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高山文彦(ノンフィクション作家)が解説書『吉村昭が伝えたかったこと(文芸春秋 2013年)』で述べた昭和三陸大津波(1933年)の記念碑についての名言 [今週の防災格言314]

time 2013/12/16

高山文彦(ノンフィクション作家)が解説書『吉村昭が伝えたかったこと(文芸春秋 2013年)』で述べた昭和三陸大津波(1933年)の記念碑についての名言 [今週の防災格言314]


『 安心は慢心に通ずる。迷信は人を怠惰にする。 』

髙山文彦(1958~ / ノンフィクション作家 代表作『火花 北条民雄の生涯』)

格言は解説書『吉村昭が伝えたかったこと(文芸春秋 2013年)』収録の現地ルポタージュ『「三陸海岸大津波」を歩く』より。

曰く(昭和三陸大津波から70年を迎えた平成15年3月3日に「津波防災の町」を宣言した宮古市田老町の記念碑文について)―――。

いまとなっては虚しく感じられてしまうけれども、田老に生きる人びとの「挑戦」の覚悟は本物であったと思う。

吉村氏の本にもあるとおり、田老の人びとは熱心に避難訓練を重ねてきた。広い避難道路も完成させ、地震と津波をただちに感知して町民に知らせる先端技術も完備していた。

しかし安心は慢心に通ずる、とあえて言ってみる。明治昭和の死者がもっとも伝えたかったのは、そのことであったろう。

昭和の津波のとき、大勢の人が死んだのは、たいていの家の者が地震で飛び起きておきながら、また蒲団にもぐり込んでしまったからだ、と吉村氏の本にある。「冬期と晴天の日には津波の来襲がない」と信じられ、多くの老人たちがそれを口にし、家族は安心して床に就いたのである。

この箇所を読んだとき、私はやりきれない気持ちになった。時代が時代だし、晴天とはいえ零下10度にも凍てついた真夜中のことだから、蒲団にもぐり込みたくなる気持ちもわからないではないが、迷信は人を怠惰にする。

われわれが科学の力で築きあげてきた文明も、これと同じように信じられてきたのではないだろうか。いまや福島の原発事故の恐怖が、そのことを私たちの胸に突きつけている。原発は安全という一大キャンペーンを疑いつつも、たったいまの快楽を継続させるために、疑う心を忘れようとしてきた。

しかし田老の「万里の長城」は、そうではなかったと信じたい。田畑をひらく土地もなく、海にしか生きられぬ人たちは、せっかくの美しい景観をいちじるしく損ねる巨大な建造物を打ち建ててまで、そこに暮さねばならなかった。記念碑の決意は、津波襲来のそのときまで揺らいだことなどなかったはずなのだ。

「しかし、自然は、人間の想像をはるかに越えた姿をみせる。(中略)その場合でも、頑丈な防潮堤は津波の力を損耗させることはたしかだ。それだけでも、被害はかなり軽減されるにちがいない」と吉村氏が言うように、いまや三陸から関東沿岸にかけて存在していた防潮堤の三分の二が消失しているが、これがなければもっと多くの犠牲者を出していたのは確実だろう。

高山文彦(たかやま ふみひこ / 本名 工藤雅康)氏は、宮崎県高千穂町出身のノンフィクション作家。宮崎県立高千穂中学、高千穂高等学校を経て、1977(昭和52)年、法政大学文学部哲学科に入学。探検部で活躍する。1981(昭和56)年に大学中退し、その後、製薬会社やNTV映像センター勤務を経て大下英治の事務所に入り、1992(平成4)年に独立。『死者が語る佐川急便事件(「プレジデント」1993年2月号)』や東海大学病院安楽死事件を扱った『ドキュメント安楽死(「新潮45」1994年2月号)』で注目され、1995(平成7)年、1998(平成10)年には雑誌ジャーナリズム賞・作品賞を受賞。ハンセン病と闘いながら逝った作家北条民雄を描いた『火花 北条民雄の生涯(1999年)』)』で第31回大宅壮一ノンフィクション賞、第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『霞が関 影の権力者たち(1996年)』『水平記 松本治一郎と部落解放運動の一〇〇年(2005年)』、神戸の酒鬼薔薇事件を追った『「少年A」14歳の肖像(1998年)』『水の森(2001年)』『エレクトラ 中上健次の生涯(2007年)』『大津波を生きる 巨大防潮堤と田老百年の歴史(2012年)』など多数。

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<防災格言編集主幹 平井 拝>

 

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