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【リスクの本棚(連載第4回)】カール・ワイク『 想定外のマネジメント ―高信頼組織とは何か― 』(2002年) | 著者:秋山進

time 2020/12/01

【リスクの本棚(連載第4回)】カール・ワイク『 想定外のマネジメント  ―高信頼組織とは何か― 』(2002年) | 著者:秋山進

◆高信頼組織 5つの原則

高信頼組織を作るには5つの原則があるという。すでに記述してきた内容と重複しているが、簡単に記しておこう。

●原則1 失敗にこだわる

一般に、逸脱(失敗)は悩みの種と見なされる。一方、高信頼性組織は、逸脱を重視する。

まずは常にある想定(標準)を置き、そうすることによって、早く、鮮明にその標準からの逸脱が目立つようにする。従業員が標準を認識することで、初めて逸脱が際立つ。標準を知らないものには逸脱は把握できない。

さらに、高信頼性組織は、犯す可能性のある重大なミスを想定し特定することに懸命であり、状況や環境について自分たちの知識が不完全なものだということがわかっている。

逸脱により、危険、不安、憂慮が生まれた際、人間の本能はこうした苦しい状態を除去しようとする。そこで、状況をコントロールできていると感じられる暫定的な説明が行われ、それで安心して問題なしとしてしまいがちだ。しかし、この最初の説明で満足せず、逸脱や異常、失敗を適切にしつこく把握しようとするのが、高信頼性組織の特徴である。

●原則2 単純化をさける

高信頼性組織が想定外をマネジメントする別の方法は、単純化を避けると言うことである。

たとえば、最初の出荷時の不良を、あまねく初期不良として処理するのはよくある単純化の例である。これによっては何も説明されない。たとえばリーマンショックの際に危機に陥った金融機関では、サブプライムローンの借主をひとまとめに扱う傾向があった。多様な借主を単純化してしまうことで細部の危険は隠されてしまった。当初は想定外として扱っていた事態でも、大きな損失につながらない場合、問題の解明がされていないにも関わらず想定内の事態(よくある大したことのないこと)として取り扱われるようになる。もっとひどい場合は、自分たちが設定した類型に適合しない逸脱は、重要でないとされ、考慮されないこともある。

このような単純化は、細部を不明瞭にしてしまい、問題の存在を否定したり忘却させたりしてしまう。その一部が想定外の大きな事象につながってしまうのである。高信頼組織ではこのような単純化が行われないように努力がなされる。

●原則3 オペレーションに敏感になる

高信頼組織がオペレーションに敏感だというとき、それは「込み入っていて(かつ)しばしば不明瞭なシステムとの想定可能な相互作用(=オペレーション)」に敏感なことを意味する。具体的には、小さな失敗の検知、カテゴリーの差異化、一瞬一瞬の状況変化への警戒心などである。

オペレーションに敏感な組織であれば、異常はそれらがまだ扱いやすく、対処可能なうちに検知され対応される。たとえば、航空機の運航において、ニアミスを「安全に見える危険事象」と解釈すれば敏感性は向上し、「危険に見える安全事象」ととらえれば敏感性は減少する。後者のように健全性が過大評価されているオペレーションは危険にさらされているといえる。

安全に見えるが危険な事象と認識される場合、その危険とは何か(いままで認識されていた危険性とはどう違う別のカテゴリーか)等が検討され、現場にも新しいリスクとして認識される。しかし、危険に見えるが安全な事象と認識してしまえば、この事象は心配することはないということになってしまう。そこで話が終わってしまえば、警戒心を持つこともない。このようなオペレーション上の健全性の過大評価が常態化しておれば、当然のことながら、想定外の事象には強くなりようがない。

●原則4 レジリエンスを決意する

高信頼組織は、失敗から学習し、認知を複雑化し、オペレーションに敏感であり続けるという予防活動を、レジリエンスを誓うということで補完する。レジリエンスの本質とは、組織が動態的な安定状態を維持あるいは再獲得する固有の能力である。

レジリエンスは、自身の限界を正直に認めたときにのみ発動する。そしてエラーを小さく抑えること、システムの機能を維持する回避策を即興的に実施すること、システム運用時に発生する変化に対応することを組み合わせながら対応する。

そのようにしながら、新たに出現しているパターンに意味を付与し、新しい対応方法を見つける。これにより安定状態を再獲得するのである。

レジリアンスに優れた高信頼性組織の特徴は、エラーが起こらないことではなく、エラーが起きても機能不全にならないことにある。

●原則5 専門知を重んじる

高信頼組織では意思決定を現場レベルやその周辺に任せる。そのため、意思決定は現場の第一線で行われることになり、その際の権限は職位に関係なく、もっとも専門知をもつ人材に移譲される。

通常オペレーションの範囲外で何かが起きると、知識豊富な人々が当座の活動に必要なネットワークを自己組織化し、問題解決のための専門知を提供する。古参が持つ様々な経験と能力は、時代遅れではなく、想定外への対処を可能にする資源なのだ。

さらに高信頼性組織のメンバーの知見は、「状況的謙虚さ」の上に構築される。なぜなら高信頼組織のメンバーは、自身の知識と経験の限界を知っているからだ。専門家は自分たちが何を知らないかを知っている。

自信過剰な人は本人が思っている以上にものを知らないし、必要とされるほど世の中に関心も持っていない。そして本人が思っているよりも、想定外に弱い。高信頼組織は、どのような専門家が真に頼るべき専門家であるかをよく知っている。


◆まとめ 想定外に強い組織とは、

以上のようなことから、想定外に強い高信頼組織とは、

小さな失敗を見つけださなくてはならないし、(失敗にこだわるという原則)、それらをカテゴリーのなかに埋もれさせず識別できるようにしておかなければならない。(単純化を避ける)。失敗の兆候かもしれないニュアンスに気づくには、進行中のオペレーションを意識し続ける必要がある(オペレーションに敏感になる)。回復の道筋を決め(レジリエンスを決意する)、その道筋を実装する術を知るには(専門知に従う)、注意もまた不可欠だ。

ということになる。

想定外の事態に慌てふためく人は、何とかして物事を想定内の流れに戻そうとし、枠の中に適当なところに落としどころを見つけて、動き始める。しかし、想定外のマネジメントとは、その順序をひっくり返し、異常をより目立たせる。一般的知識を状況的知識に代用するのではなく、状況的知識からあたらしい一般的知識を導くのである。

「彼ら二人の世界よりも正しい第三の世界などは存在しない。彼らの視点がなぜ異なっているのかを説明する第三の世界が存在するだけだ。私たちは自分自身の世界のみの専門家なのだ。

組織のメンバーは、自分たちの活動が、「どんなストーリーに乗って行われているか?」という認識をしっかりと持ち、一方では、逸脱に敏感でその認識を常に疑い、メンバーや専門家の見えている世界を統合して、目の前の新しい現実をよりよく説明する新たなストーリーを絶えず求め続ける。自分たちのやっていることの自覚と懐疑を両立させる組織こそが、想定外に強い高信頼性組織なのである。本書からは、このような高信頼性組織がどのように機能するのかというリアルなイメージを獲得することが可能だ。一方、このような高信頼性組織をどのように構築していけばよいかについては、かなりの部分が読者に任される。想定外のリスクに対して、社会的に敏感な今こそ、いろいろな挑戦が実行されるべき時期であろうと思う。



著者:秋山 進(あきやま・すすむ)


1963年、奈良県生まれ。京都大学経済学部卒。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。

主な著書に『「一体感」が会社を潰す』(PHP研究所)、『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』(日本能率協会マネジメントセンター)、『社長!それは「法律」問題です』(日本経済新聞出版)などがある。

【関連リンク】
・プリンシプル・コンサルティング・グループ:https://www.principlegr.com/
・麹町アカデミア:http://k-academia.co.jp/

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https://shisokuyubi.com/special-column/the_risk_bookshelf_05

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