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【リスクの本棚(連載第5回)】山岸俊男『 安心社会から信頼社会へ 』(1999年) | 著者:秋山進

time 2020/12/30

【リスクの本棚(連載第5回)】山岸俊男『 安心社会から信頼社会へ 』(1999年) | 著者:秋山進

長く続く不況から社会と経済に大きな不安を感じる日本人は今、安心社会から信頼社会への移行期にあるという。さて、リスクにかかわる名著を毎回1冊取りあげていただき、秋山進氏にその本の要約をいただくシリーズ連載「リスクの本棚」の第五回は、社会心理学者で文化功労者の故山岸俊男氏による社会心理学的文明論の良書『安心社会から信頼社会へ』を取り上げていただきました。


連載・リスクの本棚~リスクに関わる名著とともに考える~vol.5

『 安心社会から信頼社会へ 』

著者:秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)



社会心理学者である山岸俊男氏による1999年の著書である。この頃の日本では、系列がまだ力を持ち、正社員による終身雇用が社会の中心にあった。一方で国内市場と輸出だけでは稼げない状況が予測され、日本企業がグローバル化に尽力し始めたころでもある。本書では様々な実験をもとに社会的活動における人間心理が明らかにされ、現在は、隠れてしまっている日本社会の基本構造が浮き彫りにされている。

著者によると、過去の日本社会は、終身雇用や系列などで、継続することが保証された「コミットメント関係」にあり「安心」が提供されてきたという。人の関係の安定性があり、また長期にわたる付き合いがあったため、わざわざ相手が「信頼」できる人間かどうかを考慮する必要すらなかったのである。

コミットメント関係の形成は一方では関係内部での社会的不確実性を低下させ、安心していられる環境を生み出しますが、それと同時に、あまり望ましくない副作用である「機会費用」を生み出す。


安心社会から信頼社会へ
―日本型システムの行方 (中公新書)

機会費用とはもともとは経済学で用いられている用語である。特定の行動に投資した費用や時間を、別の行動に投資した場合に得られる利益のことを指す。

仕事をいつもの会社(系列の会社)や、いつもの人(社員)に任せるよりも、系列外や、他社の人や外部から採用した人に任せたほうが、ずっとコストパフォーマンスよく実現できる状況になっているにも関わらず、それをしないことで大きな損失を被ることが顕在化してたのだ。

そこで、これまでの閉じた世界での「安心」から、知らない人との関係を構築できる開かれた「信頼」の社会へ変えていくためにはどうすれば良いのか、について考察がなされる。


◆日本人は集団主義的?

よく、日本人は集団主義的だから、外部に対して門戸を開きなさいなどと言っても変われないと言われる。しかし、日本人が集団主義的かどうかを各種の実験で確かめると、決してそうでない結果が生まれるという。

相互監視・規制が不可能な実験場面を設定すると、日本人のほうがアメリカ人よりも非協力的になる
「集団主義的な」日本社会で人々が集団のために自己の利益を犠牲にするような行動をとるのは、人々が自分の利益よりも集団の利益を優先する心の性質をもっているからというよりは、人々が集団の利益に反するように行動するのを妨げるような社会のしくみ、とくに相互監視と相互規制のしくみが存在しているからだ

日本人自身が「集団的な心性」を持っているのではなく、「日本社会が集団主義的な行動を個人に実行させる構造を持っている」ということである。それはすなわち、日本人をその構造から解放すれば、まったく違う行動をする可能性があるということにつながる。


◆社会的不確実性のもとでの意思決定

この構造から脱却するためには、前提として、日本人の集団的行動がどのように生まれるかを知らなければならない。筆者はその理由を「社会的不確実性の存在」だという。

市場においては、さまざまな商品が取引される。しかし、その取引形態は多様だ。たとえば、生ゴムの原料の売買は市場取引というよりは、長期的な取引相手を限定した系列的な取引が行われる。一方、米は市場でのスポット的な取引が行われている。

なぜ、そんな違いが生まれるのか。その理由は、生ゴムは工場で処理されて製品になるまでその品質がわからないため、良いゴムか悪いゴムかが一見しただけでは判断ができないのだ。それに対し、米の品質はその場でただちに確認できる。仲買人が粗悪品を売りつけられる危険性もない。そのことから、

不確実性大条件では、取引されている商品の品質が保証されている不確実性小条件でよりも、特定の売り手と買い手との間に安定した関係が形成されやすい

という傾向が導き出される。さらに、ここから、日本企業の閉鎖性の根幹にある終身雇用に話が進む。

人を雇うというのは、ワープロの能力とかプログラミングの能力といった個々の技能を購入するのではなく、何年かの訓練を終えた後で役にたつ可能性のある、投資材料としての「人材」を確保することだからです。

人材の場合にも生ゴムと同様に、その購入にあたって大きな社会的不確実性が存在しています。

ここでもし、日本企業の人に対する考え方が、ワープロの能力とかプログラミングの能力といった”個々の技能を購入”するのであれば、その技能だけチェックすれば良いし、それは難しくない。そうであれば、お米と同じようなスポットの採用市場が生まれたであろうということになる。しかし、日本企業の考え方はそうではなかった。人材そのものを購入したのである。その結果、長期安定的な市場(終身雇用)が生まれたということになる。

著者は、ここで技能を取引する採用市場を作れ!と述べているわけではない。不確実性のある世界においては、長期安定的な関係が作られやすいことを述べ、その先に統計的な差別の問題(例:男性のほうが長く働くから教育も元が取れる)が生まれ、その構造からなかなか抜け出しにくい、という状況の説明を行ったのであった。

次は、信頼社会の構築を進めていく必要性・・・
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