の危機感は遠ざかる。しかし空しい。死を畏れて引っ込んでしまっては、生きがいはなくなる。今日はほとんどの人が、その純粋な生と死の問題を回避してしまっている。だから虚脱状態になっているのだ。
個人財産、利害得失だけにこだわり、またひたすらにマイホームの無事安全を願う、現代人のケチくささ。卑しい。小市民根性を見るにつけ、こんな群れの延長である人類の運命などというものは、逆にけとばしてやりたくなる。
人間本来の生き方は無目的、無条件であるべきだ。それが誇りだ。死ぬのもよし、生きるもよし。ただし、その瞬間にベストをつくすことだ。現在に、強烈にひらくべきだ。未練がましくある必要はないのだ。一人ひとり、になう運命が栄光に輝くことも、また惨めであることも、ともに巨大なドラマとして終わるのだ。人類全体の運命もそれと同じようにいつかは消える。
それでよいのだ。無目的にふくらみ、輝いて、最後に爆発する。平然と人類がこの世から去るとしたら、それがぼくには栄光だと思える。 》(「あなたは何に燃えたいか」より)
“芸術は爆発だ”の流行語で有名な芸術家の岡本太郎(おかもと たろう)。1929年に18歳でフランスへと渡り、私学の寄宿生となってフランス語を磨き、西洋の教養を身につけ、モンパルナスにアトリエを構えて1940年にパリを離れるまで10年以上にわたって活躍。1930年代のパリで、ジョルジュ・バタイユらと活動をともにし、抽象芸術やシュルレアリスム運動に参画。帰国後は、東京オリンピックのメダルデザインや大阪近鉄バファローズの猛牛マークのデザイン、大阪の日本万国博覧会モニュメント「太陽の塔」などの作品、テレビのバラエティ番組などへの出演で特に若い世代に大きな影響を与えた芸術家の一人。
1911年(明治44年)2月26日、漫画家の岡本一平(1886~1948)と歌人で小説家の岡本かの子(1889~1939)の長男として、神奈川県橘樹郡高津村二子(現・川崎市高津区二子)に生まれる。俳優の池部良(1918~2010)は父方の従兄弟にあたる。
慶應義塾幼稚舎、慶應義塾普通部を経て、東京美術学校(現・東京芸術大学)洋画科入学するが半年後中退。18歳の時、1929年(昭和4年)に渡仏し、パリ大学ソルボンヌ校でマルセル・モース(1872~1950)から宗教学、社会学、民族学を学んだ。1930年代のパリで抽象芸術やシュルレアリスム運動に参画し、世界的な思想家であるジョルジュ・バタイユ(1897~1962)らと活動をともにした(コントル・アタックやアセファルに参加)。1940年(昭和15年)ナチスドイツのパリ侵攻をきっかけに日本へ帰国。戦後日本で前衛芸術運動を展開し、問題作を次々と社会に送り出す。1951年(昭和26年)に縄文土器と出会い、翌年「縄文土器論(四次元との対話-縄文土器論)」を美術雑誌へ発表。1970年(昭和45年)大阪万博で「太陽の塔」を製作し、国民的存在となる。
1996年(平成8年)1月7日、慶應義塾大学病院にて逝去。満84歳。
主な受賞に、エッセイ『忘れられた日本――沖縄文化論』(1961年)で毎日出版文化賞受賞。フランス芸術文化勲章(1984年、1989年)。
岡本太郎 via Wipipedia
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