「いつわれわれは準備を完了するのだろうか」そんなことを考えさせられた一冊であった。
元関西国際空港の空港検疫官として、感染症の侵入防止業務に携わった著者が2001年に書いた本である。この時点では鳥インフルエンザはそれほど大きな脅威として認識されていなかったこともあり、黄熱病、マラリア、コレラ、ペスト、エイズなどの感染爆発の歴史や、O157、狂牛病などが日本社会においてどのように受け止められたかについて記されている。
飛行機に乗ってくる病原体 ―空港検疫官の見た感染症の現実 (角川oneテーマ21) おススメ度:★★★☆☆ |
著者は言う。
「古来より、病原体は人間の生活を脅かす恐ろしい敵であった。しかし、科学の勃興とともに仇敵を撲滅できる可能性がほのかに見え、20世紀のある時期には、それが実現される日も近いと思われた」「だが敵もさるもの、こちらの裏を書くやり方で復活を遂げてきた。抗生物質耐性菌や駆虫剤耐性昆虫は、今や世界中に広がっている。そもそも、人間などよりも遥かに長い時間を生き抜いてきた細菌を簡単に撲滅できるなどと考えたこと自体、愚かな思いあがりであった。」
インフルエンザもしかりである。気がつけばタミフル耐性種が生まれ、やがて人-人感染を普通のこととしてしまうかもしれない。
さて2001年時点において著者の心配は、日本にはいってくるところよりも、はいった後にある。
「感染症に対する対策があまりにも水際対策に偏り過ぎている点だ。空港でのチェックがときに行き過ぎと思えるほどに厳重なのに対して、いったん国内に侵入してしまった感染症に対する対策はほとんど取られていないような気がする」
この本が書かれてから8年、日本においても鳥インフルエンザ対策は取られてきてはいる。しかし、すでにいつ起こってもおかしくないと言われる感染爆発に対して、医療機関や官民に十分な体制ができているとは到底思えない。
「いつわれわれは準備を完了するのだろうか」そんなことを考えさせられた一冊であった。