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【リスクの本棚(連載第3回)】専門家は黒鳥の出現を予測できない ナシーム・ニコラス・タレブ 『ブラック・スワン ~不確実性とリスクの本質~(上・下)』(2007年) | 著者:秋山進

time 2020/11/01

【リスクの本棚(連載第3回)】専門家は黒鳥の出現を予測できない ナシーム・ニコラス・タレブ 『ブラック・スワン ~不確実性とリスクの本質~(上・下)』(2007年) | 著者:秋山進

突如発生した新型ウイルスはまたたく間に世界に広がり世界経済にも暗い影を落としている。パンデミックという社会的に大きなインパクトは、私たちの住む世界のグローバルシステムの脆弱性について改めて考える契機となりました。さて、リスクにかかわる名著を毎回1冊取りあげ、秋山進氏に本の要約をいただくシリーズ連載「リスクの本棚」の第三回は、2007年(原著)に不確実性とリスクの関係性を述べた世界的ベストセラー『ブラック・スワン』を取り上げていただきました。


連載・リスクの本棚~リスクに関わる名著とともに考える~vol.3

『ブラック・スワン ~不確実性とリスクの本質~』

専門家は黒鳥の出現を予測できない

著者:秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)



この本について語るのに、今ほど適切なときはないだろう。ブラックスワンは現実にいたからである。

著者 ナシーム・ニコラス・タレブによると、ブラックスワンとは、以下の3つの特徴をそなえた事象のことである。

第一に異常であること。つまり過去に照らせば、そんなことが起こるかもしれないとはっきりと示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。第二に、とても大きな衝撃があること。そして第三に、異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道を突けたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。

リスクに関わる仕事をする者として、感染症の脅威については常に強く認識し、また常にその脅威を語ってきた。


ブラック・スワン[上・下]―不確実性と
リスクの本質(ダイヤモンド社)

しかし、私たちが語ってきた感染症はブラックスワンのことではなかった。SARSであり、鳥インフルエンザであり、これまでに起こった事象の延長線上にある感染症のことであった。つまりは、局地的かつ強烈ではあるが短期間で終了するものである。とはいえ、後付けで言えば、広範囲かつ長期間にわたったスペイン風邪についても語っていたことも事実だから、コロナのような感染症についても予測していたと言えなくもないが、それはタレブの言う第三の特徴、つまりは適当な説明をでっち上げていることに極めて近いと認めざるをえない。

普段のわれわれは、日常性から物事を考える。タレブは面白い例をあげている。親切な人間からエサをもらう七面鳥の話である。毎日、人間は親切に規則正しくエサをくれる。したがってそれが一般的になりたつ日々の法則だと七面鳥は信じ込んでしまう。しかし、エサをもらうようになって1000日目、感謝祭の前の水曜日の午後に、思いもしなかったことが七面鳥に降りかかる。七面鳥の信念は覆される。これが七面鳥にとってのブラックスワンであり、実際に起こるべくして起こることなのである。

こんな例もある。

しかし、私の経験してきたことをすべて振り返ってみても、私は一度も・・・(中略)・・・とりたてて言うほどの事故には逢わなかった。海で過ごした歳月で、遭難した船を見かけたのは一度きりだ。難破船をみかけたことは一度もないし、自分が難破したこともない。災害になりそうな窮地に追い込まれたことすら一度もない。 

これは1907年に述べられたE・Jスミスという船長の言葉である。スミス船長の船は1912年に沈没し、歴史上もっとも有名な海難事故を起こした。船の名前はタイタニック号という。


◆黒い白鳥が増えている。

さて、問題は、現下の世界において明らかにブラックスワン的事象が増えていることである。

天候や地殻変動(竜巻や地震など)で起こる事象はここ1000年の間変わっていないが、そういう事象が与える社会・経済的な影響は大きく変わった。今日、地震やハリケーンが経済に与える影響は以前よりも深刻になっている。経済主体間の結びつきが強くなり、第三部で検討する「ネットワーク効果」が高まっているからだ。

この本が書かれた2007年当時、気象変化に伴う異常な事象の頻度の上昇については、いまほど深刻なものとしてとらえられていなかった。それでもネットワーク効果による影響の増大はすでに深刻な問題となっていた。現在、世界中で頻発する気候に関する事象(被害)の巨大化とそのネットワーク効果による損害の大きさは、これまでの歴史から見て我々が一般的な法則と考えているものをはるかに超えている。すなわち、1000日目の七面鳥の状況になっているのである。

タレブは、人間がリスクをどのように認識すべきかについて、「月並みな国」、「果ての国」というコンセプトで説明する。

「月並みな国」は、平均的で凡庸なメンバーによって支配されており、歴史は安定的に変化し、正規分布(ベル型カーブ)的に事象が分布している国である。一方の「果ての国」では、一番典型的なメンバーは巨人か小人、いわゆる典型的なメンバーなどおらず、まぐれによって影響を受け、過去の情勢から予測をできずに歴史はジャンプし、捕捉できないブラックスワン的な事象が普通に存在する国である。

われわれは、999日目までの七面鳥と同じように、毎日同じことが繰り返す「月並みな国」に住んでいるように思いこんでいる。しかしながら実際は「果ての国」に住んでいるのである。

さらにタレブは、いわゆる専門家のことを、「果ての国」にいるのに、「月並みの国」にいるかのように物事を語る人達だと言う。存在しており、実際には大きな影響を与えているのに、ブラックスワンのことをよく知らない、または無いかのように説明する。すべてが正規分布(ベル型カーブ)の世界に存在しているかのように語る。さらにひどいことに、自分が間違うとブラックスワンが出現したのは自分の思考すべき範囲外だといって逃げる。予測は不可能だったのだから、自分のせいじゃない。あれは黒い白鳥だった、と。

そして、そのような専門家を尊重してしまうのは、私たちに、黒い白鳥を無視する傾向があるからだともいう。

具体的には以下のような特徴がある。

・最初から目に見える一部に焦点を当て、それを目に見えない部分に一般化する。つまり追認の誤り。

・はっきりしたパターンをほしがる自分のプラトン性*を満足させる講釈で自分をごまかす。つまり講釈の誤り。

・黒い白鳥なんていないかのように行動する。人間は生まれつき、黒い白鳥に向かないように出来ている。

・目に見えるものが全部だとは限らない。歴史は黒い白鳥を隠し、黒い白鳥の起こるオッズを見誤せる。つまり物言わぬ証拠の歪み。

・私たちは「トンネル」を掘る。つまり、私たちは素性のはっきりした不確実性の源のいくつかにばかり集中する。しかしそれらは、黒い白鳥のリストとしては具体的すぎるのだ(その結果、なかなか思いつかないそのほかの黒い白鳥は無視してしまう)

手厳しいが見事に当たっている。「月並みの国」に住んでいると思っている人には、黒い白鳥のことを声高に叫ぶ者は、狼少年として世間からまったく相手にされない。

*これは哲学者のプラトンの考え(と人となり)にもとづくもの。人間は地図と本物の地面を取り違え、純粋で扱いやすい「型」にばかり焦点を当てる傾向がある、という考え。

次は、賢者とは何か・・・
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