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【リスクの本棚(連載第3回)】専門家は黒鳥の出現を予測できない ナシーム・ニコラス・タレブ 『ブラック・スワン ~不確実性とリスクの本質~(上・下)』(2007年) | 著者:秋山進

time 2020/11/01

【リスクの本棚(連載第3回)】専門家は黒鳥の出現を予測できない ナシーム・ニコラス・タレブ 『ブラック・スワン ~不確実性とリスクの本質~(上・下)』(2007年) | 著者:秋山進

◆賢者とは将来に起こることなんてわからないと思っている人

要するに人間の認知能力は複雑な未来を予知できないのである。
動学的に変化する世界の複雑性を示す例として、ポワンカレの三体問題というものがある。

太陽系に惑星が2つしかなく、両者の軌道に影響を与えるものがほかにない場合、惑星の挙動は苦もなくどこまでも正確に予測することができる。ここで第三の物体、たとえばとても小さな彗星を惑星同士の間に加えてみよう。最初の物体は惑星の向かう方向になんの影響も与えない。しかし時とともに、第三の物体が二つの惑星に与える影響が爆発的に大きくなるこの小さな物体がある場所のほんの小さな違いが、巨大な惑星二つの未来を支配するのだ。

たった一つの小さな彗星が空間に投入されるだけで、二つの星の未来の姿は大きく多様化し予測が極めて困難になるのである。したがって意思を持つ無数の人間が介在するこの世界を予測することは、複雑すぎて不可能なのだ。

このような世界認識に基づき、タレブは、「賢者とは将来に起こることなんてわからないと思っている人」だと考える。社会科学の世界に物理学のやり方を導入することが大きな間違いだと喝破したハイエク。賭けに出るとき、その手の弱いところに焦点を当てて考えるチェスのグランドマスター。相場を張るとき、自分が立てた最初の仮説が間違っていると示す例を探し続けるジョージ・ソロス。このような賢人の知的謙虚さを学ぶべきだというのがタレブの考えでもある。

そして、ブラックスワンのいる「果ての国」でどのように生きるかについて、自身の投資において実践している「バーベル戦略」を提案する(タレブの本業はデリバティブのトレーダーである)。バーベル戦略とは、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつほとんどの「リスク測度」には欠陥があると認めるのなら、とるべき戦略は、可能な限り「超保守的かつ超積極的」になるべきであるというものである。

お金の一部、たとえば85%から90%をものすごく安全な資産に投資する。一方で残りの10%から15%はものすごく投機的な賭けに投じる。

これを人生の具体的な局面に用いるとすると、徹底的に安全を志向する一方で、チャンスやチャンスみたいに見えるものにはかたっぱしから手を出す。セレンディピティの周りでうろうろしてエクスポージャーを高める。たとえば、インターネットの時代だから田舎に住んでいても十分にやり取りできる、なんて思わない。都会のおもしろそうな世界をうろつく。
成功する企業とは、予測などはできないという認識を持ち、その認識を利用しようとする企業だと考えて投資する。一方では、極端に安全に生き、一方ではたまたまの偶然を上手に活かそうとする考え方である・・・・。(極端に偏った二つの領域に賭ける姿がバーベルの姿を想起させる)

以上が、ブラックスワンを読んだ、私の個人的な重要ポイントの要約である。未来など予測できないというタレブの考えはまったくもって痛快であり、まったくもって痛いところを突かれているとも思うが、その通りだとも思う。

この本が初めて世に出た2007年以降も、果ての国では、いろいろなブラックスワンが出現している。なかでも、科学的に難ということで一旦は葬りさられた人工知能(AI)がいきなり脚光を浴びて世界を変えてしまったのは、最大のブラックスワンだろう。しかしながら、その結果、あらゆるデータを活用することで、人工知能(AI)はブラックスワンの出現の予測ができるようになるかもしれない。もしそうなれば、まさにブラックスワン的事象ではあるが、別の言い方をすれば、ブラックスワンに1000日目が来るかもしれないという話でもある。そのような日がほんとうに来るか、来ないか、それを考えることはとても面白い。ただ、それもタレブなら、漸進的な思考の先に正確な予測などできないのだから、「また専門家気どりがバカなことをしている」と切って捨てるのだろうなと思うと、それもまた楽しくなってしまうのだった。


著者:秋山 進(あきやま・すすむ)


1963年、奈良県生まれ。京都大学経済学部卒。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。

主な著書に『「一体感」が会社を潰す』(PHP研究所)、『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』(日本能率協会マネジメントセンター)、『社長!それは「法律」問題です』(日本経済新聞出版)などがある。

【関連リンク】
・プリンシプル・コンサルティング・グループ:https://www.principlegr.com/
・麹町アカデミア:http://k-academia.co.jp/

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